第226回:老イケメンはW111メルセデスで美魔女を誘う
『また、あなたとブッククラブで』
2020.12.17
読んでますカー、観てますカー
超高齢ラブコメ映画が大ヒット
かつて民放の連続ドラマはラブコメが定番だった。『のだめカンタービレ』『やまとなでしこ』『花より男子』など、高視聴率番組がいくらでも思い浮かぶ。しかし、最近では医療ものや刑事ものに押され、いささか存在感が薄くなっているようだ。大きな話題になったのは『逃げるは恥だが役に立つ』ぐらいだろうか。ひねったところで『おっさんずラブ』もあった。
ハリウッド映画のラブコメもたくさんヒットした。『メリーに首ったけ』『ブリジット・ジョーンズの日記』『ノッティングヒルの恋人』などである。今でも多くのラブコメ映画が作られているが、日本ではあまり人気にならないようだ。2018年にアメリカでは2億ドル超えで興行収入ランキング1位となった『クレイジー・リッチ』も、日本では1億円ほどしか稼ぎ出していない。
『また、あなたとブッククラブで』は、正統派のラブコメである。ただし、若い男女の恋バナではない。ヒロインを演じる女優は67歳から82歳まで。4人の年齢を合計すると、297歳である。高齢化社会にふさわしい設定なのだ。相手役の男性も老人だが、みんなパワフルでエネルギッシュである。枯れた恋ではなく、情熱的に愛を求める人たちばかりだ。
高齢者しか登場しない恋愛映画がヒットするのか心配になるかもしれないが、アメリカでは大いに需要があるようだ。2018年に公開された時は、『デッドプール2』、『 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に次ぐ3位というロケットスタート。興行収入は70億円に達したという。
官能小説専門の読書会
出演者がとんでもなく豪華である。ダイアン・キートン、ジェーン・フォンダ、キャンディス・バーゲン、メアリー・スティーンバージェンというスターがずらりと並ぶ。いずれも華やかな美魔女で、4人全員がアカデミー賞かゴールデングローブ賞を獲得しているというから実力も十分だ。対する男優陣は、アンディ・ガルシア、ドン・ジョンソン、リチャード・ドレイファス。老いたりと言えども、イケメンの面影を残す。
ブッククラブというのは読書会のこと。ダイアン(ダイアン・キートン)、ヴィヴィアン(ジェーン・フォンダ)、シャロン(キャンディス・バーゲン)、キャロル(メアリー・スティーンバージェン)の4人が若い頃から続けている。最初に取り上げたのは、エリカ・ジョングの『飛ぶのが怖い』。1973年の出版だから、50年近く前だ。日本でも翻訳され、“赤裸々に女性の性を描いた”として話題になった。
彼女たちの読書会は、どうやらそういう傾向の本を選択的に取り扱っているらしい。ジェーン・オースティンを読んで文学の香り高い会話をするような穏健な集まりではないのだ。最新の課題図書は『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』。映画にもなった官能小説である。主人公は女子大生だが、彼女たちは自らの経験に照らし合わせて熱心に読書に励むのだ。
時を同じくして、4人それぞれが新たな愛の物語を見つける。ダイアンは40年連れ添った夫を亡くしたばかり。ヴィヴィアンは若い頃交際して結婚を断ったアーサー(ドン・ジョンソン)と再会。シャロンは離婚してから浮いた話はゼロ。キャロルは結婚生活を続けているものの、夫とは心が通わない。
男たちの活力源はバイクとクルマ
1970年代から1980年代にかけて青春を送っていた人々なので、その頃の価値観を保ち続けている。お上品に振る舞ったりはしない。冒頭から下ネタ全開だ。欲望を肯定するのは当然で、ためらいというものがない。とてもここには書き記すことのできないワードが飛び交う。勝手にしてくれてかまわないが、あまりに品がないのでちょっと引いてしまう場面もある。『セックス・アンド・ザ・シティ』の高齢者版と考えればいいだろうか。
男たちの性格と行動も古典的だ。キャロルの夫ブルース(クレイグ・T・ネルソン)はすっかり元気をなくしてしまっているが、バイクを整備することでなんとか活力を維持しようとしている。バイアグラよりも効果があるみたいだ。彼は「ホンダCB750」を乗りこなすことで1972年の情熱を取り戻すことができた。クルマやバイクがデートアイテムとして輝いていた時代である。
ダイアンが飛行機の中で出会って恋をするミッチェル(アンディ・ガルシア)は、彼女を別荘のあるセドナに連れていく。日本のお笑い芸人と歌姫がお忍び旅行して話題になった恋愛の聖地だ。そういう場所に女性をエスコートするのに、ありきたりのクルマで向かうわけにはいかない。彼が選んだのは「メルセデス・ベンツ280SEカブリオレ」。若い頃には憧れのクルマだっただろう。
オートバイやクルマの選び方に、しっかりとした裏付けがある。小道具の使い方が適当な映画が面白かった試しはなく、この作品が真面目に作られていることは確かだ。もちろん、描かれるのは妄想である。男女どちらにとっても都合のいい話だ。娯楽映画なのだからそれでいい。老人映画は枯淡の味わいでなければならないなんて決まりはないのだ。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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