フォルクスワーゲン・アルテオン シューティングブレークTSI 4MOTIONエレガンス(4WD/7AT)
見てよし 乗ってよし 2021.07.23 試乗記 フォルクスワーゲンのフラッグシップ「アルテオン」がマイナーチェンジ。注目はこの改良を機に登場したステーションワゴン「アルテオン シューティングブレーク」である。流麗なフォルムと実用性の高さをうたうニューフェイスの仕上がりやいかに。これがフォルクスワーゲン!?
2015年のジェネーブモーターショーで、フォルクスワーゲンがコンセプトカーの「スポーツクーペコンセプトGTE」を披露したときは、正直目を疑った。といっても、生で見たわけではないが、とびきりスタイリッシュな4ドアクーペがフォルクスワーゲンブースを飾るとは夢にも思わなかったからだ。
それだけに、まさか本当にデビューするなんて考えていなかったのだが、その2年後の同じジュネーブモーターショーの会場で、コンセプトカーのデザインをほぼそのまま再現するアルテオンが登場。同年の10月に日本上陸を果たした。
実車を目の当たりにして、同じフォルクスワーゲンであるにもかかわらず、主力モデルの「ゴルフ」とはまるで印象が異なるアルテオンに強い衝撃を受けたことをいまも思い出す。それ以来、私のなかでアルテオンは、ゴルフと一二を争うくらい好きなモデルになった。
そんなアルテオンがモデルチェンジのはざまで日本での新車販売を一時休止したときには、「このまま終わってしまうのでは」と心配していたが、ヨーロッパでのマイナーチェンジから遅れること約1年、新型の販売が開始されてひと安心。さらに、ルーフ後半を伸ばすことでワゴン風のデザインに仕立て上げたシューティングブレークが新たに加わり、完全復活を遂げたのはうれしいかぎりである。
そんなアルテオンから、今回は新着のアルテオン シューティングブレークを試乗することができた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
こじつけでもいいじゃないか
「メルセデス・ベンツCLSシューティングブレーク」の登場以来、ヨーロッパ勢に設定が増えているシューティングブレーク。もともとは2ドアクーペに広い荷室を与えたボディースタイルを意味していたが、4ドアクーペをベースにして、同じ手法でステーションワゴン風に仕立て上げたものもシューティングブレークと呼んでしまおうと“こじつけ”たのが、現在の流れであるのはご存じのとおり。メルセデスの「CLAシューティングブレーク」はもちろんのこと、ポルシェの「パナメーラ スポーツツーリスモ」や「タイカン クロスツーリスモ」も現代のシューティングブレークである。
4ドアクーペやその派生モデルである4ドアのシューティングブレークは、人によって好き嫌いが分かれるところだが、私自身はそのどちらも好きなジャンル。特に最近のモデルは、スタイリッシュなデザインとしながらパッケージングも優れており、「カッコいいけど使い勝手がいまひとつ」といった批判は、必ずしもあてはまらないのだ。
このアルテオンの場合、ファストバックでも後席の足元は足が組めるだけの余裕があり、ラゲッジスペースも後席使用時で563リッターを確保している。これがシューティングブレークになると、ルーフが後方に伸ばされたおかげで、後席のヘッドルームが拡大されたのがうれしいところ。
ラゲッジスペースは後席使用時の数字こそ565リッターとあまり変わらないが、後席を収納したときの容量も1557リッターから1632リッターへと向上し、ワゴンスタイルを採用したおかげで荷物の出し入れがしやすいなど、数字以上に使いやすい仕上がりになっている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
アナログ時計はなくなったが
ブラウンとブラックのコンビネーションカラーがスタイリッシュなナッパレザーのドライバーズシートに身を委ねると、マイナーチェンジ前とはずいぶん雰囲気が違うことに気づく。
コックピットのデジタル化がこのアルテオンでも進められ、ステアリングホイールやエアコンの操作パネルなどにタッチスイッチを採用したのが新型の特徴といえるが、センタークラスターの低い位置にあるエアコンの操作パネルは、調節のためにいちいち視線を落とす必要があり、以前のダイヤル式のほうが使いやすいと思った。ダッシュボードの中央に置かれていたアナログ時計も廃止され、デジタル化が進むのを手放しで喜べない私である。
この「エレガンス」グレードでは、ダッシュボードやドア内側にナチュラルなウッドパネルが配され、さらにステッチが施された人工皮革がそれを覆う。これまで以上に上質さが感じられ、トータルでは好ましい方向に進化したように思う。
さて、肝心の走りだが、2リッター直列4気筒ターボと7段デュアルクラッチギアボックスの組み合わせになるパワートレインは、マイナーチェンジ前と基本的には変わらず、最高出力が従来の280PSから272PSにわずかにダウン。しかし、数字とは裏腹に、エンジンは以前よりも活発さを増した印象だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
数字だけでは見えない進化
もともと低回転からトルクに余裕があった2リッターエンジンだが、新型では低中速域でアクセル操作に対するレスポンスが高まり、一般道でさらに扱いやすくなった。一方、高速道路で本線に合流するときなどは、4000rpmあたりから本来のパフォーマンスを発揮し、レブリミットまで力強い加速が続く。4WDの「4MOTION」のおかげでドライ路面はいうまでもなく、ぬれた路面でも姿勢を乱すことなく、安定した加速をみせてくれるのもなんとも頼もしい。
試乗したエレガンスグレードには245/35R20サイズのタイヤが装着され、荒れた路面ではバネ下の重さを感じることがあったが、標準装着されるアダプティブシャシーコントロール「DCC」が十分に仕事をし、乗り心地はおおむねマイルドでフラット感も十分。高速走行時の安定感も非常に高い。それでいて、実際のサイズよりもひとまわり小さく感じる軽快さも兼ね備えており、実に運転が楽しいクルマに仕上がっていた。
フォルクスワーゲンらしい実用性や堅実なつくりに加えて、他にはない華やかさを持つアルテオン シューティングブレーク。ファストバックのアルテオンとともに、ファン拡大に貢献してくれそうな一台である。
(文=生方 聡/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・アルテオン シューティングブレークTSI 4MOTIONエレガンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1875×1445mm
ホイールベース:2835mm
車重:1750kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:272PS(200kW)/5500-6500rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/2000-5400rpm
タイヤ:(前)245/35R20 95Y/(後)245/35R20 95Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.5km/リッター(WLTCモード)
価格:644万6000円/テスト車=698万5000円
オプション装備:ボディーカラー<オリックスホワイト マザーオブパールエフェクト>(13万2000円)/内装<フローレンスブラウン>(3万3000円)/ラグジュアリーパッケージ(29万7000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(7万7000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:687km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。