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メルセデス・ベンツEQB300 4MATIC(4WD)/EQB350 4MATIC(4WD)

自信がみなぎる 2021.11.16 試乗記 渡辺 敏史 「EQC」からスタートしたメルセデス・ベンツのBEVラインに、コンパクトな3列7人乗りSUV「EQB」が登場。その走りに、既存のモデルと違った新しさはあるのか? 国内での発売を前に、出力の異なる2グレードで確かめた。

パッケージングの損はない

戦略を加速させる欧州勢にあって、ことモデル数という点でみれば先頭をひた走るのがメルセデスだ。SUVラインナップではEQCと「EQA」、専用アーキテクチャーで構成されるセダンは「EQS」と「EQE」、そして商用系の「EQV」と、既に5車種が本国では扱われている。

政治的背景が大きいとはいえ、ちょっと目を離した隙に……という感さえある怒涛(どとう)の展開は彼らのBEV普及に対する気持ちの表れなのだろう。パワートレインを巡る議論は極端になりやすいが、ともあれ次の時代を開くのはわれわれだというメルセデスの強烈な自信はビシビシと伝わってくる。クルマ屋としてそこは冷静に観察しておかないと、とは思う。

そんな彼らの第6のBEVがEQBだ。車名が示す通り、ベースモデルは「GLB」となる。車格は全長がわずかに長いだけで両車ほぼ同一。そしてホイールベースはピタリ同じ。日本車で言えば「トヨタRAV4」や「日産エクストレイル」あたりと同級のユースフルなサイズだ。

懸念されるのはBEV化によるパッケージ的な損失だが、そんな心配をものともせず、GLBの大きな特徴となる3列7シーターの選択肢はEQBでも継承されている。2列5シーターの標準モデルでは荷室床下の容量がやや削られるが、本質的な使い勝手に大差はない。現行「Aクラス」の登場時は、床一面にバッテリーを積むBEVへの拡張性についてエンジニアに問うと言葉を濁していたMFA2プラットフォームだが、そのポテンシャルがいよいよ表れてきたなという感がある。

「メルセデス・ベンツEQB」は2021年9月に世界初公開された、SUVタイプの新型BEV。3列シートの7人乗り仕様が設定されており、SUVに対する多様なニーズに対応する。
「メルセデス・ベンツEQB」は2021年9月に世界初公開された、SUVタイプの新型BEV。3列シートの7人乗り仕様が設定されており、SUVに対する多様なニーズに対応する。拡大
フロントには、メルセデスのBEV共通の特徴となる「ブラックパネルグリル」を装着。ブルーのアクセントがあしらわれたヘッドランプでBEVとしての特別感が演出されている。
フロントには、メルセデスのBEV共通の特徴となる「ブラックパネルグリル」を装着。ブルーのアクセントがあしらわれたヘッドランプでBEVとしての特別感が演出されている。拡大
タービン型のエアコン吹き出し口が目を引くインテリア。助手席前方やセンターコンソールのアルミ製パーツにより、タフなイメージが強調される。
タービン型のエアコン吹き出し口が目を引くインテリア。助手席前方やセンターコンソールのアルミ製パーツにより、タフなイメージが強調される。拡大
リアコンビランプは、一文字型のライトストリップと一体化した個性的なデザイン。ボディーのワイド感も印象づけられる。
リアコンビランプは、一文字型のライトストリップと一体化した個性的なデザイン。ボディーのワイド感も印象づけられる。拡大

性能差はソフトで決まる

その搭載バッテリーはリチウムイオン型で容量は66.5kWh。つまりEQAと相違ない。ホイールベースが100mm違うということは、EQBはさらにバッテリー搭載の白場があるのかと勘ぐれば案の定、より多くのバッテリーを搭載したロングレンジモデルの設定も検討はされているようだ。バッテリーの供給はメルセデスの子会社となる独アキュモーティブが担う。

グレード展開は「300」と「350」の2つで、駆動方式はともに「4MATIC」、つまり前後軸にそれぞれモーターを持つ。トランスファーなどのメカニカルな要素を持たないため、四駆の制御はプログラムに依存する完全なバリアブルとなり、低負荷時や安定走行時は後軸側が主体、状況に応じて前軸側が逐次介入する。このBEVならではの駆動制御の緻密さが新しい次元のドライバビリティーを生み出していることは、「ポルシェ・タイカン」や「アウディe-TRON GT」が示している。クルマの楽しさを未来につなげていくうえで、ここは見て見ぬふりはできないところだ。

