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うわさはあれど姿は見えず “アップルカー”は世界を変えるか?

2021.05.28 デイリーコラム 清水 草一

そんな騒ぐほどのことじゃない!?

FCAとグループPSAが合併し、ステランティスという名前になったと思ったら、そのステランティスと、Apple(アップル)ブランドの製品の製造を数多く請け負っているフォックスコンが、「モバイルドライブ」を設立したという。これにより、「アップルカーの量産が実現するかも」とうわさされているらしい。

「アップルが自動車業界を破壊する」とか、「アップルがクルマをつくればテスラ以上の激震」とか一部で言われているが、自動車業界への新規参入が増えれば増えるほど、クルマは魅力的になるはずで、自動車業界は栄えこそすれ、破壊されることはない。

第一、肝心のアップルカーの中身がサッパリ見えない。十中八九、EVなのでしょうが(笑)、それ以外はサッパリ。見えないのは当たり前だ。まだ中身がないのだから。これ以上の「幽霊の正体見たり枯れ尾花」もなかろう。

仮にアップルカーが、言われているように「車輪の付いたスマホ」であったとしても、私はなにも驚かない。なぜなら私はすでに、「スマホの付いた車輪(クルマ)」に乗っているからだ。

スマホは車内で、ナビと音楽プレーヤーとして有効に活用させてもらっている。その立場が逆転し、車輪の付いたスマホになっても、大して変わらない気がするのだ。結局使うのはナビと音楽再生だけなので……。

もちろん、アップルカーが来年あたり、いきなりレベル5の自動運転を実現していれば、「すげえ!」とはなるが、アップルだって魔法使いじゃないから、そういうことはないだろう。だとすれば、アップルカーが出たとしても、それほど大きなイノベーションはないはずだ。

すでにひとり1台スマホを持つのが当たり前なのだから、そこにクルマが合体しようがしまいが、大差ないじゃないですか! むしろ、合体することで不便になるかもしれない。私は現在の分離できるスマホと車輪のほうがいいです。

インターネットで「apple car」などのキーワード検索をしてみると、おびただしい数の“アップルカー”予想図を目にすることができる。ビジネスニュースを中心に、新組織「モバイルドライブ」の設立はアップルカー実現に向けての一歩という見方は多いが、車両についての情報は、まだまだ想像の域を出ない。
インターネットで「apple car」などのキーワード検索をしてみると、おびただしい数の“アップルカー”予想図を目にすることができる。ビジネスニュースを中心に、新組織「モバイルドライブ」の設立はアップルカー実現に向けての一歩という見方は多いが、車両についての情報は、まだまだ想像の域を出ない。拡大

そこにユーザーニーズはあるか

「いや、アップルカーのイノベーションは、おそらくシェアリング機能にある!」と言う方もいるかもしれないが、カーシェアリングが革命的に便利になると言われても、これまた中身がサッパリ見えない。「いや、デザインだ!」という説もあるだろう。それならわかる! でもそれはイノベーションじゃなくセンセーションだよね。

クルマにとって「残された最後の1ピース」は、運転からの解放。それ以外は大したイノベーションじゃない。

例えば「ハーイ、メルセデス」をはじめとする、会話するクルマには本当に失望した。あんなの、全然大して便利じゃなかった。これからの自動車のマストたる「コネクテッド」は、いまのところ全部そんな感じだ。

それよりは、集中ドアロックのほうが、100倍はイノベーティブだった。その証拠に、今どき集中ドアロックのないクルマはほとんどないけど、コネクテッド機能のないクルマはゴマンとある。

最後の1ピースたる自動運転機能だって、集中ドアロックに比べたらマスト度ははるかに低い。誰もが「運転なんか面倒だから絶対したくない!」と思っているわけではないですから。むしろ免許を持っていれば、「運転くらい自分でするよ」という人が7割くらいを占めるのではないか? 自動運転への要望度が高いのは、運送業界や福祉業界など一部に限られる。

つまり、私の結論はこうなる。

「どこがアップルカーを出そうと、それで自動車業界がひっくり返ることはなく、選択肢がひとつ増えるだけ」

私が考える、真の「残された最後の1ピース」は、「ほぼぶつからないクルマ」だ。これが出たら、コストとの兼ね合いで、最終的には集中ドアロックと同じくらい普及するだろう。もしやアップルカーってそれだったりして!? だとしたら激震!

(文=清水草一/編集=関 顕也)

写真は東京モーターショー2019に出展された、トヨタのコンセプトカー「LQ」。レベル4の自動運転を前提とした100%電気自動車で、AIエージェントによる安全で快適な移動や、乗員とのコミュニケーションも想定されていた。アップルカーが実現するなら、このようなクルマになるのかどうか。
写真は東京モーターショー2019に出展された、トヨタのコンセプトカー「LQ」。レベル4の自動運転を前提とした100%電気自動車で、AIエージェントによる安全で快適な移動や、乗員とのコミュニケーションも想定されていた。アップルカーが実現するなら、このようなクルマになるのかどうか。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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