第186回:【Movie】わが子の代まで「クーペ・フィアット」 愛好会の熱き面々
2011.03.26 マッキナ あらモーダ!第186回:【Movie】わが子の代まで「クーペ・フィアット」愛好会の熱き面々
時がたつのは早い
最近イタリアでヒストリックカー系イベントをのぞくと「クーペ・フィアット」が並んでいるのを見かけるようになった。「そんな新しいモデル、ご冗談でしょう」と思って調べてみたら、カタログから消えたのは2000年だった。もはや11年が経過していた。時がたつのは早いものだ。
クーペ・フィアットについておさらいすると、そのデビューは1993年である。
当時マスコミの多くは、「往年の名車『8Vクーぺ』の再来」と書きたてた。
「フィアット・ティーポ」や「アルファ155」と同じプラットフォーム上に載ったボディは、フィアットのチェントロ・スティーレによるものだった。実際にエクステリアデザインを担当したのは、BMWデザインに移籍する前、フィアットに在籍していたクリス・バングルであった。いっぽうインテリアのデザイン開発およびボディ生産はピニンファリーナで行われた。
エンジンは登場年に若干のズレはあるものの、エントリーモデルの1.8リッター4気筒16バルブ96馬力から最強モデルの2リッター5気筒20バルブターボ162馬力まで、大きく分けて6タイプが存在した。2000年までの生産台数は約7万台で、その半数が輸出された。
そのクーペ・フィアットを愛好する人たちの会「クラブ・デル・クーペ・フィアット」のミーティングが2011年3月19日から20日にかけて開催された。舞台は、クリスタルガラスの産地として知られるトスカーナのコッレ・ヴァル・デルサである。
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LPG車もあります
今回集結したのは約30台だが、クラブの会員リストにはおよそ750名が名前を連ねている。
動画の中でオーガナイザーのひとりジャンニさんが語っているように、メンバーたちが最も高く評価するのは、その実用性だ。スタイリッシュなクーペにもかかわらず、大人が4人乗り、かつ充分な量の荷物を載せて旅ができる。フィアットの小型車がベースなので、メンテナンスが容易なのも美点だ。
ある参加者の女性は筆者にこう言い放った。「私は他のフィアット車は嫌いだけど、クーペだけは大好きよ!」
いっぽう悩みは、その高性能と引き換えに背負わされた燃費だ。前述の2リッターターボの市街地モードに至っては、メーカー数値でもリッター6.9km台まで落ち込む。ディーゼル仕様は最後まで現れなかった。
それを解決する一手段を示してくれたのは、モデナ在住のエンジニア夫妻だ。彼らは、LPG(液化石油ガス)でも使える仕様に改造してしまったのである。
イタリアにはLPG改造を請け負ってくれる指定業者がたくさんあって、頼むとスペアタイヤのスペースにすっぽり装着できるガスボンベを付けてくれる。ガソリンタンクは残しておくので、ガソリンで走るかLPGで走るかはダッシュボードのスイッチで切り替えられる。
夫人のマヌエラさんによれば、幸いクーペ・フィアットのトランクは広いので、スペアタイヤも場所を替えて搭載できたという。そういえばボク自身も、以前LPGスタンドでクーペ・フィアットを目撃したことがある。一部のクーペファンの間ではLPG化は人気を呼んでいると思われる。
このエンジニア夫妻に関していえば、驚きはそれだけではなかった。今回は子供と一緒に1台でやってきたが、「実は自宅ガレージにはもう1台があるんですよ!」と言う。かなり熱いファンだ。サプライズはさらに続いた。
「替えのモトーレ(エンジン)も、2基手に入れて保管してあります」と胸を張るではないか。
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そういえば昔、あるイタリア人家庭で、物置の片付けを手伝ったら、おじいさんが乗っていたという古い「フィアット・トポリーノ」のエンジンが何基も出てきたことがある。
クーペ・フィアットも、同様にエンジンを交換されながら生き延び、いずれは彼らの子供に手渡されるのだろう。すでに歴史車の階段を歩み始めている。
イタリア人の、気に入ったモノへの慈しみ、恐るべし! はからずもクーペ・フィアットで再認識した週末だった。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
【Movie】「クーペ・フィアット」ミーティングに集まった人たち
【Movie】「クーペ・フィアット」ミーティングで見つけたLPG改造車とドレスアップ車
(撮影と編集=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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