メルセデス・マイバッハGLS600 4MATIC(4WD/9AT)
隣のクルマが小さく見えます 2021.09.14 試乗記 「メルセデス・マイバッハGLS600 4MATIC」は、全長5mを超えるボディーに4座のみを備えたぜいたく極まりないSUVである。ベース車から3座を取り払い、ありとあらゆる手当を施すことで実現した、マイバッハならではのラグジュアリーとはどんな世界なのだろうか。スネにご用心
メルセデス・ベンツ日本の地下駐車場で初めて見て、言葉をのんだ。ラグジュアリーを圧倒的なサイズとクロームの量で表現している。クロームの質、表面のなめらかさと光沢に、戦前の「グロッサー・メルセデス」もかくやであったにちがいない、と思う。タイヤ&ホイールは、なんと23インチ! 威風堂々、映画『ベン・ハー』に出てくるローマの戦車みたいだ。タイヤはフロントが285/40、リアが325/35。こんなにペッタンコでワイドなタイヤを履くSUVがあらわれるとは!
ドアを開けると、フロアからランニングボード、いわゆるステップが音もなくスーッと出てくる。ごとん、とか無粋な音をいちごんも発しない。長さ2mちょっとあるリッパな、大人が上に乗ってもミシリともいわぬアルミ製の頑丈なボードが、無音で、しかも瞬時に電動で出てくるのだ。
あまり近くに立っていると、スネをぶつけるのでご注意ください。
とメルセデスのひとにいわれていたのに、後ほど、すっかり忘れてしまい、後席に乗ろうとした際、何度もスネに当ててしまった。ショーファードリブンの証しというべきか、このボードは後席の住人向けに幅が広くなっていることもある。何かに接触すると、そこで止まるので、スネに当たって痛い、ということはまったくない。
乗降性を高めるために標準装備のエアサスペンションが25mm、最低地上高を低めてもいるはずだけれど、あまりに動きがスムーズなので、筆者はそれと気づかず、山のように大きなクルマなのに案外乗り降りしやすいと感心するのみだった。
ドアを開ければ、純白のレザーで覆われた世界が広がる。シートだけでなく、ドアの内張りも真っ白で、着座すると雪景色、ホワイトアウト状態。遠近感がなくなり、ボディーの右端がどこまでも広がっているように感じる。
つくり手の意志を感じる
ステアリングホイールの付け根の右にあるスターターを押すと、フロントの4リッターV8ツインターボが控えめな咆哮(ほうこう)をあげて目覚める。カタログにはエンジン型式が「M177」とあるから、メルセデスAMGの「63」用と同じだ。ただし、独自のチューニングが施されており、最高出力は558PS/6000-6500rpm、最大トルクは730N・m/2500-4500rpmと、「メルセデスAMG GLS63 4MATIC+」の612PS/5750-6500rpm、850N・m/2500-4500rpmと比べると、54PSと120N・mも控えめになっている。
ディスク型のモーター兼発電機(ISG)を、エンジンとトランスミッションの間に備えており、この48VシステムのISGが250N・mというけっこうな大トルクでもってエンジンをアシストする一方、エネルギー回生に努めることもまた、AMG版と同様だ。
そのおかげで、だろう。筆者の記憶のなかの「ロールス・ロイス・カリナン」や「ベントレー・ベンテイガ」よりも動き出しは素早いように思う。車重がカタログ値で2785kg、車検証で2840kgもあるというのにタメがない。相撲の立ち合いに例えるなら、仕切り時間ゼロ。ひがあしぃ、マイバッハGLSぅ、にいしぃ、カリナぁぁぁン、と呼び出しを受けて土俵に上がったら、マイバッハGLSのほうはにらみ合うことなく、いきなり立ち上がる感じ。ドコドコ、デロデロ、内燃機関の鼓動、息吹を伝えてくることなく、息を殺したまま。さりとて、う~息が苦しくて、もう我慢できない、というようなそぶりも一切ない。しかも、モーターの存在を意識させることもない。まるで違和感なく、ごく自然に走りはじめる。モーターの制御が完璧なのだ、おそらく。
クルマを貸してくれたメルセデス・ベンツ日本のひとに、サヨナラのあいさつをすべく、窓を下ろす。もちろん電動である。そのときの窓ガラスの動きの、またスムーズなこと!
