アルファ・ロメオ・ジュリア2.0ターボTi(FR/8AT)
熱き血潮を取り戻せ 2022.07.06 試乗記 新生「アルファ・ロメオ・ジュリア」がデビューしてからはや7年。ファンの期待を一身に集めて登場したFRのスポーツセダンは、いまいち下馬評どおりの人気を得ていないようだ。味わい深く走りもいいこのクルマのなにが問題なのか? 古参のアルフィスタが試した。そんな時代もあったねと
アルファ・ロメオといえば、かつては胸躍るスポーティーカーの代名詞だった。今流に言えば、ちむどんどん。大げさな話ではない。セダンにしろクーペにしろスパイダーにしろ、「アルファ」や「ロメオ」と呼ぶだけでちょっとうれしくなり、一度でもそのステアリングを握った者同士であれば、オーナーでなくとも走りやデザインの魅力について語り合ったものである。………なっつかしーなー!
筆者は1996年、この業界に某自動車雑誌の編集部員として入り込み、クルマ好きとしてちょうど多感な時期に、こうしたアルファの洗礼を受けた。ドイツのツーリングカーレース、DTMに外国勢として単身「155 V6 Ti」で乗り込み、「メルセデス・ベンツ190E 2.5-16 Evo2」をブチ負かして一気に名を上げた、ちょっと後の話である。DTMはFIA格式のITC(国際ツーリングカー選手権)に統合され、それもコストの高騰から程なく終了してしまったが、日本ではまだその余波が残っていたうえ、市販モデルとしては155の後継となる「156」がデビューして大ヒット。さらにはCセグメントでも「145」が「147」に代替わりして、むしろ一般的な人気は加速した。
ちなみに筆者は『GTロマン』(西風著)の影響をモロに受けており、所属編集部の「エンスーさんいらっしゃい!」的な性格もあって、「GT1300ジュニア」という1968年式のクーペを怖いもの知らずで手に入れた。それこそが、“段付き”と呼ばれた初代ジュリアだった。いや正確には、廉価版の“ジュニア”だったけど。そして「やっぱアルファ・ロメオはFRっしょ!」なんて当時のアルフィスタたちに軽くケンカを売りながらも、最終的には肩を組みながらドイツ車をさかなにして、盛り上がっていた。
そんな、本当にマンガみたいな時代があったのだ。だから、今ジュリアを取り巻く状況は、正直かなり物足りない。当のジュリアだって、じくじたる思いだろう。
前作「159」の失敗から旧フィアット(現ステランティス)は一念発起して、アルファ・ロメオの再興を目指した。フェラーリ株を売り、マセラティとの共用パーツを増やし、あの手この手で金策をしてこのジュリアを仕立て上げた。新規で「ジョルジョプラットフォーム」をこしらえて、執念で後輪駆動への回帰を果たしたわけだから。
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ラインナップの変遷にみる怪しい雲行き
しかし残念ながら、現行ジュリアの登場から7年がたった今でも、アルファ・ロメオはかつての栄光を取り戻してはいない。ステランティスいわく日本における2021年の販売は対前年比+40%(2341台)を記録したというけれど、そもそもが少ない。直近のライバルであるべきBMWは、同年「3シリーズ」だけで8663台を売り上げている。
どうしてだーーーーーー!?
……今回試乗したのは、現行ラインナップで最もベーシックなモデルとなる「2.0ターボTi」。“Ti”は初代ジュリア セダンにつけられた往年のグレード名称であり、「Turismo Internazionale」(ツーリング・インターナショナル)を意味している。ヨーロッパの国々を走り回れる、快適なツーリングセダンですよ、という意味合いだろう。
あれっ? ジュリアのベーシックモデルって、「スプリント」ではなかったか? 調べてみると、そもそも2021年6月の時点でジュリアはラインナップが整理されており、ベースグレードは廃盤になっていた。それが今回「Ti」の名前で、ちょっとした化粧直しと装備のアップグレードを経て再びラインナップされていたのであった。
ちなみに上位モデルの「ヴェローチェ」は、シリーズ全体の仕様変更によってやはり外観が磨き上げられ、走りの面ではリミテッドスリップデフと19インチタイヤがおごられるなど装備の充実が図られたものの、後輪駆動をベースとした4WD版「Q4ヴェローチェ」はラインナップから外されたままだ。510PSを誇る「クアドリフォリオ」が健在なのには少しホッとしたが、なんだか全体的には残念な雲行きだ。
ステランティスは2021年末に発表した次世代戦略において、アルファ・ロメオのロードマップに言及。コンパクトSUV「トナーレ」でブランド初のハイブリッド/プラグインハイブリッドモデルを投入し、その後は完全電動化に舵を切ると宣言したばかりだ。終わりの見えているガソリンモデルのグレード名をコロコロ変えて小手先のリニューアルを図ったり、日本で数が出ないモデルを整理したりするのも、仕方のないことなのだろう。
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乗れば実直で味わい深い
そんな経営側の都合に翻弄(ほんろう)されつつも、ジュリアの走りそのものはとても落ち着いている。
エンジンルームに縦置きされる2リッター直列4気筒ターボは、最高出力200PS/4500rpm、最大トルク330Nm/1750rpmと、同クラスの過給機付きエンジンとしてはごく平凡な内容だ。しかし、吸気バルブまわりを油圧機構で制御して1750rpmという極めて低い回転数で最大トルクを生み出し、カバレッジの広い8段ATでこれを紡ぐ走りは極めて実直。全域が実用トルクでほどよく満たされており、ベーシックモデルのエンジンとして、その役目をきっちり果たしている。
