何がライバルと違うのか? 「ゴルフ」が“基準のクルマ”とされるワケ
2021.07.12 デイリーコラム“開拓者”はほかにいる
1974年に誕生した初代から数えて8代目となる「フォルクスワーゲン・ゴルフ」が、本国デビューから約1年半を経てようやく日本上陸を果たした。そのゴルフを紹介する際の常套(じょうとう)句が「FFハッチバックのベンチマーク」。筆者もその通りだと思うが、いかにしてゴルフはベンチマークになり得たのだろうか?
ゴルフはFFハッチバックのベンチマークではあるが、そのカテゴリーにおけるパイオニアではない。ではFFハッチバックの元祖は何かといえば、1961年に誕生した「ルノー4(キャトル)」ではないかと思う。日本でも日野自動車でライセンス生産された「ルノー4CV」の後継モデルだが、RRだった4CVとは一変してルノーの乗用車としては初めてFFを採用。「シトロエン2CV」の影響を受けつつ、さらなる実用性と多用途性を追求した結果が、テールゲートを備えた5ドアボディーとFFの組み合わせだったのである。
元祖FFハッチバックではあるが、エンジン縦置きFFだったルノー4に対し、その登場から3年を経た1964年には、今日の小型・中型実用車の大半が採用しているエンジン横置きFFとテールゲート付きボディーを備えた「アウトビアンキ・プリムラ」がイタリアからデビューする。
今はなきメイクであるアウトビアンキは、当時フィアットの子会社だった。プリムラの開発者はフィアットのダンテ・ジアコーザで、エンジンと変速機を東西方向に直線上に並べ、左右のドライブシャフトは不等長という、その後のFF車の主流となった、いわゆるジアコーザ式FFレイアウトを初めて導入していたのだ。
しかもボディーはテールゲートを備えた2ドア、すなわち3ドアハッチバックだった。初代ゴルフの登場より10年も前に、このレイアウトを実現していたダンテ・ジアコーザは、あらためて偉大なエンジニア/デザイナーだと思う。だが、この新機軸をいきなり本家の主力車種で採用するのは危険と判断したフィアットは、市場調査と実地テストの役目を担ったパイロットモデルとして、傘下のアウトビアンキからプリムラを送り出したのだった。
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割り切り方がすごかった
さらに3年後の1967年には、フランスからもエンジン横置きFFのハッチバックである「シムカ1100」が登場する。シムカは戦前にフィアットのライセンス生産から始まり、1960年代にクライスラー、1970年代にプジョーの傘下となった後に消滅したメーカーだが、1100はフィアットの息がかかった最後のモデル。短いノッチの付いた3ドア/5ドアハッチバックボディーに、ジアコーザ式レイアウトのFFパワートレインを組み合わせていた。
アウトビアンキ・プリムラやこのシムカ1100などによる市場調査を経て、1969年にようやく本家フィアットからジアコーザ式レイアウトを採用した初のFF車となる「128」がデビューする。だが、これはオーソドックスな4ドアセダンで、FFハッチバックはさらに3年後の1972年に登場する「127」の3ドア仕様まで待たねばならなかった。
その1972年には、「ルノー5(サンク)」もデビュー。フランスの実用車には珍しい2ドアにテールゲートを加えた3ドアハッチバックで、駆動方式はルノー4以来の縦置きFFだが、実用性とシャレた雰囲気を併せ持ったコンパクトカーとしてヒットした。
同年には日本でもエンジン横置きFFハッチバックが誕生している。前年の1971年に軽乗用車の「ライフ」で、日本で初めてジアコーザ式レイアウトを導入したホンダがリリースした初代「シビック」。当初は2ボックスながら独立したトランクルームを備えた2ドアと、テールゲートを備えた3ドアの2本立てだった。
それから2年後の1974年、いよいよ初代ゴルフが登場する。結論から言ってしまえば、ゴルフには、先に挙げたエンジン横置きFFハッチバックの先駆たちが多少なりとも抱えていた、自己の存在へのためらいのようなものが一切感じられなかった。プリムラや127、シビックにはラインナップされていた、テールゲートを持たないボディー形式は用意せず、シムカ1100のような短い尻も持たない。当初から2ボックスの3ドア/5ドアハッチバックと割り切って企画・開発されていたのである。
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感服するほどの完成度
フォルクスワーゲンという大メーカーが、「タイプ1(ビートル)」に代わる、決して失敗の許されない主力車種として企画したゴルフ。後から登場するぶん、先行していた同種のモデルの弱点をツブすことができる点は有利とはいえ、その成り立ちは当初から完成度が高かった。
ジウジアーロ率いるイタルデザインによるボディーは、直線基調でシンプルながら明快で、小型車らしい愛らしさも感じさせるデザイン。外寸はコンパクトだが、全高を高めにとり、効率的なパッケージングによって広い居住空間とラゲッジルームを備えていた。
