始まりがあるから今がある 自動車界の“日本初”を集めてみた
2021.11.03 デイリーコラムクルマにまつわるコラムなどの定番ネタである「日本初」の技術、車形や装備。だが、webCGの手にかかればひと味違うセレクションに?
まずは心臓部から
【V型8気筒エンジン】
トヨタ・クラウン エイト(1964年)
1962年に登場した2代目「クラウン」のボディーを拡大した、トヨタの戦後型としては初の3ナンバー規格のフラッグシップサルーン。搭載された国産初の90度V型8気筒OHVエンジンは総アルミ製で、2599ccから最高出力115PS/5000rpm、最大トルク20.0kgf・m/3000rpmを発生。2.6リッターという排気量は国産V8エンジンとしては史上最小でもある。ちなみにこのクラウン エイトから発展・独立するかたちで1967年に初代「センチュリー」が誕生する。そして30年後に世代交代した2代目センチュリーは国産唯一のV12エンジン搭載車なので、元祖マルチシリンダーの系譜といえるかも。
【ガソリンインジェクション】
ダイハツ・コンパーノ1000GTインジェクション(1967年)
ツインキャブ仕様の988cc直4 OHVエンジンを搭載した「コンパーノ1000GT」のバリエーションとして加えられた。ディーゼルの技術を応用して独自開発した機械式インジェクション(燃料噴射装置)をキャブレターの代わりに備えている。最高出力65PSはツインキャブ仕様と同じだが、最大トルクは7.8kgf・mから8.3kgf・mに向上。混合比を調整するミクスチャーコントロールダイヤルがインパネに付いていた。ちなみに電子制御インジェクションの搭載第1号は、1970年に登場した「いすゞ117クーペEC」である。
【自動変速機】
ミカサ・マークI/マークII(1957年)
耳慣れない車名だが、オフィス家具で知られる岡村製作所(現オカムラ)が「シトロエン2CV」を参考につくった小型商用車。空冷フラットツイン585ccエンジンを積み、自社製トルクコンバーターを使った2段AT(ただし1速は緊急用)を介して前輪を駆動した。翌1958年には4座オープンの乗用車「ツーリング」も加えられたが、新規参入に市場は厳しく1960年には自動車業界から撤退。ただしそのトルクコンバーターは、同年に誕生したマツダ初の乗用車である「R360クーペ」や翌1961年に登場した愛知機械工業の軽商用車「コニー・グッピー」に採用された。なお、わが国におけるイージードライブ化を積極的に推進したトヨタのAT第1号は1959年に出た2段ATの「トヨグライド」で、設定車種は初代「クラウン」をベースとするライトバン/ピックアップの「トヨペット・マスターライン」。信頼性・耐久性が未知の新機構を搭載した商用車に興味を示すユーザーなどいるのかと思うが、そこには売れそうにないところで試してみようというトヨタの思惑があったのだろう。
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ボディースタイルあれこれ
【ワゴン】
ダットサン・ブルーバード1200エステートワゴン(1960年)
日産は1950年代、トラックと共通シャシーの時代から、小型車であるダットサンに少量生産の5ナンバー仕様のワゴンをラインナップしていた。1959年にはダットサンとしては初となる乗用車専用シャシーを持つ小型セダンの初代「ブルーバード」をリリースするが、翌1960年に「エステートワゴン」を追加。名実ともに、これが国産初の量産乗用ワゴンといえるだろう。兄貴分の「セドリック」をはじめ、以後登場する国産乗用ワゴンのほとんどが4ナンバーの商用バンとボディーを共用していたのに対して、これはワゴン専用ボディーを持っていた。
【ハッチバック】
トヨペット・コロナ5ドアセダン(1965年)
3代目「コロナ」の4ドアセダンをベースにテールゲートを設けた5ドアハッチバック。時期尚早だったようで少数しか売れず次世代では廃止されたが、1978年に登場した6代目コロナでは「リフトバック」の名で復活。その後8~10代目コロナにも5ドアが設定された。なお、3ドアハッチバックの元祖は1967年に登場した「三菱コルト1000F 3ドア」。これらはいずれもFRだったが、日本初のFFハッチバックは1972年デビューの初代「ホンダ・シビック」となる。
【ミニバン】
日産プレーリー(1982年)
それまでの商用ワンボックスバンがベースのモデルとは異なり、乗用車のFFプラットフォームを使った背が高い1.5ボックスのボディーに3列シートを備えたモデル。現在は衝突安全性の観点から不可能だが、左右ともBピラーを取り去っており、乗用車としては初採用された後部スライドドアとともに乗降性は抜群だった。実は世間で“元祖ミニバン”と呼ばれる「プリマス・ボイジャー/ダッジ・キャラバン」よりデビューが1年早く、まだミニバンという言葉が存在しなかったため、日産では、まったく新しいジャンルの“びっくりBOXY SEDAN”と称していた。
