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東京モーターショー開催中止! その“これまで”と“これから”を考える

2021.04.30 デイリーコラム 林 愛子
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これからというときに……!

2021年の東京モーターショー(TMS)の開催中止が発表された。個人的にはこのタイミングでの中止発表は英断だったと思う。

新型コロナウイルス感染症のワクチン接種は始まったが、秋までに収束するとは考えられない。となると、入場制限を含めた感染症対策は必須で、もし会期中に新たな感染拡大が起これば“無観客”の可能性もある。オリンピックの聖火リレーを見ても、無観客開催による有形無形の損失は明らかだ。出展企業の立場からすれば、本格的な準備を始める前に主催者が中止を宣言してくれてホッとしているのではないだろうか。

一方で、コロナ禍とは無関係に、モーターショー自体が転換点を迎えていたこともまた事実だと思う。

TMSは1954年開催の第1回全日本自動車ショウに始まり、その後は日本の経済成長と呼応して規模を拡大していった。第29回(1991年)には入場者数が200万人を突破したが、その後はバブル崩壊で経済が失速。それでも2000年代は規模を維持できていたが、リーマンショック後に開催した第41回(2009年)は欧州勢が出展を見合わせ、規模が一気に縮小。入場者数は61万人にまで減った。

第46回(2019年)は豊田章男自動車工業会会長が旗振り役となって入場者数130万人超と、かつての規模感を回復。その成功を受けて「想像をはるかに上回るようなモノを2年後のモーターショーで、また提案したい」と語っていた豊田会長が、2021年の開催中止を発表したのだ。重い決断だったことだろう。

東京モーターショーのオフィシャルサイト。2021年4月22日に東京モーターショーの開催中止が決定して以来、その告知文が追記されはしたものの、サイトの体裁は前回(2019年)のまま。開店休業状態である。
東京モーターショーのオフィシャルサイト。2021年4月22日に東京モーターショーの開催中止が決定して以来、その告知文が追記されはしたものの、サイトの体裁は前回(2019年)のまま。開店休業状態である。拡大
筆者が日本自動車工業会の資料をもとに作成した、東京モーターショーの入場者数の推移。オイルショックやバブル崩壊、リーマンショックといった経済危機に直面するたび、数字が大きく落ち込む傾向が見られる。経済状況と展示の内容次第では、その復調は期待できる?
 
筆者が日本自動車工業会の資料をもとに作成した、東京モーターショーの入場者数の推移。オイルショックやバブル崩壊、リーマンショックといった経済危機に直面するたび、数字が大きく落ち込む傾向が見られる。経済状況と展示の内容次第では、その復調は期待できる?
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イベントとして限界なのか?

モーターショーというイベント自体が転換点を迎えていたと考える理由は2つある。

1つ目は市場の変化だ。TMSはデトロイト、フランクフルト、パリ、ジュネーブと並ぶ世界5大モーターショーの1つだといわれてきたが、近年は北京・上海・広州の中国3大モーターショーを筆頭に、新興国のモーターショーの存在感が増していた。圧倒的なバイイングパワーを持つ市場でショーが盛り上がるのは必定。それはかつて日本の経済成長とともにTMSが成長してきたのとよく似ている。

2つ目の理由は自動車の進化の方向性が、モーターショーという体感型イベントと必ずしもマッチしなくなってしまったことだ。自動車のカタチや速度など物理的な変化が魅力を左右していた時代はショー会場で見て楽しむことに価値があったが、自動車の進化がITなくして語れなくなったいま、必ずしもきらびやかなステージは必要なくなっている。その変遷をもう少し詳しく見ていこう。

当初のモーターショーは庶民にとって憧れの自動車が実際に展示されていることに意味があった。来場者はずらり並んだ自動車を眺めながら、これを手にしたらどんなに楽しいかと、夢を膨らませていたことだろう。この“実車を見て楽しむイベント”を「モーターショー1.0」とすれば、“エンターテインメント性に満ちたイベント”へと変化した状態が「モーターショー2.0」。奇抜なコンセプトモデルや華やかな衣装のコンパニオン、本格的なステージショー、大きなカメラを抱えたファンはモーターショー2.0を象徴する存在だといえる。

その次の大きな変化は1990年代末、「環境」という概念を避けて通れなくなった時代に起こる。従来の環境問題は主に排ガス対策だったが、1997年に気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開催され、そこにトヨタが「プリウス」を間に合わせ、論点は二酸化炭素の排出抑制へと変化。TMSは“燃料電池車やバイオ燃料、リサイクルなどの新しい技術を見せる場”として機能していく。これが「モーターショー3.0」。

