ホンダ・シビックEX(FF/6MT)
“走りのホンダ”を体現せよ 2021.11.09 試乗記 世界的な人気モデルでありながら、日本ではいまいち存在感が薄くなってしまった「ホンダ・シビック」。このクルマが“おひざ元”でも元気を取り戻すためにはどうすればよいのか? 新型のスポーティーな走りを味わいながら考えた。若者向けなの? 大人向けなの?
「ジェネレーションZ」すなわち1990年代後半から2000年代に生まれた若者をターゲットにしたという新型シビックは、しかしかなり大人びたデザインをしている。
全長4550×全幅1800×全高1415mmというサイズを生かしたボディーは、5ドアハッチというよりスポーツバックというカッコつけた言い方のほうがふさわしい。アメコミから飛び出したかのような先代のゴテゴテ・ガキガキっぷりは一気になりを潜め、どちらかといえば欧州車のトレンドに沿った形だ。これでキャラクターラインがパキッと出て、ぼってりとしたボディーの印象を引き締めることができていたら、かなりの秀作として語られたことだろう。もちろんアウディなどはそこに莫大(ばくだい)な資金をつぎ込んでいるわけだから、テイストをまねるだけでは無理な話なのだけれど。
ともかく筆者が言いたいのは、これで若者向けのエントリーモデルなのか? ということだ。いや、これは文句ではなくて質問である。今どきの若者って、こんなに大人びているんですか?(汗) 筆者としては、むしろ先代のほうが若者向けだったと思う。「タイプR」の文金高島田のような印象が強すぎて、すべてのモデルがガンダムイメージになってはいるが、それこそ5ドアハッチなどはちょうどよい派手さを持っていて、若者が“プアマンズR”を気取れたと思うのである。
そんな大人びた新型シビックだが、走らせると結構硬派だからおかしい。端的に言うと筆者には足まわりが硬く感じられ、「お前は若者か? それともオッサンか?」と、クルマの神様に軽く試されているような気持ちになる。
静粛な車内空間といささか硬派な乗り心地
ボディーのつくり込みは、すこぶる上質。走りだすとその静かさにまず驚き、その剛性感に感心させられる。この静粛性は、まずエンジンのクランクシャフトと、オイルパンの剛性を引き上げたことがかなり効いているとのことで、さらにエンジントルクロッドを付けることでその微振動を見事に減衰している。またボディー側では各ピラーに発泡ウレタンを充てんし、フロントアンダーパネルとトレーリングアームの取り付け剛性を上げるなどの振動対策を施した。細かいところでは、ホイールのリムにまで消音機能が付いている。
こうした歯止めの利かない、技術に対する執念ともいうべき注力っぷりはまさにホンダらしくて、いい意味で笑ってしまう。リアシートはタイヤハウスから騒音・振動が侵入してきてCセグメントの域を出ないが、前席に座る限りはとても静かな空間が得られていた。
だからこそ、筆者はもっと、その足まわりをしなやかにすればよいのにと思う。もしくはタイヤの剛性(重さ)を、ワンランクでも下げてあげればいいのにと感じる。
試乗車はすでに3500kmを走破しており、一応のアタリはついているだろう。デビュー時に走らせたとき以上にダンパーは動きを見せていたけれど、道路のつなぎ目のような軽い段差、突き上げのすぐあとにタイヤが落ちるような場面だと、これが伸び切らずに車体が“ドスン”と落下する。これは明らかに運動性能の向上を狙ったセッティングであり、事実シビックは“走らせる”とすこぶる楽しい。
一人で走るぶんには気持ちいい
アクセルを踏み込んでいくと、2000rpm以下ではおとなしくしていた1.5リッター直列4気筒ターボエンジンが、まさにブーストアップして元気に回りだす。182PS/6000rpmの出力に突出したものを感じないのは、シャシーが完璧にパワーを受け止めているからだろう。常用域からピークに達する240N・mの最大トルクを使いながら回転を押し上げ、トップエンド付近で最高出力を発生させる方程式にはエンジン屋のピュアさを感じるし、これを使い切って走れば、クルマの魅力がパワーじゃないことがよくわかる。
そのサウンドは、やや遠鳴り気味だが雑音がなく澄んでおり、今回は特に6段MTだったから、これを気持ちよく回し切ることができた。
こうした動力性能に加えて、先述の通り足まわりは鼻息荒くやる気にあふれている。操舵に対する反応は機敏すぎることなく忠実で、同じくリニアなタッチのブレーキでフロント荷重を高めるほどに、グーッとその接地性を高めていく。そのときのリアのスタビリティーもしっかり保たれており(これがダンパー伸び側を固めた効果だ)、走らせれば走らせるほど、夢中になれる。
ただ、こうした走りは一人きりのワインディングロードで得られる気持ちよさであり、今回などはその道中のほとんどを助手席に編集部K氏を乗せる状況だったから、当然その“うまみ”は発揮できなかった。
