日産ノート オーラNISMOプロトタイプ(FF)
トップガンの手腕 2021.08.17 試乗記 日産自慢の電動パワートレイン「e-POWER」を搭載した「ノート オーラ」に「NISMO」バーションが登場。レースで培ったノウハウを注ぎ込み、匠(たくみ)と呼ばれる開発ドライバーが磨きをかけたというそのパフォーマンスを、同社のテストコースで確かめた。サーキット直系のピュアスポーツ
「日産ノート」をベースに、3ナンバーサイズの立派なボディーと上質なインテリアを与えられたのが日産ノート オーラ。高級路線に振ったこのモデルに、NISMO仕様が加わった。もともと日産ノート オーラのパワートレインは、シリーズ式ハイブリッドの「e-POWER」のみなので、NISMO仕様もe-POWERを搭載。標準仕様には4駆モデルも設定されるが、NISMO仕様はFF(前輪駆動)車のみとなる。
日産には、モータースポーツ活動を担うNISMOと、主にドレスアップやカスタマイズを担当してきたAUTECHという2つの純正カスマイズブランドが存在する。日産は両者のすみ分けを図り、NISMOはサーキット直系のピュアスポーツ、AUTECHはより上質なプレミアムスポーツという位置づけを明確化していくという。これを受けて、日産ノートのカスタマイズモデルはAUTECHブランドで、日産ノート オーラはNISMOブランドで展開する運びとなった。
標準仕様より20mmローダウンした外観は、専用の前後バンパーやサイドシル、リアのディフューザーによって、精悍(せいかん)さを増した印象を受ける。ドアミラーやフロントスポイラー下部にNISMOのイメージカラーである赤を用い、前後のフォグランプに凝った形状を採用するなど、細部まで丁寧にデザインしているあたりに、デザイン担当者のこだわりが感じられる。
全体に、ベース車とは違うことがはっきりとわかる一方で、やり過ぎではないという、絶妙のあんばいだ。5ナンバー枠にとらわれず、伸びやかなスタイリングとなっている日産ノート オーラには、華のある演出が似合う。
ただしデザイン担当者によれば、“盛る”方向のデザインではなく、エアロダイナミクス性能向上を第一義とした、科学的で機能的なデザインとのこと。事実、フロントのエアインテークやリアスポイラーの形状を最適化することや、エアロホイールの採用によって、Cl値(揚力係数。高速域でボディーがリフトする方向に作用する力を示す)は標準仕様より大幅に改善されているという。全長が標準仕様より80mm長くなっているのも、空力性能向上のためにリアのオーバーハングを伸ばしたことが理由だ。
オプションのRECARO製スポーツシートに腰を下ろし、本革ステアリングホイールの形状や手触りのよさを確認。スターターボタンを押してe-POWERを起動した。
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1000通りのセッティングから
試乗した場所は、日産自動車の追浜工場に併設されるグランドライブ。かつてのテストコースを、現在はイベントなどに使用される施設に改修したものだ。コースインしてアクセルペダルを踏んだ瞬間に、バチッと反応するモーター特有の好レスポンスに感心する。勾配のあるくねくね道で、アクセルペダルを踏んだり戻したりする時の俊敏な反応が心地よい。
モーターの最高出力、最大トルクは日産ノート オーラの標準モデルと同一であるものの、スポーティーに走らせるためのセッティングを模索したという。ちなみにモーターの場合はコンピューターのマップを書き換えるだけで、それこそ無限にモーター特性を設定することが可能だ。そこで、最先端のドライビングシミュレーターを用いて1000通りのセッティングのなかからNISMOらしい走りを見つけ、テストドライブのトップガンが味つけを決めたという。
具体的にはアクセルペダルを踏んだ瞬間の、加速Gの出し方とその後の伸び感に留意したとのこと。この伸び感というのがなかなかのクセ者で、ドライバーは目や耳から入る情報を基に伸び感を覚えるので、エンジンに慣れた人ほどモーターの静かな加速になじめない。そこで開発陣は、音の高まりと加速感の関係にも気を使ったという。
実際、ノート オーラNISMOをドライブすると、エンジンに慣れた身にもごく自然で、しかも力強く加速すると感じられた。速いだけでなく、心地よさが心に残る。
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RECAROのシートはよく効く