しかし、2000年代に入ると、技術開発においてITの比重が格段に上がる。また、別の文脈では社会における自動車の存在意義の変化が鮮明になっていた。若者たちにかの名コピー「いつかはクラウン」という価値観が通用しなくなってきたのだ。そこに起きたのがリーマンショック。これを機に、自国以外のモーターショーへの出展取りやめが特別な行為ではなくなる。日本では欧州のハイエンドモデルが辛うじて「いつかはクラウン」的な存在だったが、TMSで実車が見られなくなってしまった。

記念すべき初の東京モーターショーたる「第1回全日本自動車ショウ」の様子。展示車両267台中、乗用車は17台と、商用車中心の見本市だった。
記念すべき初の東京モーターショーたる「第1回全日本自動車ショウ」の様子。展示車両267台中、乗用車は17台と、商用車中心の見本市だった。拡大
多くの人が、憧れの目で展示車に群がっていた1960年代の東京モーターショー。写真は1963年開催の第10回全日本自動車ショーで、15日間の会期で来場者数は121万6000人を数えた。
多くの人が、憧れの目で展示車に群がっていた1960年代の東京モーターショー。写真は1963年開催の第10回全日本自動車ショーで、15日間の会期で来場者数は121万6000人を数えた。拡大
トヨタの量産型ハイブリッド車「トヨタ・プリウス」(初代)。同モデルが出展された1997年の第32回東京モーターショーでは、全般的に、目前に迫る21世紀を先取りした展示が見られた。
トヨタの量産型ハイブリッド車「トヨタ・プリウス」(初代)。同モデルが出展された1997年の第32回東京モーターショーでは、全般的に、目前に迫る21世紀を先取りした展示が見られた。拡大

ここから先は「モビリティーショー」

この衝撃は世界5大モーターショーにも等しく及び、日本勢も海外ショーへの出展を見合わせる事例が増えていく。さらに自国開催のショーであっても予算の大幅な削減ははた目にも明らかで、フランクフルトモーターショーは前々回あたりから広大な会場を持て余していた。先般、ドイツ自動車工業会は「2021年はIAA(国際モーターショー)をフランクフルトではなくミュンヘンで開催する」と発表したが、ダウンサイジングは間違いないだろう。

このままではモーターショーという文化の灯が消えてしまうのではないか……。多くの関係者はそう思ったに違いない。

一方で、2018年から自工会のトップになった豊田会長は気を吐いた。第46回(2019年)は主会場の東京ビッグサイトが東京オリンピック・パラリンピックの準備のために半分以上使えなかったが、単純なダウンサイジングは選択せず、トヨタの「MEGA WEB」やシンボルプロムナード公園などにも会場を広げて、さまざまな仕掛けを施した。とりわけ印象深いのは「モビリティー」「オールインダストリー」「街」など、それまでのモーターショーではあまり見かけなかったキーワードが前面に打ち出されていたことだ。実際、自動車の進化の方向性は車両単体ではなく、モビリティー(移動性や移動そのもの)へと、視点が変わっていた。

このようなモビリティー視点のモーターショーは「モーターショー4.0」に相当するといえよう。2021年の第47回も、この流れを踏襲する予定だっただろうと思う。

その中止を発表した豊田会長は「次回はさらに進化した『東京モビリティーショー』としてお届けしたいと思っていますので、今後ともご支援をよろしくお願いいたします」と述べている。モーターショーが進化した先では、モーターという言葉もなくなるのかもしれない。

(文と図説=林 愛子/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)

2019年の第46回東京モーターショーでは、日本と世界の未来を示す「FUTURE EXPO」なるイベントも開催された。約60社の企業・団体が参加し、さまざまな体験型のエキシビションを展開した。
2019年の第46回東京モーターショーでは、日本と世界の未来を示す「FUTURE EXPO」なるイベントも開催された。約60社の企業・団体が参加し、さまざまな体験型のエキシビションを展開した。拡大
“未来のモビリティー”も第46回東京モーターショーの見どころのひとつ。それらを実際に運転できる体験スペースも設けられていた。
“未来のモビリティー”も第46回東京モーターショーの見どころのひとつ。それらを実際に運転できる体験スペースも設けられていた。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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