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スズキの底力、日産の不運…… コロナ禍からの回復で自動車各社の明暗が分かれた理由

2020.11.09 デイリーコラム 佐野 弘宗

国内4社が黒字回復を果たす

この2020年10月末、トヨタとホンダ、スズキ、スバルの9月における世界生産台数が、同月としては過去最高となった……と報じられた。具体的にいうと、トヨタの2020年9月の世界生産は約84万2000台で、前年同月比で11.7%プラス。以下、ホンダが約47万3000台(+9.9%)、スズキが約29万3000台(+19.1%)、そしてスバルが約9万6000台(+13.0%)だった(カッコ内はすべて前年同月比)。繰り返しになるが、これらはすべて各社にとって9月としては過去最高記録だそうである。

そして、11月に入ってからは自動車各社の2020年度の上半期(4~9月)の決算報告が相次いでいる。4~6月の第1四半期は新型コロナウイルスの影響で、どの自動車メーカーも例外なく歴史的大打撃を受けたことはいうまでもない。同四半期はトヨタとスズキだけがギリギリで赤字を回避(この2社の経営はやっぱりタダモノではない)した以外は、すべて赤字に転落してしまった。

ただ、4月からまずは中国市場が、そして7月ごろからはアメリカ市場も、多くの経済アナリストの予想を上回る急回復を見せた。ご承知のように、3~5月は世界中の自動車工場が生産を止めていたので、販売店の在庫も底を尽きかけており、今は中国とアメリカ市場向けのクルマをフル生産してバックオーダーをさばいている状態だそうだ。日本メーカーのみならず、ゼネラルモーターズ、フォード、フィアットクライスラーという“デトロイトスリー”も、アメリカ市場の回復を背景に、現在はフル稼働状態なんだとか。

冒頭の4社は上半期決算で黒字回復となったほか、本年度の通期見通しも大幅に上方修正している。なかでもトヨタとホンダ、スバルは、この中国とアメリカの急回復の恩恵をもろに受けたカタチである。ちなみに、同じくアメリカ市場に強く依存するマツダも、過去最高とまではいかなくとも、9月の世界生産は約12万7000台で、ついに前年比プラス(+1.0%)に転じるといううれしい兆候を見せている。

トヨタ自動車の2021年3月期 第2四半期決算説明会において、業績を説明する豊田章男代表取締役社長。
トヨタ自動車の2021年3月期 第2四半期決算説明会において、業績を説明する豊田章男代表取締役社長。拡大
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他社とは異質な強さを見せるスズキ

黒字回復を果たした冒頭4社の中でも、異質なのはスズキだ。知っている人も多いように、スズキの四輪事業は、すでにアメリカからも中国からも撤退している。しかも、3~5月の生産台数への打撃は他社より大きかったくらいだ。

スズキは3月にまず海外生産台数が3割以上も急落(前年同月比、以下同じ)したのをはじまりに、4月には海外が-97%となったのに加えて、国内も-65%と壊滅的なダウンとなった。5月も海外-93%、国内が約半減と超低空飛行が続いた。しかし、6月にまず国内生産が+15.3%のV字回復を果たすと、7月には国内が+25.5%とさらに上昇して、海外生産も-25%まで復活。海外が-2%まで戻した8月には、ついに合計の世界生産が前年比プラスへと転じて、冒頭の9月の過去最高へとつながっていったのだった。

スズキ最大の海外事業といえば、知る人ぞ知るインド市場だが、じつはインドもここ数カ月の回復が急である。インドの自動車市場は7月に前年比9割強まで戻すと、8月に+14%に復調したと思ったら、例年、祝祭シーズン特需にわく9月は+24.6%と爆発的な回復を見せた。それがスズキの業績に効いているのは間違いない。