となると、もう少しこのフットワークは伸び側にしなやかなストロークを持たせたほうがいいと思うのだ。助手席のK氏は筆者よりも先輩ながらヤングなハートの持ち主なのか「全然乗り心地悪いと思わないけどね」とおっしゃっていたが(編集部のクルマが先代の「BMW M140i」ということも大いに関係しているだろう!)、ドライバーにしてみると、助手席や後部座席に家族や客人を乗せているときは運転に気を使うもの。そういうときは、しなやかな足まわりを、軽い踏力のブレーキングで曲げていく運転をしたくなるものなのだ。
ちなみに、シビックはCVTだとフロント荷重が約30kg重くなり、こうしたスムーズな運転が6段MTよりもしやすい。また、このエンジンはシフトアップ時に未燃焼ガスを燃やす必要があるため回転落ちが悪く、6段MTではシフトアップ時のギクシャク感が目立つ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
言うなれば「男気シビック」
あらためて、新型シビックは筆者の目には硬派に映る。そのキャッチフレーズは「爽快シビック」だが、むしろ「男気シビック」である。
例えると、アシのスポーティーさは「フォルクスワーゲン・ゴルフRライン」と同じかもう少し硬いくらいで、先代「GTI」のほうがずっとまろやかでしなやかだ。ホンダがシビックのガソリンモデルにこうしたセッティングを施した理由は、日本市場における販売台数の少なさと、先代モデルの約3割を6段MT車が占めたことが理由だろう。日本のユーザーは相変わらずシビックにスポーティーさを求めており、販売台数の少なさからいっても、そのキャラクターを曖昧にせずハッキリさせたほうが、埋没しないと考えたのではないだろうか。
それはひとつの、思い切りのよさだ。だったら爽快なんて言わないで、男気……はないにしても、まんま「スポーツシビック」でよかったのではないか? また、ここまで硬派なフットワークを与えるなら、そのエンジンは、このほど発表された北米仕様の高出力バージョン「Si」のものでよかった。加えてベースモデルを仕立て、そちらにはスポーティーながらもよりしなやかな乗り味を与える。そのほうが、このシャシーおよびボディーの素晴らしさが多くの人に伝わると思う。
ハイブリッドモデルの仕上がりに期待
セダンをディスコンした経緯を考えても、日本におけるシビックがスポーツ路線を打ち出したのは正解だろう。ならばより本腰を入れ、ベースモデル、Si(「Si-R」でもいい!)、そしてタイプRと、段階的にホンダのスポーティネスを表現していくべきだ。
最近のシビックはボディーのサイズアップばかりが話題になるが、スポーティーなホンダの顔役としての責任を、タイプRだけに押し付けたことのほうが問題だと思う。セダンを廃止したぶんハッチバックはラインナップを拡充して、シリーズ全体でホンダのスポーツイメージを体現する。そうすればシビックは、この日本でも(台数的な意味ではない)ホンダの顔にカムバックできるだろう。
とはいえ、ホンダは“脱内燃機関”ともとれる発言で世間をにぎわせたばかり。その手前、筆者の妄想のようなプランは考えていても実現させないだろう。望みがあるとすればハイブリッドモデルで、今後、当面ホンダの主力パワートレインとなる「e:HEV」が、シビック用はかなりスポーティーなものになるとのウワサだ。その仕上がり次第で、日本におけるシビックの今後が占えるはずである。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ホンダ・シビックEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1340kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:182PS(134kW)/6000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1700-4500rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y/(後)235/40R18 95Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2)
燃費:16.3km/リッター(WLTCモード)
価格:353万9800円/テスト車=368万8850円
オプション装備:ボディーカラー<ソニックグレーパール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー フロント用 16GBキット<DRH-204WD>(3万9600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(4万8400円)/取り付け工賃(2万2550円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3386km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:216.8km