ハンドリングは実に素直。タイトなコーナーでも無理やりハンドルをこじって曲がっている感覚はなく、すーっとノーズが向きを変える。前後のロールのバランスも整っていて、どんな曲率のコーナーに入ってもスムーズに曲がると感じる。フロントのバネ定数を36%アップ、リアも25%アップとかなり足を締め上げているけれど、乗り心地は粗くない。グランドライブには首都高速の路面のつなぎ目を模した路面が用意されていて、そこに足を踏み入れてもバネ下がバタつくことなく、涼しい顔でクリアする。
ボディー後部に補強材を入れて剛性を上げていること、専用のショックアブソーバーが効果的に機能していること、そして乗り心地と運動性能の両立に定評のある「ミシュラン・パイロットスポーツ4」タイヤを履いていること、シャシーの電子制御を専用のセッティングにすることなどなど、ディテールまでキメ細やかに配慮することでコーナリング性能と乗り心地の両立を図っている。
高速コーナーでぐっと踏ん張るあたりは、ホイールがノーマルの6.5Jから7Jにワイドリム化されていることも寄与しているはずだ。7Jのホイールは、見た目だけで選ばれたわけでなく、空力性能を追求したボディーと同じく、機能で選ばれているのだ。
ほどよい重さの反力を感じさせる電動パワステのセッティングもNISMO専用。そしてコーナリング中に感じるのは、オプションのRECARO製スポーツシートの出来のよさだ。体をホールドしてくれているという印象はないのに、結果として横Gがかかっても体は動かない。乗り心地がいいと感じるのにも、このシートが貢献しているはずだ。ちなみにオプション価格は39万6000円。悩ましいけれど、その効果を体感すると、奮発しようという気にもなる。
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熱意が伝わってくる
「NISMO」モード、「ECO」モード、「NORMAL」モードの3つのドライブモードの切り替えを試す。ECOモードは標準仕様となるノート オーラのSPORTモードに該当し、NISMOモードは高出力エンジン車の加速フィールに近づけたもの、NORMALモードはその間になるという。
NISMOモードに入れると確かに胸がスカッとするような爽快な加速感が手に入る。ただしそこに粗さはなく、電動パワートレインらしい洗練されたドライブフィールだ。ECOモードも前述したように標準仕様だったらSPORTモードにあたるわけで、かったるい感じはない。普段はECOモードで走り、ここぞという時の飛び道具としてNISMOモードにシフトするイメージか。
グランドライブはクローズドコースとはいえ、厳密に制限速度が設定され、路面も基本的にはスムーズだ。だからここで好印象を得たからといって、高く評価するのは早計ではある。けれども、荒れたワインディングロードや長距離ドライブなど、もっとタフな条件で試してみたいという期待感を抱いたことは間違いない。
今回の試乗では、速さよりも気持ちよく操れることが印象的だった。誰かと競うのではなく、眺めたりドライブするオーナーが満足したりできるモデルに仕上がっている。モデルチェンジ前の従来型日産ノートでは、モデルライフ全般では販売台数の7%、瞬間最大風速で10%がNISMO仕様だったとのことだけれど、支持される理由がよくわかった。クルマと運転が好きなエキスパートが、腕によりをかけてチューニングしたことが伝わってくるのだ。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
日産ノート オーラNISMO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4125×1735×1505mm
ホイールベース:2580mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:82PS(60kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/4800rpm
モーター最高出力:136PS(100kW)/3183-8500rpm
モーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/0-3183rpm
タイヤ:(前)205/50ZR17 93W/(後)205/50ZR17 93W(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:23.3km/リッター(WLTCモード)
価格:286万9900円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:726km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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