リンカーンMKX(4WD/6AT)【試乗記】
頼りになるアメリカン 2011.04.12 試乗記 リンカーンMKX(4WD/6AT)……631万5225円
見た目から中身まで刷新された、リンカーンブランドのSUV「MKX」に試乗。果たして、その仕上がり具合は?
迫力満点の顔つき
「リンカーンMKX」は「キャデラック・エスカレード」とともに、アメリカン・プレミアムブランドのSUV/ミニバン市場の一角を形成する。
このクルマの場合、CUV(クロスオーバー・ユーティリティ・ビークル)なる区分けを打ち出している。昔のステーションワゴンに近い、(スポーツというよりも)乗用車的なところが、CUVと呼ぶ意図なのかもしれない。
新型はマイナーチェンジの範疇(はんちゅう)にあるものの、この「スプリット・ウイング・グリル」と名付けられた、大胆なクロームメッキグリルは何よりも新しいリンカーンの個性を表現している。アメリカ車にしては比較的シンプルな造形を採用するフォードにあって、これは迫力満点ではある。この顔がバックミラーいっぱいに迫ってきたら、ほとんどのクルマはすぐ進路を譲るに違いない。もちろんそこを重視するユーザーからは、拍手喝采だろう。そういう意味でも、今回の変化は大成功といえる。
6段ATはプロの味
退けたあとのダッシュも俊足。パワートレインは一新され、新開発のV6エンジンは3.7リッターに排気量を少し増やし、これまでより40psアップの309ps を発生する。
フォードが走り屋に支持されるのは、単にエンジンパワーで驚かすのではなく、ATのギア比を巧妙に分割させることで効率よく加速する点においてだ。いたずらに段数を多くするのではない。6段であっても、それが玄人(くろうと)ウケする配分になっている。回転落差が少なく滑らかであることはもとより、加速Gの感覚が途切れないことが、より一層のパワー感を生み、加速を爽快なものにしている。
6速のステップアップ比は1.56-1.56-1.30-1.41-1.35となっていて、1から3速までは均等配分。昔のフォードは下3段が1.3台と接近していて、実にスポーティだった。あの感動こそ薄らいだものの、均等配分による息の長い加速感は受け継がれている。上の3段は、接近させて段数を持て余している他車の例に比べ、適切。もちろん日本の高速道路でも普通にトップギアが使える。ちなみに、6速で100km/h巡航時のエンジン回転数は、約1900rpm。“燃費ギア”でありながら、高トルクによる加速力も十分だ。
3段位まとめて落とさないとエンジンブレーキが効かない設定のクルマに比べて、5速もそれなりの減速度が期待できる。この辺が、フォードらしいプロフェッショナルな味付けと言える。
センターコンソールに生えるセレクトシフトのATレバーそのものは、ややクラシックな印象を拭えない。今どきの、ステアリングホイール上のパドルシフトがベストとは言えないが、一度レバーでマニュアルモードを選んでから目的のギアポジションをセレクトするという、2段階操作を必要とするところが“1世代前”。ただ、「+−スイッチ」がシフトレバーの横にあり、握ったまま操作できる点は救いだ。
古さと新しさの好ブレンド
「リンカーンMKX」には、古い部分と新しい部分が混在する。イグニッションキーをそのまま残すのも、今となっては貴重でもあるが、これをありがたがるのは、われわれシニア世代だけかもしれない。しかし若いユーザーでも、カードなど持っているだけで済む簡単な方法を、便利と認める人ばかりではない。「これから自動車を動かすんだ……」という、心構えや“神聖な儀式”のような感覚を大事にする人には、やはりキーという形体はいまだに重い意味をもつのだ。
そのうえでこのクルマは、車外からのエンジンスタート、ステアリングヒーターやエアコンを走行前に準備することも可能だ。
若いユーザーにもこびている箇所も、ふんだんにある。センサーを指先でなぞるだけでエアコンの風量やカーオーディオの音量を変えられるなど、繊細にして微妙な調整を可能にしている。センターコンソールの液晶ディスプレイに映し出される多彩な機能は、画面にタッチすればいい、直接的で分かりやすいものだ。画の表示方式そのものも、情報伝達能力の点ですぐれている。この手のものには苦手意識のある人でも、見れば分かる式によく考えられているのだ。
どんな道でも安心感
こうした大きなボディでは隅々まで神経を張りめぐらせる必要があるが、通常のドアミラーでは死角となりやすい部分にはブラインド・スポット・ミラーが組み込まれているし、リバースに入れればリアビューカメラが作動、ソナーによる障害物警報などもある。そうした現代の便利装備のたぐいは、至れり尽くせりである。
そんなリンカーンMKXの最たる魅力は何だろうかと考えると、5人でゆったりくつろげる快適な移動空間、ということになるだろうか。
アメリカ車はもとよりおおらかな性格をもつが、その中でもこの大きなワゴン車は、ハイウェイクルーズだけでなくいろいろなステージで能力を見せてくれそうだ。
4WD車としての性能は試す機会がなかったが、通常の走行でもスムーズな挙動に終始し、突然の雨や雪そして泥濘(でいねい)地などでも全自動で窮地を脱することのできる安心機構を備える。180mmの最低地上高も、また大いに頼もしい。630万円の価格は決して安くはないが、このクラスの車を選ぶ裕福なユーザーは、MKXを比較対象リストから外せないだろう。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。