担当エンジニアによれば、300と350では搭載するモーターに違いはないという。すなわち0-100km/h加速で片や8秒、片や6.2秒という動力性能差はソフトウエアによって区分けされていると考えていいだろう。今日の内燃機もターボ化によってパフォーマンスの違いはECUが握るという状況は増えたが、BEV普及の暁には、ソフトを買うという感覚がより強くなっていくはずだ。ちなみに最高速は160km/hで両モデル同一。環境派悲願のアウトバーン速度規制導入も、BEVの普及がいよいよ後押しすることになるかもしれない。

最新のBEVらしく、写真のように鮮やかなイルミネーションで内装のカスタマイズを楽しむことができる。
最新のBEVらしく、写真のように鮮やかなイルミネーションで内装のカスタマイズを楽しむことができる。拡大
「EQB」は11kWの交流充電のほか、最大100kWでの急速充電に対応。32分で残量10%から80%までのチャージが可能となる。写真は、充電時の状況を示すメーターパネル。
「EQB」は11kWの交流充電のほか、最大100kWでの急速充電に対応。32分で残量10%から80%までのチャージが可能となる。写真は、充電時の状況を示すメーターパネル。拡大
運転席と助手席の間には、高さのあるアームレスト兼小物入れが設けられている。
運転席と助手席の間には、高さのあるアームレスト兼小物入れが設けられている。拡大
「EQB300 4MATIC」(写真)が0-100km/h加速に要する時間は8.0秒。最高速度は160km/hと公表される。「EQB350 4MATIC」では0-100km/hが1.8秒短縮され6.2秒となるが、最高速度は変わらない。
「EQB300 4MATIC」(写真)が0-100km/h加速に要する時間は8.0秒。最高速度は160km/hと公表される。「EQB350 4MATIC」では0-100km/hが1.8秒短縮され6.2秒となるが、最高速度は変わらない。拡大

驚くほどの洗練度

航続距離は300、350ともにWLTP計測値で419kmと、同426kmのEQAと大きな差はない。車格や重量の差は無視できないため、実際はもう少し差も出るだろう。が、この風当たりの強そうな形にしてCd値0.28を実現するなど、クルマの側も効率向上の努力は積んでいる。

充電は100kWの急速充電にも対応しており、普及し始めたCHAdeMOの90kWチャージャーの活用も期待できるだろう。ちなみに普通充電は日本仕様のEQAの場合、200V・30Aのウォールユニット経由で、ゼロから満充電への所要時間は11時間と発表されている。

試乗においては、日本導入予定の350、そして300の両方を比べることができた。バッテリー搭載の影響か、若干ながら後席足元の床面が高く感じられるパッケージはEQAと同じ。そして3列目シートがミニマムなことはGLBと変わらない。緊急時に合法的に人が乗れるという利便性はあるも、基本は4~5人乗りのクルマだと思う。

試乗車はともにEQBとしては最大径となる20インチのタイヤ&ホイールが装着されていたが、乗り心地は見事に洗練されていた。路面追従性はかなり高く、高速でギャップを踏んだ際にもバネ下をバタつかせるようなそぶりもない。GLBも乗り心地面では「GLA」と一線を画するところにあったが、その長所はしっかり引き継がれているといえそうだ。

塊感のあるボディーの「EQB」だが、密閉されたアンダーボディーや前後エプロンなどの働きにより、空気抵抗係数(Cd値)0.28という優れた空力性能を実現している。
塊感のあるボディーの「EQB」だが、密閉されたアンダーボディーや前後エプロンなどの働きにより、空気抵抗係数(Cd値)0.28という優れた空力性能を実現している。拡大
2列目シートはリクライニング機能付き。前後140mmのスライド機構も備わる。
2列目シートはリクライニング機能付き。前後140mmのスライド機構も備わる。拡大
「EQB」の3列目シートは「165cmまでの人が使用可能」と説明される。折り畳み収納式で、展開時にはチャイルドシートが装着できる。
「EQB」の3列目シートは「165cmまでの人が使用可能」と説明される。折り畳み収納式で、展開時にはチャイルドシートが装着できる。拡大
「EQB」には最大20インチのホイールが装着される。繊細なデザインに加え、ロゼゴールド(写真)またはブルーの差し色で個性を主張する。
「EQB」には最大20インチのホイールが装着される。繊細なデザインに加え、ロゼゴールド(写真)またはブルーの差し色で個性を主張する。拡大