総アルミ製の軽量な4気筒エンジンを搭載するシャシーは、まさに絶品といえる味わいだった。ちなみに試乗当日はそこそこの雨が降っており、さらにミドシップのスポーツカー「アルピーヌA110」が同伴するというこの上ない悪条件。しかしそんな逆境など、ジュリアはものともしなかった。A110と乗り比べても魅力が色あせないどころか、距離を重ねるほどにその味わいが深みを増していったのである。
やはりそこには、ラテンの血が流れているのだろう。ジュリアの乗り味や身のこなしにも、アルピーヌに通ずる“コシ”があるのだ。今回のお色直しで得た18インチタイヤをバネ下できちんと履きこなしながら、気持ちよい乗り心地を実現している。
ギア比が11.8:1のラック&ピニオンと、操舵感の軽い電動パワーステアリング(EPS)の組み合わせは、生真面目なドライバーなら怒りだしそうなほど過剰にクイック。しかし、これには街なかでの操作性を極力軽くしたいという狙いがあるように思う。ヨーロッパのちょびヒゲ生やした兄ちゃんが、ドアに片ひじをつきながら運転する。そんなよい子はマネしちゃいけないドライビングスタイルにはもってこいなのである。
ちなみに、高速巡航時はADAS(予防安全・運転支援システム)のボタンを押せばステアリングがきちんと据わり、LKA(レーンキーピングアシスト)が効いて直進性が保たれるから、走行安定性はなんら問題ない。そう、今回の仕様変更ではベーシックグレードにもADASが標準装備になったのだ。
そして「いざ走らん!」と気合を入れるときは、ロータリーダイヤルを回して「アルファD.N.A.ドライブモードシステム」を「Dynamic」に入れる。さすればEPSがグッと落ち着き、エンジンおよびトランスミッションのマネジメントも先鋭化される。
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あと5年したら再評価されるかも?
いやいやいや。その走りは、あきれるほどにピュアである。基本どおりの操作を突き詰めていくほどに、ジュリアは美しくターンインしてくれる。足まわりがしなやかなのにロールが少なく、かつ重心を低く感じるのは、ロールセンターの低さからか。わずかに前下がりと感じられるそのロール軸と、軽いフロント軸重。これを例のクイックステアで切り込めば、恐ろしく少ない舵角でターンが決まる。
それは決してスポ根ドライビングではなく、踊るようなリズム感だ。ドリフトだけがFRの醍醐味(だいごみ)じゃない。そう語る資格が、このジュリアTiにはある。
こんなジュリアが、どうして今ひとつブレイクしないのか?
理由はさまざま考えられるが、ジュリアには大衆をかき立てる“エモさ”が足りないのだと思う。確かにこのデザインは耽美(たんび)的だが、どうにも“ジュリア”という愛らしくも血の通った名前がイメージできない。名乗るならアグリーにしろプリティーにしろ、もっと目立つデザインとするべきだった。そう、「BMW 3シリーズ/4シリーズ」のように。もしくはセダンがコンサバでも、ちゅうちょせず「ジュリア クーペ」を送り出して、カンフル剤を市場に投入するべきだったと思う。
そしてもうひとつは、やっぱりエンジンだ。アルファ・ロメオはジュリアが登場した当時、環境性能に対してばか正直に対応しすぎたと思う。古いファンならご存じのとおり、アルファ・ロメオは156の世代まで「ツインスパーク」と呼ばれる4気筒と、珠玉のV6エンジンを持っていた。この2つのエンジンに言えるのは、どちらもパワーがその魅力ではなかったということだ。このマルチエアでも、自然吸気エンジンのような官能性は無理にしても、モード切り替えでもう少し乗り手のアドレナリンをほとばしらせるような努力はできたはず。少なくともジュリアとほぼ同時期に登場したA110が、いまだに豪快なバブリングサウンドをさく裂させていることを考えると、なにかやれることがあった気がする。
かように文句を一通り言った後で、こう締めくくるのも気が引けるが、ジュリアTiは素晴らしいスポーツセダンだ。きっとあと5年もすれば、アルファ・ロメオのラインナップがすべてEVとなり、ジュリアのよさも再認識されることだろう。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュリア2.0ターボTi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1865×1435mm
ホイールベース:2820mm
車重:1590kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:200PS(148kW)/4500rpm
最大トルク:330N・m(33.7kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)255/40R18 95W(ピレリ・チントゥラートP7C2)※ランフラットタイヤ
燃費:12.4km/リッター(WLTCモード)
価格:554万円/テスト車=560万1050円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<Alfa Romeo>(4万1800円)/Alfa RomeoオリジナルETC車載器(1万9250円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:269km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:320.8km
使用燃料:32.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)/10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。