クロスフローの1.1リッター/1.5リッター直4 SOHCエンジンは、車重800kg前後の軽い車体を活発に走らせるに十分な性能を持ち、燃費も良好。フロントがストラット、リアがトーションビームというシンプルな足まわりを持つシャシーは、FFの悪癖を感じさせない軽快な操縦性と乗り心地を両立させていた。
国内導入された最初期の「5ドア LS」(1.5リッター)をフルテストした『CAR GRAPHIC』誌は、1975年6月号に掲載されたテストリポートの要約にこう記している。
「VW連合の新世代を担うべく小型FWDサルーン。シロッコと共通の4気筒ユニット、ランニング・ギアによる活発な動力性能。優れた燃費。操縦性も高水準。サーボなしのディスク/ドラム・ブレーキは耐フェード性高いが踏力はやや過大。5ドアボディーは室内、荷物室ともに極めて広く、乗り心地は良好。あらゆる用途に適した小型高性能サルーン」
絶賛に近い高評価である。やはり初期輸入ロットの一台を購入した故・徳大寺有恒氏が、動力性能、実用性や多用途性などを含めた総合性能の高さに感服。そのゴルフ体験を評価軸として国産車を斬りまくった『間違いだらけのクルマ選び』を翌1976年に上梓(じょうし)したところ、大ヒットして一躍時の人となったのは、よく知られるところだ。
他メーカーも追いつけ追い越せ
いうなれば、生まれながらにしてFFハッチバックの魅力を最大限に発揮した真打ち、決定版として登場した初代ゴルフ。これでヒットしないわけはなく、デビューから8年後の1982年には生産台数500万台を突破した。
ゴルフの成功を見た他社も黙っているはずはなかった。いち早く対応したのは元祖FFハッチバックのプライドを持つ(?)ルノーで、レイアウトはイシゴニス式だが、同社初のエンジン横置きFFとなる「ルノー14」を1976年にリリース。シムカを買収したクライスラーも、1977年にシムカ1100に代えて「クライスラー・シムカ オリゾン」を発売した。
いっぽうジアコーザ式FFレイアウトを生み出したフィアットが、主力車種である4ドアセダンの「128」に代わって3ドア/5ドアハッチバックの「リトモ」をリリースするのは1978年。翌1979年にはそれをベースとする「ランチア・デルタ」を加えた。ドイツ国内のライバルはというと、オペルが「カデット」をFFハッチバックに改めるのは1979年、同様に「フォード・エスコート」がFFに転換するのは1980年まで待たねばならなかった。
遠く離れた日本はどうだったかというと、1977年にゴルフよりひとまわり小さいものの、ユニークな直3エンジンを使った「ダイハツ・シャレード」が、翌1978年には「三菱ミラージュ」が登場。同年には「日産パルサー」もデビューするが、FF方式は初代「チェリー」以来のイシゴニス式で、当初は2ボックスだがテールゲートのない4ドアセダンだった。1979年には「ホンダ・シビック」が2代目に進化し、1980年にはFFに転換した「マツダ・ファミリア」が登場。“赤いファミリア”が社会現象として語られるほどのヒットとなり、日本でFFハッチバックが市民権を得るのに大きく貢献した。
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まったくブレないコンセプト
続々とフォアロワーが登場した40年前の時点で、すでにゴルフは「FFハッチバックのベンチマーク」になっていたと言っていいと思う。打倒ゴルフを目指したそれらのモデルだが、いずれも牙城を崩すには至らず、そのうちにゴルフは初のフルモデルチェンジを迎え、1983年に通称ゴルフ2が登場する。以後8代目となる今日まで、ゴルフは進化を続けてきた。途中3ボックスのセダンやカブリオレ、ワゴンなどのボディーバリエーションが加わったり、現行モデルではついに3ドアがラインナップから落とされたりしたが、2ボックスのFFハッチバックという基本コンセプトは8世代、半世紀近くにわたって不変である。
周囲を眺めてみれば、歴史のある車名という点では、シビックはゴルフよりも先輩であり、現在でもCセグメントのハッチバックという意味では、同級のライバルといえよう。だが、その変遷をたどってみれば、少なからぬ紆余(うよ)曲折を経ており、日本ではハッチバックが不在だった期間もある。他社も似たようなもので、車名が変わったものもあれば、シビックと同様にハッチバックがラインナップから消えた時期があったりする。また同門の「アウディA3」のほか、「BMW 1シリーズ」や「メルセデス・ベンツAクラス」のような新たなライバルもあるが、当然ながらゴルフの歴史には遠く及ばない。
となれば、ゴルフが「FFハッチバックのベンチマーク」と呼ばれるのは、至極当然のことであろう。そしてこれから先も、ゴルフがFFハッチバックというスタイルで存続する限り、そう呼ばれ続けるに違いない。
(文=沼田 亨/編集=関 顕也)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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