燃費改善効果は35%以上! ダイハツのハイブリッド「e-SMART HYBRID」の特徴と展望
2021.11.19 デイリーコラムダイハツとして初の自社製ハイブリッド
先ごろ「ダイハツ・ロッキー」と「トヨタ・ライズ」に追加された「e-SMART HYBRID」がちまたで話題だ。ただ、残念ながら実車に触れる機会はまだ得られていないので、ここでは現時点で判明している情報をまとめてみた。
同ハイブリッドのポイントはいくつかある。そのひとつは、これがダイハツ初の自社開発フルハイブリッドであることだ。ダイハツブランドのフルハイブリッド車ということなら、「メビウス」(≒プリウスα)や現在も販売中の「アルティス」(≒カムリ)といったトヨタからのOEMの例があるが、ダイハツの自社製ハイブリッドは、2005~2010年に販売されたマイルドハイブリッド「ハイゼットカーゴハイブリッド」の1台だけだ。しかも、それがライズとしてトヨタにもOEM供給される。つまり、これは“元祖ハイブリッドメーカー”のトヨタが、他社から供給を受ける初のハイブリッドでもあるわけだ(生産委託という意味なら、ダイハツ京都工場で組み立てられる「プロボックス」という先例があるが)。
2つ目のポイントは、ダイハツが選んだのがエンジンは発電、駆動はモーターと完全に役割を分担する「シリーズ式」ハイブリッドだったということだ。市販ハイブリッドとしては日産の「e-POWER」に次ぐ2例目なのはご承知のとおりで、これ以外の国産ハイブリッドは、エンジンとモーターの両方が駆動に参加する「シリーズパラレル式」か、モーターによる単独走行はできない「パラレル式」のどちらかだ。
期待される軽自動車への展開
このタイミングでダイハツがハイブリッドを商品化すれば、これが近い将来の軽自動車(以下、軽)の電動化に対するひとつの回答……と考えてしまうのは当然だ。新しい2030年度燃費基準では、現行実績(2016年)より32.4%の改善が求められている。「軽はすでに燃費がよく環境負荷は小さい」とはいっても、企業別平均燃費の足を引っ張るわけにはいかないだろう。しかし、スズキや日産の軽がすでに商品化しているパラレル式=マイルドハイブリッドによる燃費改善効果は、現状で4~5%といったところ。これが新規制の導入後も主役でいられる可能性は低い。
新燃費基準が義務づけられる2030年度前後になれば、軽の電気自動車も一定のシェアを占めるだろうが、同時にシリーズ式でもシリーズパラレル式でもいいが、とにかくフルハイブリッドも欠かせないのは明らかだ。実際、ダイハツも今回のe-SMART HYBRIDについて「このまま軽に搭載するわけではない」としつつも、技術的な方向性として軽への展開を視野に入れていることは否定していない。来るべきダイハツのフルハイブリッド軽は、ひとまずシリーズ式が中心となるのだろう。
そのシリーズ式ハイブリッドだが、最大のデメリットは高速燃費が伸びにくいことにある。高速道路を淡々と巡航するようなシーンでは、エンジンが直接タイヤを駆動するほうが効率的だ。なので、ホンダの「e:HEV」や三菱のPHEVシステムは、全開加速も含めた大半のシーンをシリーズ式で走るくせに、高速巡航時だけはわざわざエンジンが駆動を担う仕組みになっている。
ただ、ロッキー/ライズのようなスモールカーや軽用に割り切るとすれば、高速燃費は優先事項ではない。またロッキー/ライズでは高速をガンガン走るような顧客に向けて、既存の1リッターターボも残されている(ただし、4WDのみ)。
コンパクト化もコスト削減も抜かりなし
こうした欠点を持ついっぽうで、構造がシンプルなのでコストが比較的低く、レイアウトの自由度も高いためにコンパクト化しやすい……のが、シリーズ式ハイブリッドのメリットだ。実際、ダイハツのe-SMART HYBRIDも日産e-POWERも、モーターと発電機を並列配置(横置きFFの場合は前後方向にならぶ)するという基本レイアウトはよく似ている。このレイアウトだと、横置きFFなら左右方向の寸法を詰めやすい。
さらにe-SMART HYBRIDは、「このまま軽には使わない」といいつつも構成ギア数を最小限にするなど、コンパクト化に対する手当が入念だ。開発担当氏も「他社製品との比較は控えさせていただきますが、コンパクトにできたことでロッキーとライズはSUVらしい大径タイヤを採用しながら5ナンバーサイズに抑えられています」と語る。現時点で厳密な寸法は不明だが、現物を見るかぎりは日産ノートのe-POWERより、さらにコンパクトなパワーパックという印象だ。
さらにダイハツの開発担当氏は「MG、電池スタックと電池パック構成品、制御基板を除くPCUと、その周辺部品などにトヨタの部品を流用しております」とも語る。MGとはモータージェネレーター、PCUはパワーコントロールユニットのことだ。つまり、仕組みやトランスアクスル、ギアなどはダイハツ独自だが、核となる部品の多くはトヨタの「THS II」と高度に共有化しているわけだ。動力用リチウム電池の容量は4.3Ahとされているので、これも「ヤリス」や「ヤリス クロス」のそれと共通品と思われる。e-SMART HYBRIDはもともとシンプルな構造だが、部品の共用によるさらなるコストダウンにも抜かりない。
35%を超える燃費改善を実現
そのいっぽうで、ダイハツは「従来の『KR型』とは、共通部分や部品はまったくありません」(開発担当氏)という1.2リッターエンジン「WA-VE型」を完全新開発した。さらには「ストロングハイブリッド車で使用することを当初より想定して、ハイブリッド用の特性をつくり込みました」(同氏)とのことで、e-SMART HYBRID用のユニットでは最高熱効率が40%に達するという。
新しいロッキー/ライズには新開発の1.2リッターだけで走らせる純エンジン車のグレードも用意されており、その燃費はWLTCモードで20.7km/リッターとされる。対するe-SMART HYBRIDは28.0km/リッターなので、その差は35%以上! さらに従来の1リッターターボ(のFF車)の値と比較すると、5割以上(!!)の燃費改善となる。残る課題は価格だ。現状のロッキー/ライズでも、純エンジン車との価格差が30万円前後と他社フルハイブリッドよりは安価な設定を実現しているが、軽に本格展開するにはまだ物足りない。それでも、少なくとも性能的に見て、本命の軽用ハイブリッドの伏線あるいは観測気球(?)としては上々……という計算である。
(文=佐野弘宗/写真=ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業/編集=堀田剛資)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。