KTM 1290スーパーアドベンチャーS(6MT)/1290スーパーアドベンチャーR(6MT)
本気のマルチプレイヤー 2021.06.16 試乗記 オンオフを問わない走りが特徴の「KTM 1290スーパーアドベンチャー」がフルモデルチェンジ。KTM製アドベンチャーモデルのフラッグシップは、全面刷新を経てどのようなマシンに進化したのか? ハイテクで武装した3代目の実力を試す。エンジンはスムーズで上質
アドベンチャーモデルの世界的な人気はとどまるところを知らない。各メーカーから次々に魅力的なモデルが登場している。そんななか、KTM 1290スーパーアドベンチャーがフルモデルチェンジされた。車体やエンジンを全面的に見直してポテンシャルを向上させ、セミアクティブ電子制御サスペンションやアダプティブクルーズコントロール(ACC)を装備。走りのパフォーマンスだけでなく、ストリートでの使い勝手や快適性も大きく向上させたのである。
今回はストリート、クローズドのテストコース、そしてオフロードで1290スーパーアドベンチャーを走らせたインプレッションをお届けすることにしよう。
ストリートで試乗したのは、オンロードでの快適性を重視した「スーパーアドベンチャーS」。新しいエンジンはクランクのフライホイールマスを増やし、低回転域での特性を改善しているというので試しに回転を落としてみたが、やはり3000rpmを切るとギクシャクしてしまう。しかし、クランクマスアップの効果はトップスローの回転数を下げるのではなく、実用域での乗りやすさとフィーリングの改善に貢献していた。3000rpmの上ではエンジンがとても滑らかに回るのだ。
低中速トルクがとても太いエンジンだが、フライホイールが大きくなって過敏さが抑えられたことに加え、電子制御スロットルのマネジメントの出来もいいため、“ドンツキ”もなくとても乗りやすい。スロットルを開ければ思ったとおりに加速してくれる。ロングツーリングなどでのんびり走っていても疲れない特性だ。加えて、3000rpmから6000rpm付近までは振動もなく上質なフィーリングである。この快適性と扱いやすさは、新型スーパーアドベンチャーの大きな魅力だろう。
オンロードで感じられる可変サスの恩恵
さらに回転を上げていくと、6000rpmくらいからトルクが盛り上がり、レブリミットまではライダーの腕が伸び切りそうな勢いで加速。ビッグツインらしい豪快な走りを楽しめる。
それと同時に、パワーが出るに従ってシートとハンドルには少し振動が発生し、さらに回転を上げるとタンクもビリビリ震えだす。その振動は硬質で、振幅もそれなりに大きいのだが、そもそもこの回転域で走るときはライダーも“やる気”になっているし、加速力がスゴいために意識は前方に集中している。高回転での振動は、実際に走っているときはほとんど気にならなかった。
当日はウエットでの試乗になったけれど、それでもオンロードでのハンドリングの素晴らしさはよく理解できた。車高の高いアドベンチャーモデルは、日常での速度域ならオンロードバイクよりも軽快で乗りやすい。ただし、サスペンションストロークが長いからピッチングモーションが大きく、激しい加減速では姿勢変化が大げさになってしまうのが難点だ。ここで、新型スーパーアドベンチャーに装備された電子制御のセミアクティブサスペンションが威力を発揮する。過度なノーズダイブを抑え、このネガを完全に消し去ってくれるのだ。ハードなブレーキングでもフォークの沈み込みが少ないので、安心してコーナーに飛び込んでいける。
スポーツモード搭載のACCにみるKTMらしさ
テストコースで行われたACCの体験は、感動の連続だった。四輪車ではおなじみの、設定速度の域内で前走車に追従し、自動で加減速する機能である。
体験時のコースは土砂降りで路面が滑りやすく、水煙とシールドの水滴で視界も極端に悪いという、難しいシチュエーションだった。しかも、先導するクルマはなかなか思い切った動きをする(インカムで事前に動きは連絡されているが)。100km/hでのコーナリング中に70km/hまで減速されたときは、思わず自分でブレーキ操作をしそうになったほどだ。しかし、マシンはすぐに先導車の動きを感知。エンジンブレーキだけでなく摩擦ブレーキも使って、適正な車間距離を保ってくれたのである。
以前、ツーリングで雨の高速道路を走っていたとき、コーナリング中に前のクルマが突然減速して緊張したことがあったが、このシステムならそんなシーンにも対応してくれるわけで、高速道路を長時間移動するロングツーリングではライダーの疲労を軽減してくれることだろう。
ただ、KTMのシステムは前走車との車間距離を時間で測定しているので、速度域が下がるにつれて、車間が詰まることになる。この制御に慣れていないと、前走車が減速したとき若干不安になるので、最初は車間距離(車間時間?)の設定を長めにしておいたほうがいいかもしれない。
