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トライアンフ・スピードツイン(MR/6MT)

これぞ優駿 2021.09.17 試乗記 後藤 武 トラディショナル&スポーティーな見た目はそのままに、エンジンや足まわりが大幅に改良された「トライアンフ・スピードツイン」。懐の深さを感じさせる最新型に乗ったなら、多くのライダーが笑顔になるに違いない。
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レトロなのはムードだけ

トライアンフ・スピードツインは、1960年代のトライアンフをほうふつさせるレトロなデザインとモダンな走行性能を融合させたモデルだ。2019年にデビューし、2021年モデルではエンジンやサスペンションをグレードアップ。さらに完成度を高めている。

実はこの試乗にあたっては、まったく前知識なしでマシンにまたがった。最初は普通のレトロスタイルネイキッドだと思っていたのだが、ふと見るとフロントフェンダーの先に見えるタイヤのパターンがスポーツバイクのよう。アレ、と思ってサスやブレーキを見れば倒立フォークにラジアルマウントされたブレンボのキャリパーがただ者ならぬ雰囲気を漂わせている。ポジションも前傾で、ステップは後退している。走りを追求したマシンであるということがいろいろなパーツから伝わってくる。

低速トルクは十分にあり、2000rpmから3000rpmくらいでゆっくり走っていると270度クランクの歯切れのよい排気音と鼓動感がとても楽しい。

しかし、本領を発揮するのはその上の中速域。スペック上は最高出力100PSだから、それほど激しいイメージは持たれないかもしれないが、中回転域のトルクは強烈だ。最大トルク112N・mを4250rpmという回転数で発生するから、シフトダウンなどしなくてもスロットルを開けた瞬間、間髪入れずドカンという感じで飛び出していく。ストリートをのんびり走っている時、追い越すため、ギアを変えずに加速しただけでフロントが軽く浮き上がり、トラコンが介入して車体姿勢を安定させるような時もあったくらいだ。回転の上昇を待つことなく、右手の操作ひとつで自由自在に加速させることができる。

「スピードツイン」は2019年にデビューしたトライアンフのネオクラシックモデル。最新の2021年型ではエンジンや足まわりを中心に改良が施され、走行性能の向上が図られた。
「スピードツイン」は2019年にデビューしたトライアンフのネオクラシックモデル。最新の2021年型ではエンジンや足まわりを中心に改良が施され、走行性能の向上が図られた。拡大
1200ccの2気筒エンジンは、高圧縮ピストンの採用やカムの変更により最高出力をアップ(97PS→100PS)。最大トルク値は112N・mで変わらないものの、発生回転数は500rpm低められた。
1200ccの2気筒エンジンは、高圧縮ピストンの採用やカムの変更により最高出力をアップ(97PS→100PS)。最大トルク値は112N・mで変わらないものの、発生回転数は500rpm低められた。拡大
フロントにはマルゾッキ製のカートリッジダンピング付き倒立フォークがおごられる。
フロントにはマルゾッキ製のカートリッジダンピング付き倒立フォークがおごられる。拡大
2本出しのメガホンマフラーは、ブラシ仕上げのステンレススチール製。レーシーなパターンの「メッツラー・レーステックRR」タイヤが装着されている。
2本出しのメガホンマフラーは、ブラシ仕上げのステンレススチール製。レーシーなパターンの「メッツラー・レーステックRR」タイヤが装着されている。拡大
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存分に楽しめるビッグバイク

単に速いだけでなく、力量感がみなぎっているのは、大きなフライホイールマスを太いトルクでぶん回しているからだろう。エンジンフィーリングには好みがあって、軽めのフライホイールマスでシュンシュンと軽快に回るのが好きな人もいるかもしれないが、ストリートでいろいろな乗り方をするのであれば、ある程度の重さは欲しい。それが力強さだけでなく扱いやすさにもつながるからだ。

振動は3000rpm付近から出はじめ、4500rpm付近になるとステップを中心に強めに生じる。加速する際にはツインの鼓動感が強いのでほとんど気にならないが、エンブレでエンジンの爆発力が弱くなっている時はこの回転域で振動を感じる。ただ、この排気量のツインエンジンとしては、かなり振動は抑えられている。

パワーモードはセレクターで3段階に切り替えが可能。最初はロードモードで走っていたが、これでも十分にパワフルで面白い。レインモード、スポーツモードを試してみるとパワー特性自体は大きくは変わらないもののスロットルを開けた時の出方がずいぶん違う。レインモードでは大きくスロットルを開けても穏やかなレスポンスになるし、スポーツモードはダイレクト。ビッグツインの大トルクを存分に楽しむことができるようになる。

