BMWアルピナB3リムジン アルラット(4WD/8AT)
スーパーな実用派セダン 2021.03.23 試乗記 圧倒的な速さを誇るアルピナ各車だが、目指すところは「毎日使える実用性」であり、それは最新の「B3」にもきちんと継承されている。先代モデルからの進化点と変化点を、ワインディングロードで探ってみた。ステアリングホイールが太い!
「日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)2020-2021」で初参加にして新型B3が「パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたせいか(ドイツでも同様の賞を受賞)、アルピナににわかに注目が集まっているようだ。といってもアルピナが拡大路線に転じたわけではなく、何度も言うが今も年間生産台数は最大で1700台程度。エンスーの多い日本は多い時でそのうち2割が上陸するというお得意さまである。
ここで、あれ? と思った人は事情通。日本COTYは年間500台以上という販売台数制限があったのだが、いつの間にか撤廃されたらしい。聞くところによると、販売台数を公表していないテスラが以前部門賞に選ばれたことでなし崩しになったのだという。ちなみにBMW MやメルセデスAMGは今では年間13万台規模である。アルピナはすぐ手に入らない、という不満もたまに耳にするが、まさしく桁が違う少量生産車であることを理解しなければならない。
それはさておき、新型は走りだすや、これまでに経験したことのあるB3、さらには他のBMWアルピナ各車とも異なる第一印象にいささか戸惑った。フルデジタルのメーターを含めたインストゥルメントパネルの仕立てはBMWの最新世代と同じ、ブルーとグリーンの差し色がアルピナであることを主張するものの、何よりもステアリングホイールのリムが太いことになじめない。BMWのMならばいざ知らず、とうとうアルピナもはやりの太いリムに宗旨替えしたのだろうか、と首をかしげながら走り続けると、乗り心地もはっきりと以前より硬派である。
路面の凸凹をガシッと踏みつぶして進むMモデルに対して、あんなに大きなホイールに極薄のタイヤを履いているにもかかわらず、あくまでしなやかでジェントルな乗り心地がアルピナ各車の最大の特長だった。それこそ従来は首都高速レベルの速度でも、わずかな上下動をシュッと抑える、たおやかで洗練された足さばきがMとの大きな違いだったはずなのだが、新型はタウンスピードではビシッとソリッドだ。もちろんゴツゴツとした直接的な入力や振動などは皆無だが、快適だと感じるスイートスポットがずっと高速度域に移動したようだ。
少しずつ変化するアルピナ
現行G20型「3シリーズ」をベースにしたBMWアルピナB3は、海外ブランドが軒並み欠席した2019年の東京モーターショーで世界初公開されたアルピナの主力モデルである。今ではディーゼルターボのSUVもラインナップする同社だが、やはり看板モデルは玄人好みの端正で控えめな高性能セダンだろう。
その端正さにはそぐわないと感じたのがソーセージかハムのように握りが太いステアリングホイールである。まさかBMWの「Mスポーツステアリングホイール」をそのまま採用したのかと思ったが、ブルーとグリーンのステッチで縫い上げられたレザーステアリングはアルピナ専用のものだ。日本における総代理店としてもう40年の歴史を持つニコル・オートモビルズのエンジニアに聞いてみたところ、ステアリングホイールにセンサーが内蔵されているために、簡単に独自のものを使用するわけにはいかないのだという。
最新のBMWは限定条件下の高速道路で“ハンズオフ”できる機能が付いているが、そのためにセンサーが必要なのである。それでも、実はBMWのものより固く巻き直してあるという。言われてみれば、ブニュと柔らかい感触ではなく、ずっと締まった手触りだが、やはり太すぎて扱いにくいことは否めない。そのせいかどうか、この新型からスイッチトロニックのボタンのほかにシフトパドルもオプションで選べるようになったという。
ホイールとタイヤについても従来とはちょっと異なる。アルピナの代名詞ともいえるのが繊細な20本スポークのアルピナ・クラシックホイールだが、新型B3には鋳造19インチのアルピナ・ダイナミック星型ホイールが標準で、鍛造20インチホイールはオプションとなっている。タイヤはどちらの場合でもピレリと共同開発したという「Pゼロ」で、“ALP”の文字が刻まれた専用品である。もっとも、これまでのアルピナは事実上タイヤは1種類であり、それに合わせ込むのがアルピナの強みだと、以前にアンドレアス・ボーフェンジーペン社長から直接聞いたことがある。それなのに新型ではチョイスがある。どちらかといえば、別の機会に乗った19インチホイールを履いた試乗車のほうが若干ではあるが当たりがマイルドだった。
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珠玉の直6ツインターボ