こういう細かい動きに筆者がいちいち驚いているのは、マイバッハの考えるラグジュアリーとはこういうことである、というつくり手の強い意志をひしひしと感じるからだ。エンジンの性能をとってみても、スムーズさを優先して、あえてデチューンしているのである。自動車のヒエラルキーにおいて、極めてまれなことだ。
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完璧なショーファードリブン
ベースは7人乗りSUVの「メルセデス・ベンツGLS」である。もちろんGLSだって、「S」の文字がつくメルセデス・ベンツの頂点に君臨するSUVであるにちがいない。その頂点のSUVを、動力性能はAMG、究極のラグジュアリーはマイバッハ、と明確に役割を分けた。実は筆者はスタンダードのGLSには未試乗ですけれど、ともかくマイバッハのラグジュアリーは、細部の動きをせっせと磨くことで、シュープリームな立ち位置を確立しようとしており、その磨き込みは驚嘆に値する、と筆者は思う。
ドライビングフィールは終始、巨大なモノに乗っている感がある。全長×全幅×全高=5205×2030×1838mm、ホイールベース=3135mmというボディーサイズはカリナンより若干小さい程度。つまりもう、SUVの限界サイズといっていいほどにデカイ。
カリナンはホイールベースが3295mmと、GLSよりさらに160mmも長いけれど、筆者の記憶では、ボディーが四角いぶん、見切りがよかった。それに対して、GLSは全体に丸っこい。おまけに、前述したように試乗車の内装が純白で、室内はホワイトアウト状態。茫漠(ぼうばく)と広がっている。ともかく慣れるまで、おっかなびっくり、えたいの知れないサイズのモノを操っている感がある。
乗り心地は、23インチという巨大なホイール&タイヤにもかかわらず、SUVのショーファードリブンとして「完璧」だ。サルーンと違って、ちょっぴりワイルドな硬さを感じさせはするけれど、それも雰囲気のうちである。100km/h巡航は、ワイドな9段オートマチックのおかげで、ほんの1200rpmほど。全高が高くて、ルーフレールも備えているにもかかわらず、風切り音はよく抑えられている。キャビンと荷室との間は隔壁によって完璧に分離されており、ロードノイズの侵入を許さない。
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買えるひとにはお値打ち価格
ドライブモードを変える「ダイナミックセレクト」は、「コンフォート」が標準で、「スポーツ」「マイバッハ」「カーブ」の4つのモードがある。てっきりマイバッハが標準なのだろうと思って選んでみたら、ショーファーモードだった。その意味では標準といってもよいけれど、快適性を最優先すべく、2速発進になって、アクセルペダルを踏んでも加速が穏やかになり、トランスミッションのギアシフトの回数が少なくなる。それによってドライビングをスムーズにするのだ。アイドリングストップ機能も、再始動時の振動をなくすためだろう、停止する。これはSDGs的にいかがなものか、と思わないでもないけれど、このクルマを選ぶような大人は気にしないのだろう。
後席は広大だ。GLSの3列目シートを取っ払い、後席VIP用のシートを120mm後ろにずらすことでレッグルームを増やしている。その長さたるや1103mm。石原裕次郎は公称、身長183cm、股下90cmだったそうだけれど、裕ちゃんの足より長い。筆者の足よりも。ヘッドルームはバックレストを寝かせない、通常の状態で1020mmある。顔を上げると、日本仕様は広大なパノラマグラスルーフが標準になっていて、しかも天井まで1mも空間的余裕がある。
都市で使ううえでのSUVボディーの最大のメリットは、それこそ戦前のグロッサー・メルセデス並みに(って乗ったことありませんけど)着座位置が高くて、見晴らしがよいことである。「Sクラス」に比べると、前席のドライバーは25cm、後席の住人はおよそ28cm高い位置に座る。後席の背もたれは最大43.5度倒すことができて、「ホットストーンマッサージ」なんて機能まで付いている。ああ、ぜいたくはステキだ。
信号待ち等で、このクルマが隣に来たら、Sクラスに乗るひとも見下ろされる。そうすると、ホイールベースでは261mm勝っている「マイバッハSクラス」のオーナーも見上げざるを得ない。悔しくて、欲しくなっちゃうにちがいない。
隣のクルマが小さく見えます、という価値の究極がメルセデス・マイバッハGLS600 4MATICである。車両価格は2719万円と、メルセデスAMG GLS63 4MATIC+の2183万円より536万円高いだけで、メルセデス・ベンツとは異なるマイバッハ独自のグリルと圧倒的なクローム量の別の顔が手に入る。メルセデスのSUVでは唯一、ボンネットにスリーポインテッドスターのマスコットを備えてもいる。超富裕層から見たら、お値打ち感もあるのでしょう。カリナンと比べたら1000万円以上も安いのだから……。実際、日本でも2021年の予定台数は完売らしい。SUVセグメントも爛熟(らんじゅく)期に入っているのである。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
メルセデス・マイバッハGLS600 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5205×2030×1838mm
ホイールベース:3135mm
車重:2840kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:558PS(410kW)/6000-6500rpm
エンジン最大トルク:730N・m/2500-4500rpm
モーター最高出力:22PS(16kW)
モーター最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)
タイヤ:(前)285/40R23 107Y/(後)325/35R23 111Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:2729万円/テスト車=3023万2000円
オプション装備:マイバッハ専用レザーシート<クリスタルホワイト×シルバーグレー>(271万7000円)/designoハイグロスブラックフローイングライン<ピアノラッカーウッドインテリアトリム>(10万2000円)/メタリックペイント<ヒヤシンスレッド>(12万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3720km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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