使用燃料:18.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.1km/リッター(満タン法)/13.5km/h(車載燃費計計測値)
拡大 |

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
スズキDR-Z4S(5MT)【レビュー】 2026.1.7 スズキから400ccクラスの新型デュアルパーパスモデル「DR-Z4S」が登場。“Ready 4 Anything”を標榜(ひょうぼう)するファン待望の一台は、いかなるパフォーマンスを秘めているのか? 本格的なオフロード走行も視野に入れたという、その走りの一端に触れた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.1.6 「三菱デリカミニ」がフルモデルチェンジ。ただし、先代のデビューからわずか2年で……という期間も異例なら、見た目がほとんどそのままというのもまた異例だ。これで中身もそのままならさらに異例だが、こちらは逆に異例なほどの進化を遂げていた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.1.5 デビューから8年を迎え、大幅な改良が施された「スズキ・クロスビー」。内外装に車体にパワートレインにと、全方位的に手が加えられた“AセグメントSUVの元祖”は、フォロワーであるダイハツ・トヨタ連合のライバルとも伍(ご)して戦える実力を獲得していた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.12.30 ホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。といってもただのリバイバルではなく、ハイブリッドシステムや可変ダンパー、疑似変速機構などの最新メカニズムを搭載し、24年分(以上!?)の進化を果たしての見事な復活だ。果たしてその仕上がりは?
-
ルノー・キャプチャー エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECHリミテッド【試乗記】 2025.12.27 マイナーチェンジした「ルノー・キャプチャー」に、台数200台の限定モデル「リミテッド」が登場。悪路での走破性を高めた走行モードの追加と、オールシーズンタイヤの採用を特徴とするフレンチコンパクトSUVの走りを、ロングドライブで確かめた。
-
NEW
第54回:18年目の大改良! 奇跡の不老不死ミニバン「デリカD:5」のナゾ
2026.1.11小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ三菱のオールラウンドミニバン「デリカD:5」が2025年末にまたも大幅改良を敢行。しかもモデルライフが10年をとっくに過ぎた2024年に過去最高の台数が販売されたというのだから、いったい現場で何が起きているのか。小沢コージが開発者を直撃! -
NEW
フェラーリ12チリンドリ(前編)
2026.1.11思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。その名が示すとおり「12気筒」=6.5リッターV12エンジンを積んだ、新たなフラッグシップマシンである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
NEW
東京オートサロン2026(ダンロップ)
2026.1.10画像・写真今年のダンロップブースはオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」一色! 「三菱デリカD:5」や「レクサスIS」はもちろん、クラシックカーの「いすゞ117クーペ」にまで装着して展示された。東京オートサロンの会場より、ダンロップの展示を写真で紹介する。 -
NEW
東京オートサロン2026展示車両(その6)
2026.1.10画像・写真「トヨタGR86」のオフロードマシンに前身宝飾の「メルセデス・ベンツSL」、これぞ定番なドレスアップミニバンの数々……。「東京オートサロン2026」の会場より、個性豊かなカスタムカー、チューニングカーを写真で紹介する。 -
NEW
東京オートサロン2026展示車両(その5)
2026.1.10画像・写真サーキットも走れる「アバルト1000TCR仕様」に、ランボルギーニのトラクター、そして「クラウン コンフォート」ベースのドラッグマシンも! 「東京オートサロン2026」の会場より、記者の目を奪ったモデルを写真で紹介する。 -
NEW
【東京オートサロン2026】コンパニオン・モデル名鑑(その9)
2026.1.10画像・写真年明け恒例となっている、チューニングカーやドレスアップカーの祭典「東京オートサロン」。HEARTILYブースを彩るコンパニオンの姿を写真で紹介する。



















