エンジンはこれまで通り3リッター直6ツインターボだが、N55型をベースにしていた従来型から一新され、既に「X3 M/X4 M」に積まれているS58型(ボア×ストローク=84×90mmの2993cc)をベースにしている。これは連続高速走行時の熱負荷などを考えた選択という。つまり、本気でトップスピードを維持するようなカスタマーに対応すべく、最も頑丈なベースユニットを選んだらしい。アルピナがこだわる例の最高巡航速度にはそういう意味がある。
既に発表されている通り、新型「M3」にも搭載される同ユニットは、「M3コンペティション」用で最高出力510PS/6250rpm、最大トルク650N・m/2750-5500rpmを生み出すが、B3用は462PS/5500-7000rpmと700N・m/2500-4500rpmを発生する(従来型「B3 S」は440PSと660N・m)。もちろん、ECUをいじった程度のものではなく、アルピナ独自のタービンや吸排気系、冷却系を採用した専用ユニットである。
トランスミッションは例によってZFと共同開発のスイッチトロニック付き8段AT、0-100km/h加速は3.8秒(従来型のB3 Sは4.2秒)、最高巡航速度は303km/hという(サンルーフ前のリップは300km/h以上のモデルにだけ装着されるらしい)。毎日使える高性能をテーマとするアルピナは以前からトルク重視だが、新型B3は3000rpmぐらいからトルクの奔流がもう一本加わるように盛り上がる。といってももちろんそこは単純なドッカンターボなどではなく、そもそもハーフスロットルでも十分以上に鋭くたくましいレスポンスで応えてくれるし、あくまでパワーの湧き出し方はジェントルで滑らかだが、踏めばドライバーをその気にさせるダイナミックな性格を備えている。
ダイナミックだが実用的
これだけのトルクを発生するからには当然“アルラット”、すなわちAWDのはずなのだが、ワインディングロードでも4WDを感じさせる立ち居振る舞いを見せない。またツインターボやAWDを示すエンブレムはボディーのどこにもなく、センターコンソールのプレートにも単に「BMW ALPINA B3 Limousine」と刻まれているだけだ(B3にはワゴンの「ツーリング」も用意されている)。もしかすると? と思ったのだが、もちろん4WDで後輪駆動モードなども備わらない。
サーキット走行も考慮するM各車に対して、これまでのアルピナはグランドツアラーとしての快適性やスタビリティーをより重視しており、ハンドリングのキャラクターもそれに沿ったものだったが、新型B3はコーナーで追い込んでもフロントタイヤが音を上げず、ギリギリまで接地感を伝えてくれる。最後まで前輪を手がかりにコントロールできるこの懐の深さはなんとなく後輪駆動時代のM3や「M5」に似ているように感じたものである。
従来に比べればはっきりスポーティーでダイナミックに進化したB3だが、どんな場面でも扱いにくさは(リムの太さ以外は)見当たらない。本気でガンガン使うために日常的な高性能を求めるヘビーなスポーツドライバー向きという本質は少しも変わっていないのである。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMWアルピナB3リムジン アルラット
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1825×1445mm
ホイールベース:2850mm
車重:1840kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:462PS(340kW)/5500-7000rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)255/30ZR20 92Y XL/(後)265/30ZR20 94Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:9.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1229万円/テスト車=1502万9000円
オプション装備:右ハンドル(29万円)/ボディーカラー<アルピナ・ブルー>(43万円)/アルピナラグジュアリーパッケージ(79万8000円)/アルピナセーフティーパッケージ(59万8000円)/ヘッドレスト<「ALPINA」ロゴ入り>(6万8000円)/オートマチックトランクリッドオペレーション(7万円)/ガラスサンルーフ(16万4000円)/サンプロテクションガラス(9万円)/ランバーサポート(3万5000円)/シートヒーティング(6万円)/テレビチューナー(13万6000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1万6107km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:385.3km
使用燃料:48.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.0km/リッター(満タン法)/8.2km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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