「KTMらしいな」と思ったのは、ACCにも「スポーツ」モードがあること。加減速がよりダイナミックになるのだ。前走車が隣の車線に移り、前を走るクルマがいなくなると、ACCは設定した速度まで自動で車速を上げていくのだが、スポーツモードでは、こんなときに気持ちのよい加速を披露してくれる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
車体もサスもエンジンも秀逸
バイクを換え、「スーパーアドベンチャーR」で臨んだオフロードでの試乗は、粘土質の路面が雨で滑りやすくなっている最悪のコンディションだった。正直なことを言えば、大排気量のアドベンチャーモデルにこんな所で乗りたくないと思ったほどだ。ところがこのマシン、驚くほどに走りやすかったのである。
走りだしてすぐに感じたのは車体バランスのよさだった。絶大な安心感につながる着座位置の低さに加え、車体が重さをまったく感じさせないのだ。スタンディングの状態ではマシンの動きが軽快なうえ、フロントの安定性も高く、今回の試乗中もフロントから滑り出してしまうことは一度もなかった。
R専用に仕立てられたサスペンションの動きも秀逸。今回のコンディションではフルストロークするような場面はなかったが、それでも初期の動きの滑らかさとショック吸収性の高さは感じられた。まるで乗り心地のいいSUVでオフロードを走っているような安心感と乗り心地のよさなのである。
試乗はライディングモードをオフロードモードにセットして行ったが、そのモードでのパワーデリバリーも秀逸だった。「ハイパワーのビッグツイン」と聞いて予想されるようなガツガツしたトルクの出方はせず、とてもスムーズで洗練されている。
バイクの出来栄えにKTMの意気を感じる
トラクションコントロールの利き方も素晴らしく、ツルツルに滑りやすいところでスロットルを開けても、リアタイヤがわずかに流れるような状態をキープしたまま、コーナーを立ち上がっていける。極端に滑りやすい路面でもまったく後輪が滑らないと、リアにトラクションがかけられず、逆にマシンのコントロールが難しくなってしまうから、オフロード走行に慣れているライダーなら、トラクションコントロールの設定を変えて、さらにアグレッシブな走りを楽しむこともできるだろう。
オンロードでのパフォーマンスや、扱いやすさと快適性、そしてオフロードでの走破性と、そのすべてを高次元でバランスさせた最新技術には脱帽だ。これだけいろいろな電子制御が入ると、スイッチ類の配置やモニターの表示が複雑でわかりにくくなってしまいそうなものだが、このマシンでは大型のモニターにイラストなども使ってわかりやすく情報が表示されるため、操作で迷うこともない。細部まで気が配られている。
ソフトウエアもハードウエアも新しくなったスーパーアドベンチャーは、このカテゴリーでナンバーワンになるのだという、KTMの意気込みが感じられるマシンだった。
(文=後藤 武/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
![]() |
テスト車のデータ
KTM 1290スーパーアドベンチャーS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1557mm
シート高:849/869mm(調整式)
重量:227kg(燃料除く)
エンジン:1301cc水冷4ストローク V型2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:160PS(118kW)/9000rpm
最大トルク:138N・m(14.1kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.7リッター/100km(約17.5km/リッター、WMTCモード)
価格:239万円
KTM 1290スーパーアドベンチャーR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1577mm
シート高:880mm
重量:228kg(燃料除く)
エンジン:1301cc水冷4ストローク V型2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:160PS(118kW)/9000rpm
最大トルク:138N・m(14.1kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.7リッター/100km(約17.5km/リッター、WMTCモード)
価格:259万円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。