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欧州伝来のトレンド
【GT】
いすゞ・ベレット1600GT(1964年)
英語の“Grand Touring”、イタリア語の“Gran Turismo”の頭文字である「GT」。直接の意味である「大旅行」から転じて「長距離を快適に走れる高性能車」を指す。これを日本で初めて名乗ったのは、1964年4月に発売された通称“ベレG”こと「いすゞ・ベレット1600GT」。2ドアクーペボディーにSUツインキャブ仕様の1.6リッター直4 OHVエンジンを搭載、インテリアもGTの名にふさわしいスポーツムードを漂わせていた。半年後の同年10月には早くもマイナーチェンジを受け、これまた日本初となるディスクブレーキが前輪に採用された。
【スポーツセダン】
日野コンテッサS(1963年)
セダンに高性能エンジンを搭載し、足まわりを固め、内外装をスポーティーに装った、いわゆるスポーツセダン。これが日本でブームになったのは1960年代半ばだが、きっかけとなったのは1963年5月に開催された戦後初の本格的な四輪レースである第1回日本グランプリだった。これをいち早く商品化したのは、同年11月に発売された「日野コンテッサS」。グランプリに出走したワークスマシンに倣ってエンジンをチューンし、4段MTをコラムシフトからフロアシフトに改め、バケットタイプのフロントシートを備えていた。
【イタリアンデザイン】
プリンス・スカイラインスポーツ(1960年)
初代「スカイライン」のシャシーにイタリアのカロッツェリア・ミケロッティがデザインした、斜め配置のヘッドライトが特徴的なボディーを載せた4座クーペ/コンバーチブル。お披露目は1960年のトリノショーで、海外デビューを飾った初の日本車でもあった。1962年にこれまた日本初の高級パーソナルカーとして市販化されたが、ハンドメイドのためベースであるスカイラインの約2倍という高価格となってしまい、生産台数はわずか60台に終わった。しかし、これをきっかけにダイハツ、日産、マツダ、日野、いすゞ、スズキと、国産メーカーが続々とトリノのカロッツェリアの門をたたくことになった。
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意外に早く世に出ていた
【チルトステアリング】
三菱コルト1200/1500(1968年)
ドライビングポジションの調整機能として、今では多くの車種に装備されているチルトステアリング。これを初めて装備したのは「三菱コルト1200/1500」。1963年に登場した「コルト1000」に始まるシリーズの最終発展型となる、よく言えば質実剛健、悪く言えばなんとも平凡で地味なモデルである。この弁当箱のようなセダンの唯一の新機軸がチルトステアリング(当時の呼称はチルトハンドル)で、ダイヤル操作により上下60mmの幅でステアリングの高さが調整可能だった。
【EASS(アイドリングストップ)】
トヨタ・クラウン(1974年)
EASSとは“Engine Automatic Stop and Start System”の略で、いわゆるアイドリングストップ機構。俗称“クジラ”こと4代目「クラウン」の直6エンジン(2リッター/2.6リッター)搭載のMT車にオプション設定された。システムをオンにしておくと、停車してギアがニュートラルにあり、エンジンを止めても安全とコンピューターが判断した場合にエンジンが停止し、クラッチペダルを踏むと再始動する。ただしバッテリーの消耗を防ぐため、ヘッドライト点灯時は作動しない(つまり夜間は使えない)など、いくつかの作動条件があった。8年後の1981年には、より進化した機構が“エコランシステム”の名で2代目「トヨタ・スターレット」に用意されたが、導入されたのは低級グレードの5段MT車のみだった。
【アクティブノイズコントロール】
日産ブルーバード(1991年)
室内に設置したマイクで集音した騒音(エンジンのこもり音)と逆位相の音を専用スピーカーから発生させることで車内騒音を打ち消して軽減させる。アクティブノイズコントロールとかアクティブノイズキャンセリングなどと呼ばれるこのシステム、21世紀に入ってからの装備のように思えるが、実は初登場は30年前。1991年に登場した9代目「日産ブルーバード」(U13)のトップグレードに装備されていたのだ。
(文=沼田 亨/写真=トヨタ自動車、ダイハツ工業、オカムラ、日産自動車、三菱自動車、いすゞ自動車、日野自動車、沼田 亨/編集=藤沢 勝)

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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