フォルクスワーゲン・アルテオンTSI 4MOTIONエレガンス(4WD/7AT)
カッコだけのクルマにあらず 2021.09.11 試乗記 フォルクスワーゲンのラインナップにおいて、他のモデルとは趣を異にする伸びやかなスタイリングが目を引く「アルテオン」。ブランドの旗艦を担う5ドアクーペは、マイナーチェンジでどのような進化を遂げたのか。上質な仕様の「エレガンス」で確かめた。あらためて感じるデザインの妙
アルテオンの源流は、先代「パサート」シリーズに設定されたコンフォートクーペ=「CC」にさかのぼる。セダンをベースにサッシュレスドアを与えた背の低いクーペフォルムの4ドア……といえば、1980年代に隆盛した日本車のキワ芸だったが、2000年代になってメルセデス・ベンツが「CLSクラス」でそれを再定義。市場で人気を博したことで他社の追従が激化した。そのなかでパサートCCは比較的早く登場し、実務的な印象の強いVWのラインナップにスペシャリティーカーとして華を添えてきたわけである。
アルテオンはパサートCCのコンセプトを継承しながら、同時に実用性の向上も果たすべくサッシュレス5ドアのハッチバックボディーを採用。カッコよさとの両立を狙っている。よしあしについては個人の感想というやつだが、今回のマイナーチェンジで追加された「シューティングブレーク」の出来栄えをみても、付け焼き刃ではなくかなり入念に練られたデザインワークであることは伝わってくる。
今回のマイナーチェンジでは、前後バンパーや灯火類、エキゾーストフィニッシャーなどが変更されたほか、エンブレム類も新CIにのっとったフラットデザインに変更。リアの車名エンブレムも、他の新型モデルと同じ字体に統一されている。
搭載エンジンは第3世代の「EA888」型2リッター4気筒直噴ターボで基本的には前世代と変わらないが、環境性能向上のため最高出力はわずかに削られ272PSに。350N・mの最大トルクは発生回転域が若干高回転側に振られている。組み合わされるトランスミッションは7段DSG、ドライブトレインは第5世代ハルデックスカップリングを介して、前後100:0をベースに最大50%の駆動力を後輪側に配分するオンデマンド4WDとなる。
機械式時計が懐かしい
「MQB」モジュールを採用するモデルとしては最大級の車格となるアルテオン。先代パサートのバリエーションモデル的な位置づけだったCCとは一線を画し、ホイールベースは現行のパサートよりさらに45mm長く、トレッドも違えるなどオリジナルモデルとしての色合いを濃くしている。後席使用時のトランク容量は563リッターを確保しており、これはパサートセダンと比べてもほぼ遜色ない。しかも後席をフォールダウンした状態では1557リッターと、追加されたシューティングブレークと比べても容量差は75リッターだ。少なくとも「載せる」については相当なポテンシャルを有していることがわかる。
では「乗せる」つまり後席居住性はどうかといえば、ホイールベースの長さが生きて前後席間距離は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)であるものの、流麗なファストバックフォルムの影響で、頭上空間はやや窮屈さが感じられる。この点、直接比較はできていないがシューティングブレークのほうがより平穏であることは間違いなさそうだ。ただし、これは身長181cmの筆者が座っての場合なので、平均的な日本人の体格であれば、大人の男性4人がきちんと座れるだろう。
内装の意匠変更は今回のマイナーチェンジにおいての一番のトピックだろう。ラップされたダッシュアッパーにはステッチが配され、その下部にはグレードに応じてサテンウッドやアルミのオーナメントが配される。空調パネルやステアリングのスイッチ類はフラットなタッチパネルに置き換えられ、9.2インチワイドスクリーンのインフォテインメントシステムはコネクティビティーやスマートフォンとの連携も強化されている。
エンジンを始動するとメーターナセルからヌーッとせり上がってくるのは、HUDのスクリーンだ。速度以外にナビの案内やADASの作動状況など、表示情報に不満はないが、視点的にも見栄え的にもウィンドウガラス投影への変更が望ましい。また、先にマイナーチェンジを受けたパサートと同様、センターガーニッシュ部に据えられるアナログ時計は撤去されてしまった。もちろん正確な時間はナビ画面等でも確認できるわけだが、いかにもなミニマルデザインにクルマのお国柄も垣間見えていただけに、もったいないと思う。ラ・サールの金時計を長年採用し続けたマセラティのように……というのは大げさかもしれないが、パサートに関してはそれが内装のアイデンティティーにもなりつつあっただけに残念だ。
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ワインディングが気持ちいい
試乗グレードは「エレガンス」ということで20インチの大径タイヤを履いていたが、乗り心地的には「時折、目地段差等で鈍い突き上げを感じることもあるか」というくらいで、見た目の印象から想像するほど凶暴なものではない。ただし波状舗装路のように入力が連続する場所では、バネ下のマスに足まわりが追従しきれず雑な振動が現れることもあった。運動性能的にもタイヤのコンプライアンスにちょっと引っ張られている感はあるので、下位グレードのひとつ小さな19インチで四駆のメカニカルグリップを生かしながら走ったほうが、このクルマらしい気持ちよさが得られるのではと思うところもある。
……と、そのくらい鋭いハンドリングでスポーツドライビングに応えてくれるのもアルテオンの美点だ。エンジンの回転フィールはトップエンドのドロップがわずかに強く感じられるが、パワーは十分以上で、1.7tになる巨体をグイグイと力強く引っ張ってくれる。ADASも世代が更新されており制御の質も向上しているから、持ち前の大きな積載量と相まって長距離ドライブにも連れ出したくなる。惜しむらくは日本仕様にディーゼルがないことだが、多少足の長さを我慢しても、アルテオンには山道で気持ちよく走りを楽しめるガソリンエンジンのほうが似合っているように思う。逆にパサートはディーゼルを選ぶが吉で、ロングツアラーとしての類いまれな真価を存分に発揮できる。
ここのところのVWは、モデルレンジの拡大途上でくだんのパサートCCや「シロッコ」などのスペシャリティーを投入してきたが、商業的には成功とはいえないところでとどまっている。さらに振り返れば「イオス」や「コラード」など、カッコいいVWはなかなか世に受け入れられない。お客さま的には「ビートル」や「ゴルフ」から発せられる清廉、実直な印象からなかなか離れられないのだろう。ブランドイメージというのは厄介なものだ。
でも、アルテオンはむやみにチャラいだけではなく、パサートに準じるほどのユーティリティーという実利がきちんと伴っている。悪環境に強い四駆というのもセリングポイントのひとつだ。見た目はしゅっと整ってるけど、仕事させるとやたら頼もしい。数があふれすぎて陳腐化するのもなんだが、細く長く受け入れられ続けてほしい骨太な一台だと思う。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・アルテオンTSI 4MOTIONエレガンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4870×1875×1445mm
ホイールベース:2835mm
車重:1720kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:272PS(200kW)/5500-6500rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/2000-5400rpm
タイヤ:(前)245/35R20 95Y/(後)245/35R20 95Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.8km/リッター(WLTCモード)/12.7km/リッター(JC08モード)
価格:624万6000円/テスト車=663万1000円
オプション装備:ボディーカラー<キングフィッシャーブルーメタリック>(3万3000円)/ラグジュアリーパッケージ<電動パノラマスライディングルーフ+プレミアムサウンドシステム“Harman Kardon”>(27万5000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(7万7000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1126km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:344.9km
使用燃料:30.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.3km/リッター(満タン法)/11.3km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。