第726回:気配りは口元から!? 大矢アキオ流“系列マスク”のススメ
2021.10.07 マッキナ あらモーダ!たかが配布品、されど配布品
昨今、自動車関係の取材先でマスクを頂戴することがある。
新車販売店やパーツ販売店、そして愛好会などが独自に製作し、スタッフが使用したり、顧客に配布したりしているものだ。
筆者個人は以前から、特定のブランド名がプリントされたものは、特段の理由がない限り着用を避けるようにしてきた。さらに「おそろい」というものも避けてきた。
堅苦しい主義めいたものは別段ない。だが、学校でも仕事でも制服やユニホームを着用した経験がないゆえ、人とおそろいのものを着ることに慣れていないのである。
それでも、マスクくらいなら、まあいいかと思う。また、無料の配布品にもかかわらず、意外に耐久性が高いマスクもある。たかがノベルティー、されどノベルティー。こうしたものに手を抜くか抜かないかに、店のポリシーが伝わってくる。
参考までに新型コロナウイルス対策のイタリア保険省命令において、屋外でのマスク着用義務は2021年6月末から、対人距離が確保できる場所という条件付きで免除された。いっぽうで、スーパーマーケットやショッピングモール、建物内の食堂を含めた屋内施設では、引き続き着用が罰則付きで義務となっている。バス、列車などの公共交通機関内でも着けなければならない。
かくして、気がつけば配布品のマスクを便利に使っていた筆者であるが、ふと困った「状況」にたびたび遭遇するようになった。
店に行けば店に従え!?
その「状況」とは、買い物の後などに、ふと思い立って自動車販売店などを訪問するときだ。他ブランドのロゴが入っていると、どうも格好悪いのである。
思い出したのは「多くの自動車メーカーの施設構内には、グループ企業・ブランドのクルマしか入れない」というルールである。
自慢ではないが筆者は、これを1970年代の少年時代から知っていた。当時、日野自動車の工場前を通ることがよくあった。すると金網の向こうの従業員用駐車場にいるのは、すべて「カローラ」や「カリーナ」さらに「コロナ」といったトヨタ車、もしくは「コンソルテ」といったダイハツ車だった。
イタリアではというと、ステランティスのトリノ・ミラフィオーリ本社も同様で、系列ブランドのクルマしか入れない。マラネッロのフェラーリ本社構内も、旧FCA系のクルマのみだ(従業員用駐車場は未確認)。
いっぽう、トリノのイタルデザインは、今日ではフォルクスワーゲン グループでアウディのユニットに属しているが、従業員用パーキングは本社工場の壁の外ということもあって、彼らの通勤車のブランドは多種多様だ。
当然のことながらクルマと違い、マスクの柄によって入館拒否を受けるような場面には、少なくともイタリアで遭遇したことはない。
そもそも市販の無地マスクをしてゆけば、そんな心配は無用だ。単なる筆者の自意識過剰で、訪問先はマスクの図柄などまったく気にしていないかもしれない。
しかし、そこは気配りというか、粋な演出をするのがサービスというもの。訪問先に合わせてマスクを選ぶようになった。
堂々の18ブランド対応
そのためにそろえた“マスクコレクション”のいくつかを紹介しよう。
【写真A】はイタリアにおける空冷系フォルクスワーゲンの愛好会、マッジョリーノ・クラブ・イタリアのミーティングで頂いたものだ。一見自動車系っぽくないところがいい。前述のイタルデザインを取材する際にも、たびたびこれを着用していった。
【写真B】は、あるメーカー認定のサービスセンターで頂戴したマスクである。イタリアのおじさん向けなのか、かなりサイズが大きいが、取り扱いブランドがプリントされている。左はメルセデス・ベンツ、右はボルボ【写真C】である。写真を日本の義姉に見せたところ、最も評判がよかった。
ちなみに、あるプレス向けイベントでマクラーレンのマスクを着用している人を見たことがある(よりにもよってフェラーリの催しだった。もう少し気を使えよ)。それなりにスタイリッシュだったが、筆者の街にはマクラーレン販売店がないし、近い将来に関連施設を訪問する予定もないので、まったくジェラシーは湧かなかった。
困ったのは、2021年9月末にイタリア中部トスカーナ州アレッツォで「フィアット・ウーノ ターボ」の愛好者ミーティングを訪れることになったときである。
気がつけば、フィアット系デザインのマスクをひとつも持っていないのだ。
そこで自作することにした。せっかくなのでクルマの年代に合わせ、懐かしい平行四辺形の「FIAT」マーク、それも純正オイル「OLIO FIAT」のものをプリンターで出力。青いマスクを買ってきて貼り付けた【写真D】。
会場では早速、気づいたファンに「お、そのマスクどこで買ったんだ?」と取り囲まれて一躍人気者になった……というのはウソで、誰ひとり指摘してくれなかった。明らかに自作とわかる稚拙なデキが災いしたのであろう。
フィアットといえば、これから最も汎用(はんよう)性があるマスクとして思いついたのは、最後の写真の「ステランティスマスク」である。【写真E】は急きょ作成したダミーだが、リース会社のリーシスやモビリティーサービスのフリー2ムーブも含めると一気に全18ブランド対応だ。
ドーバー海峡を渡ってもボクスホールがあるし、大西洋を越えても旧クライスラー系ブランドがある。かくして世界最強の気配りマスクを誕生させた筆者であった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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