ハンドリングは素直で軽快だ。車体も小柄だからストリートではとても乗りやすい。しかし得意とするのはスポーツライディング。キッチリと体重移動して速度を上げたコーナリングをしてみると、ハンドリングやサスペンションの動きもシックリしてくる。今回はテストできなかったが、ワインディングロードやサーキットも走ってみたくなるような車体だ。

フロントを浮き上がらせることも容易なほどパワフルな「スピードツイン」だが、その特性はピーキーではなく扱いやすい。
フロントを浮き上がらせることも容易なほどパワフルな「スピードツイン」だが、その特性はピーキーではなく扱いやすい。拡大
エンジンのクランクシャフトもより軽量なものに変更。アクセルレスポンスの向上と高回転化が図られている。
エンジンのクランクシャフトもより軽量なものに変更。アクセルレスポンスの向上と高回転化が図られている。拡大
走行モードは「レイン」「ロード」「スポーツ」の3タイプ。スイッチはハンドルバー左側にレイアウトされている。
走行モードは「レイン」「ロード」「スポーツ」の3タイプ。スイッチはハンドルバー左側にレイアウトされている。拡大
伝統的なデザインの2眼メーター。液晶画面には燃料の残量や燃費、走行モードなどが表示される。
伝統的なデザインの2眼メーター。液晶画面には燃料の残量や燃費、走行モードなどが表示される。拡大
車体色(=タンクカラー)は、写真の「レッドホッパー」のほか「ジェットブラック」と「マットストームグレー」が選べる。タンクの容量は14リッター。
車体色(=タンクカラー)は、写真の「レッドホッパー」のほか「ジェットブラック」と「マットストームグレー」が選べる。タンクの容量は14リッター。拡大
ブラック塗装を施されたヘッドランプと小ぶりなウインカーがスポーティーなムードを醸し出す。
ブラック塗装を施されたヘッドランプと小ぶりなウインカーがスポーティーなムードを醸し出す。拡大
フロントブレーキは直径320mmのツインディスク。ブレンボ製の4ピストンラジアルキャリパーが組み合わされる。
フロントブレーキは直径320mmのツインディスク。ブレンボ製の4ピストンラジアルキャリパーが組み合わされる。拡大
燃費は、欧州仕様車の参考値で5.1リッター/100km(約19.6km/リッター)。ガソリンタンクの容量は14リッターなので、一給油あたり270kmほど走れる計算になる。
燃費は、欧州仕様車の参考値で5.1リッター/100km(約19.6km/リッター)。ガソリンタンクの容量は14リッターなので、一給油あたり270kmほど走れる計算になる。拡大

過激なだけではないのがいい

ポジションもスポーツライディングを意識したものだ。ただ筆者のライディングスタイルでは若干の違和感がある。タンクが細くてステップのヒールガードが広いため、膝よりもブーツのほうが外側に開くような感じになってしまう。ステップ位置が後ろでシート自体も前に傾いているので、シートにどっかりと腰を下ろしてしまうと下半身が前に転がるように動こうとして落ち着かない。これには、筆者がステップをつま先で踏んで体重移動していることも関係している。つま先ではなく、土踏まずをステップに乗せるようにすれば違和感はずいぶん軽減されるのだが、自分のマシンにするなら、ステップの位置は見直しておきたい部分だ。

レトロモデルとしては、相当にスポーティーな特性を与えられているマシンだが、だからといって過激一辺倒ではないのがスピードツインのいいところ。ツーリングなどでノンビリ走っても楽しいエンジン特性だし、サスの動きもしなやかで乗り心地も悪くない。

ブレーキも握りはじめからガツンと利くようなこともなく、最初はジワリ。握り込んでいくに従ってリニアに制動力を高めていく設定だ。サスペンションは調整機構のないシンプルなタイプで、トラコンやABSも細かい設定はできない。しかしこういったつくりが、スピードツインの性格をよく表している。つまりサーキットでスーパースポーツを追いかけ回すのではなく、バーチカルツインのトルクを生かし、気持ちよくワインディングロードを走るマシンなのである。

(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=関 顕也)

トライアンフ・スピードツイン
トライアンフ・スピードツイン拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×780×1095mm
ホイールベース:1415mm
シート高:809mm
重量:217kg
エンジン:1200cc 水冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ
最高出力:100PS(74kW)/7250rpm
最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/4250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.1リッター/100km(約19.6km/リッター)※欧州参考値
価格:168万6000円

後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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