ジープ・コンパス ロンジチュード(FF/6AT)
肩の力を抜いていこう 2021.08.18 試乗記 世界中で活躍するジープのコンパクトSUV「コンパス」がマイナーチェンジ。デザインをブラッシュアップし、装備を強化するなどの改良を受けた。装いも新たになった改良モデルの出来栄えを、中間グレード「ロンジチュード」で確かめた。ブランドの世界戦略を担う“羅針盤”
「レネゲード」と並ぶブランドのエントリーモデルにして、世界100以上の国と地域で販売されるコンパス。その名の通り、ジープのビジネス面においては羅針盤ともいえる重要な役割を果たしている。生産拠点はイタリア、中国、インド、メキシコ、ブラジルの5カ国で、日本向けは同じ左側通行であるインドのランジャンガオン工場から輸入されている。
今回のマイナーチェンジの主題を簡単に言えば、装備充実でお値打ち感アップということになるだろうか。その前にコンパスの位置づけをあらためて振り返ろう。
全長×全幅×全高=4420×1810×1640mm。コンパスの車格はCセグメント系SUVのど真ん中、もしくは気持ち小さいところにある。ちなみに寸法的にはBMWの「X1」にほど近く、「トヨタRAV4」よりは完全にひと回り小さい……といえば、その車格感が伝わるだろうか。街なかの込み入ったところまでを行動範囲とするクルマとしては、ギリギリ扱いやすいサイズに入りそうだ。が、最小回転半径は5.7mと同級モデルに対して若干大きめではある。
その車格に2.4リッターの直4自然吸気エンジンを組み合わせて、アイシン製の6段ATで前輪を駆動するこのロンジチュードの値段は385万円。今回のマイナーチェンジではヘッドライトがLED化され、インフォテインメントシステムのモニターが10.1インチに大型化、内装意匠が大きく変更されるなどのバージョンアップが施されている。
ちなみに、ベースグレードの「スポーツ」は、インフォテインメントのモニターが8.4インチに小型化され、アダプティブクルーズコントロールが省かれるなどの装備差がつけられて、お値段346万円。上位グレードの「リミテッド」は、ラインナップで唯一4WD+9段ATのドライブトレインを搭載し、レザーシートやプレミアムオーディオなども標準装備となり、価格は435万円となる。動力性能や装備等を勘案しながら同級モデルと比較していくと、輸入車としては相当安く、日本車の側にほど近いコスパを実現していることがわかるだろう。国際的に見ても、価格競争力が相当高いクルマであることは間違いない。
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ちょっと昔の日本車を思い出す
プラットフォームには同じジープの「レネゲード」や「フィアット500X」のために開発された「スモールワイド4×4アーキテクチャー」を使用しているが、サイズを見るとレネゲードよりホイールベースで65mm、全長で165mm大きい。相応の効果は室内空間にしっかり表れていて、後席の着座感や前後席間にも余裕がある。ただし、前後ともサスペンションにストラット式を採用する関係もあって、荷室部の左右の張り出しはやや大きい。
ダッシュボードまわりを中心に大きく刷新されたインテリアは、ファブリック調のセンターパッドでオーガニックな雰囲気を表してはいるが、その他のマテリアルはテカテカの樹脂感がむき出しで上質とまではいえるものではない。フルスクリーン型のメーターも必要情報は伝わるものの、小文字フォントの視認性がいまいちで、バックライトを明るくしても見づらい場面があった。ほかにもボタン類やレバー類の操作感がドライだったりと、静的質感においてはもう少し頑張ってもらいたいと思う面もある。
そのぶんを埋め合わせるというわけでもないが、エンジンの特性はクルマに見合った自然で温厚なものだ。低回転域から使いでのあるしっかりとしたトルクが立ち上がり、1500rpm前後を粘り強く使いながらトコトコと走るのも難しくはない。そこからアクセルを踏み込めば山谷を感じさせずに直線的に力を増していくなど、その扱いやすさは排気量の余裕で走る自然吸気ならではのものだろう。
6段ATは変速のつながりが甘くアクセル操作に対するツキにもややルーズなところがあるが、ゆるゆると走らせるぶんにはむしろそのスリップ感は都合がよかったりもする。一方で、スロットルそのものは早開き感があり、飛び出しが強めに現れがちだ。よくも悪くも、ちょっと昔の日本車を思い出すフィーリングといえるかもしれない。
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ハンドリングを競うようなクルマじゃない
そしてライドフィールもまた懐かしめだ。乗り心地は悪くはないが、アンジュレーションを受けての上下動は大きめで、上屋をゆったりと動かしながら走る。それでも接地感の変化は少なく、安心感がそがれることはない。サスの設定も履いてるタイヤもそんなに気張ったものではないから、操舵応答がユルいと感じる人もいるかもしれないが、それがこのクルマの狙ったところである。低偏平のタイヤを履いてオンロードのハンドリングを競い合うSUV業界にあって、ひときわ肩の力が抜けている。
ステアリングアシストの豪腕ぶりや、いささかギクシャク感のある前走車追従など、作動の質に課題はあるものの、ひと通りの運転支援システムが装備されているあたりは産地のネガを感じさせない。むしろ新興の工場のほうが工機等の設備も新しいぶん、製品の高精度化が望めるという話も聞く。もはやクルマも出自を気にする時代ではなくなりつつあるのだろう。果たしてメイド・イン・ジャパンの神通力はいつまで続くのだろうかと、ちょっと不安な思いも抱かされた。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ジープ・コンパス ロンジチュード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4420×1810×1640mm
ホイールベース:2635mm
車重:1490kg
駆動方式:FF
エンジン:2.4リッター直4 SOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:175PS(129kW)/6400rpm
最大トルク:229N・m(23.4kgf・m)/3900rpm
タイヤ:(前)225/60R17 99H/(後)225/60R17 99H(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:11.8km/リッター(WLTCモード)
価格:385万円/テスト車=385万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1644km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:154.2km
使用燃料:16.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.4km/リッター(満タン法)/9.0km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。