さて、われらが日本市場は中国やアメリカ、インドのようにはいかず、9月時点でも前年比マイナスのままだった。国産各社の9月の国内販売は(スズキ以外で)もっとも好調なトヨタですら-8.2%だったのだ。10月は国内市場もついにプラスに転じた(めでたい!)が、春先のとんでもない落ち込みを考えれば、それを相殺するようなドカーンとした反動がどこかでほしいところだ。

しかし、例外が1社だけあった。それがスズキなのだ。スズキの国内販売も4~5月は前年比で半減以上も落ち込んだものの、7月には早くも+11.4%の急回復となり、8~9月も前年比プラスを維持。他社がまだ大幅マイナスにあえいでいた夏の段階で、驚くことに、スズキだけが前年比プラスを記録していたのだった。

スズキの主戦場である軽自動車市場を見ると、7~9月に前年比プラスの販売台数を記録した主要軽乗用車は5車種あって、そのうち4車種がスズキなのだ。ちなみに、その4車種とは「スペーシア」「ハスラー」「ジムニー」「アルト」である(残る1車種は「ホンダN-WGN」。前年の記録がない「日産ルークス」や「ダイハツ・タフト」は除く)。実際、スズキの世界生産が最終的に過去最高につながったのはインド効果だが、そのインドより先に回復基調に乗ったのは国内生産だった。こうした点を見ても、スズキは異質だ。

メインマーケットであるインドが力強い回復を見せるスズキ。この10月にはグジャラート工場が累計生産100万台を達成するという、記念的なニュースも飛び込んできた。
メインマーケットであるインドが力強い回復を見せるスズキ。この10月にはグジャラート工場が累計生産100万台を達成するという、記念的なニュースも飛び込んできた。拡大
依然として厳しい状況にある日本市場においても、「ハスラー」など複数の車種で前年比増の販売を実現。黒字化を果たした国内4社の中でも、スズキの回復の仕方はかなり異質といえる。
依然として厳しい状況にある日本市場においても、「ハスラー」など複数の車種で前年比増の販売を実現。黒字化を果たした国内4社の中でも、スズキの回復の仕方はかなり異質といえる。拡大

日産がメインマーケットの復調に乗れなかった理由

ここまでで取り上げた以外の日産、三菱、ダイハツは、依然、世界生産で前年比マイナスが続く。ただ、海外生産がインドネシアとマレーシアのみであるダイハツは、国内生産がプラスに転じたこともあって、9月の世界生産は前年比-4.9%まで盛り返している。

それに比べると、日産と三菱はさすがに春先よりは減少幅は縮小したものの、前年比で2ケタ%マイナス(日産は-20.0%、三菱-39.9%)のままというのはなんとも厳しい。とくに日産は中国とアメリカでの事業規模が大きいのに、両市場の回復祭りにまったく乗れていないのは残念すぎる。その最大の理由は、同社の商品ラインナップだろう。

たとえば、アメリカ日産では売れ筋のSUVやピックアップで明らかに古参機種が目立ちはじめたのに加えて、「ローグ(日本名エクストレイル)」という量販SUVがまさかのモデルチェンジ期に当たって、この好機に実質的な空席状態なのが痛い。

ただ、日産はアライアンスの三菱ともども、腰を据えてラインナップ全体を再建中だ。今後はローグやフロンティア(あるいは三菱の「エクリプス クロスPHEV」)が世に出回る以外にも、新型車の計画がいくつかある。自動車産業は良くも悪くもギャンブルめいた部分もある商売であり、2~3車種のヒットを飛ばせれば、大メーカーでも業績は急回復する。がんばれ日産、三菱!

(文=佐野弘宗/写真=スズキ、トヨタ自動車、日産自動車/編集=堀田剛資)

コロナ禍からの回復のタイミングで「ローグ」(写真)というドル箱のモデルチェンジが重なってしまった日産。再建による業績の回復に期待である。
コロナ禍からの回復のタイミングで「ローグ」(写真)というドル箱のモデルチェンジが重なってしまった日産。再建による業績の回復に期待である。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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