見た目と違ってスキッと曲がる

一方でハンドリングはガラリと表情を変えている。重心位置の違いによる物理的な安定性に加えて、駆動制御による姿勢のフラットさも加わり、もっさりした外観のイメージとは裏腹にスキッと爽やかに曲がる。四駆化は操舵フィールにも好影響をもたらしていて、前輪駆動のEQAでは交差点などの大舵角時に時折感じられたトルクステア的な挙動が影を潜めた。“後ろ押し”のありがたみはこういった日常的なシーンでも味わうことができる。

動力性能は日本導入予定の350のみならず、300でも日常的には十分といった感じ。だが、高速の合流や追い越しなど踏み込みの大きな場面ではさすがにその差がはっきりと現れる。加減速のコントロール性、ブレーキのタッチなどは唐突感なく滑らかにまとめられており、前方の流れに合わせて減速回生度を随時調整するDオートモードを使えば、市街路でのストレスはさらに軽減される。

本国仕様のEQBには、ナビのルート案内と連動してドライブプランに沿った充電スポットの提案が織り込まれるだけでなく、その場所に近づくと充電に備えてバッテリーの温度を最適化するといったインフォテインメント連動の車両マネジメントも備わっている。巷間(こうかん)で言われる日本メーカーのBEV開発の遅れについては個人的にまったく心配していないものの、むしろこういったデジタライズのアイデアの実装やノウハウの蓄積でドイツ勢に先んじられていることは認識しておくべきことだと思う。

EQBの国内発売は2022年中が予定されている。日本でも「日産アリア」や「トヨタbZ4X」&「スバル・ソルテラ」など車格的に近いモデルが相次いで発売を予定されており、いよいよ内外相まみえてBEVは市場の注目を集めることになりそうだ。

(文=渡辺敏史/写真=ダイムラー/編集=関 顕也)

動力性能のうえでは、最高出力228PSの「EQB300 4MATIC」(写真)で十分。ただ、同292PS(215kW)の「EQB350 4MATIC」との差ははっきりと体感できた。
動力性能のうえでは、最高出力228PSの「EQB300 4MATIC」(写真)で十分。ただ、同292PS(215kW)の「EQB350 4MATIC」との差ははっきりと体感できた。拡大
センターコンソールにはインフォテインメントシステムや車両設定の操作デバイス、走行モードのセレクターなどがレイアウトされている。
センターコンソールにはインフォテインメントシステムや車両設定の操作デバイス、走行モードのセレクターなどがレイアウトされている。拡大
荷室の容量は、写真の7人乗り仕様で465~1620リッター。5人乗り仕様車は495~1710リッターと積載量が多くなる。
荷室の容量は、写真の7人乗り仕様で465~1620リッター。5人乗り仕様車は495~1710リッターと積載量が多くなる。拡大
7人乗り仕様の「EQB300 4MATIC」で荷室を最大化した様子。フラットで広々とした空間が得られる。
7人乗り仕様の「EQB300 4MATIC」で荷室を最大化した様子。フラットで広々とした空間が得られる。拡大
「EQB」の生産にあたるのは、ハンガリーのケチケメート工場。中国市場向けの車両は北京の工場でつくられる。2021年の欧州と中国に続き、2022年には米国内でも発売。日本市場については2022年内の導入が見込まれている。
「EQB」の生産にあたるのは、ハンガリーのケチケメート工場。中国市場向けの車両は北京の工場でつくられる。2021年の欧州と中国に続き、2022年には米国内でも発売。日本市場については2022年内の導入が見込まれている。拡大
メルセデス・ベンツEQB300 4MATIC
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テスト車のデータ

メルセデス・ベンツEQB300 4MATIC

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4684×1834×1701mm
ホイールベース:2829mm
車重:2175kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:非同期電動機
リアモーター:永久磁石同期電動機
システム最高出力:228PS(168kW)/--rpm
システム最大トルク:390N・m(39.8kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)235/45R20 100T/(後)235/45R20 100T(ピレリPゼロ)
一充電走行距離:419km(WLTPモード)
交流電力量消費率:18.1kWh/100km(181Wh/km、WLTPモード)
価格:--
オプション装備:--

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh(車載電費計計測値)

メルセデス・ベンツEQB350 4MATIC
メルセデス・ベンツEQB350 4MATIC拡大

メルセデス・ベンツEQB350 4MATIC

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4684×1834×1701mm
ホイールベース:2829mm
車重:2175kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:非同期電動機
リアモーター:永久磁石同期電動機
システム最高出力:292PS(215kW)/--rpm
システム最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)235/45R20 100T/(後)235/45R20 100T(ピレリPゼロ)
一充電走行距離:419km(WLTPモード)
交流電力量消費率:18.1kWh/100km(181Wh/km、WLTPモード)
価格:--
オプション装備:--

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh(車載電費計計測値)

渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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