【F1 2021】サウジアラビアGP続報:フェルスタッペン対ハミルトン、タイトル争いは同点で最終戦へ
2021.12.06 自動車ニュース![]() |
2021年12月5日、サウジアラビアのジェッダ・コーニッシュ・サーキットで行われたF1世界選手権第21戦サウジアラビアGP。“世界最速の市街地コース”を舞台に繰り広げられた、マックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンによる栄冠を懸けた戦い。次々と変わる展開に、戦うドライバーやチーム、そしてレースの観戦者は、絶えず緊張を強いられることとなった。
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チャンピオン決定戦の「第1幕」
今シーズンもいよいよ大詰め。初タイトルを狙うマックス・フェルスタッペンと、前人未到の8冠を目指すルイス・ハミルトンの2人による頂上決戦は、2週連続開催の中東2レースのいずれかで決着することとなった。
初開催の第21戦サウジアラビアGPで、フェルスタッペンがハミルトンに対するリードを8点から18点に広げることができたら、レッドブルのエースがチャンピオンとなる計算。しかしその条件は、以下のように厳しいものだった。
- フェルスタッペン優勝+ファステストラップを記録した場合、ハミルトンが6位以下(ファステストラップがない場合、ハミルトン7位以下)
- フェルスタッペン2位+ファステストラップを記録した場合、ハミルトンが10位以下(ファステストラップがない場合、ハミルトン無得点)
また直近2戦での勢いは、明らかにメルセデスのほうにあった。第17戦アメリカGP、第18戦メキシコシティGPとフェルスタッペンが2連勝した後に、ハミルトンが圧倒的な速さで第19戦サンパウロGP、第20戦カタールGPと勝ち星を取り続けてきていた。
さらに“世界最速の市街地コース”とうたわれる新しいジェッダは、その高速なコース特性からもメルセデス有利といわれ、レッドブル陣営としては強敵相手に苦戦するシナリオも十分想定できた。
2021年シーズンのチャンピオン決定戦。その「第1幕」では、年間を通じて繰り広げられた2人のトップドライバー、2つのチームによる、緊張感ある戦いが続くことになり、波乱と混乱のうちに終わるのだった。
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メルセデス最前列独占、フェルスタッペンは痛恨のクラッシュで3位
鬼気迫る走りとは、まさにこれだと誰もが思ったはずである。
全長6.174kmの細長いコースの上に、カレンダー最多となる27ものコーナーが点在するジェッダ。平均時速は250km以上、息つく暇もなく高速ブラインドコーナーが連続するハイスピードトラックで、まるで壁にヤスリをかけるようにギリギリのラインで攻め続けたフェルスタッペンのQ3アタックラップは、最後の最後、27個目のコーナーでウォールにヒットし、不完全なまま終わってしまった。
ポール間違いなしだったフェルスタッペンの自滅により、予選P1を獲得したのはハミルトン。史上最多ポール記録保持者の彼にとって、意外にも今季初の2戦連続ポールとなり、通算回数はこれで103回を数えるに至った。バルテリ・ボッタスが2位につけ、メルセデスは今季4度目のフロントロー独占。初日こそ好調な滑り出しをみせたメルセデス勢だったが、翌土曜日になるとレッドブルに肉薄されていただけに、この予選順位には当人たちも驚きだったことだろう。
フェルスタッペンは、3位からメルセデスの壁を越える必要に迫られた。フェラーリのシャルル・ルクレールを間に挟み、僚友セルジオ・ペレスは5位。孤軍奮闘となることは想像できた。
アルファタウリ勢は、ピエール・ガスリー6位、角田裕毅は8位とダブル入賞に向けて絶好のポジション。マクラーレンのランド・ノリス7位、アルピーヌのエステバン・オコン9位、アルファ・ロメオのアントニオ・ジョビナッツィ10位という上位グリッド順でレースを迎えることとなった。
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赤旗中断で波乱の幕開け
2021年の栄冠の行方を左右する50周のレースは、2度の赤旗中断に加え、セーフティーカーやバーチャルセーフティーカーが頻発する忙しい展開となり、それぞれの局面で、チャンピオンシップで火花を散らす2人のドライバーと2つのチームが文字通りぶつかり合った。
まずはスタートから最初の10周目までは比較的落ち着いていた。首位をキープしたハミルトンに次いで、2位ボッタス、3位フェルスタッペン、4位ルクレール、5位ペレスと各車順当な滑り出しをみせると、1-2をキープできたメルセデス勢は互いにファステストラップを更新し、フェルスタッペンを突き放しにかかろうとしていた。
波乱のきっかけは、ハースのミック・シューマッハーによるクラッシュだった。10周目にセーフティーカーが出て、これを機にハミルトン、ボッタスがピットに入りミディアムタイヤからハードに換装。メルセデス攻略のために別の戦略を採るしかなかったレッドブルは、フェルスタッペンをコースにとどめることとした。
これで1位フェルスタッペン、2位ハミルトン、3位ボッタスとなったのだが、シルバーアローの陣営にとって誤算だったのは、クラッシュで破損したウォール修復のために赤旗が出されたこと。赤旗中断中はタイヤ交換も自由に行えるため、フェルスタッペンは順位を失うことなく、フレッシュなタイヤを履いて再スタートできる幸運に恵まれたのだ。フェルスタッペンのみならず、4位オコン、5位リカルド、7位ガスリーらノンストップ組が、この恩恵を受けることとなった。
ハード装着のフェルスタッペンを先頭に、15周目からスタンディングスタートでレース再開。ハミルトンがトップを奪ったかと思われたが、フェルスタッペンは強引にターン1をカットして首位の座を守った。だが、その後方でペレス、ハースのニキータ・マゼピンらがクラッシュしたことで、2度目のレッドフラッグが提示された。
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ハミルトン、フェルスタッペンに追突
2回目の中断中にも、再スタートでターン1をカットしたフェルスタッペンの降格を巡り、チーム首脳とFIA(国際自動車連盟)による駆け引きが行われていた。無線での丁々発止の結果、フェルスタッペンは3位に下げられ、1位オコン、2位ハミルトンという並びで、17周目、3度目のスタンディングスタートが切られた。
3度目の正直、今度はフェルスタッペンがトップ奪取に成功し、ハミルトンが程なくしてオコンを抜き2位へ上がった。ハミルトンは、今年の王者は俺だ、と言わんばかりの渾身(こんしん)のラップを刻みフェルスタッペンを猛追。勝負の決着はまだまだ先のことだった。
フェルスタッペンがミディアム、ハミルトンはハードとタイヤ選択は分かれていた。タイヤの持ちに若干の不安を残すフェルスタッペンだったが、角田とセバスチャン・ベッテルが接触するなどし、コース各所にマシンの破片が散らばっていたため、度々バーチャルセーフティーカーが出たことは幸いだったかもしれない。
フェルスタッペンのリードが1秒以下となった37周目、真後ろのハミルトンは、メインストレートでスリップストリームを使いレッドブルを抜こうとしたが、フェルスタッペンはかたくなに譲らず、マシンをスライドさせながらターン1をショートカットして首位の座を死守した。しかし、このコースオフでアドバンテージを得たとして、フェルスタッペンはハミルトンにトップを明け渡す必要に迫られた。
同じ周に、フェルスタッペンは自ら首位を譲ろうと減速するも、背後のハミルトンは、なぜライバルが突如スピードを落としたか、その理由を知らされていなかった。メルセデスがレッドブルに追突するかたちで2台は接触。事態を把握していないハミルトンは、「なんて危険なドライバーなんだ!」とフェルスタッペンへの怒りをあらわにするも、フロントウイングを壊しながら走行を続け、43周目にようやく1位を奪還すると、その後はそのポジションのままゴールし、3連勝を飾るのだった。
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タイトル争いは同点で最終戦へ
一方のフェルスタッペンは、37周目のターン1のインシデントで5秒加算、レース後には減速後の追突の責任を問われ10秒プラスのペナルティーを受けながらも、最終的に2位でレースを終えている。
ハミルトンが持つファステストラップを奪いたかったが、ピットインして新しいタイヤに履き替えるほど後続とのマージンを築けておらず、結果、チャンピオンシップでハミルトンに同点で並ばれることとなった。
その後続として3位でチェッカードフラッグをくぐり抜けたのは、メルセデスのボッタス。ゴールライン目前でオコンを抜き去ったことで、コンストラクターズチャンピオンシップでのメルセデスのリードを28点に拡大させた。
ハミルトンのレースエンジニア、ピーター・ボニントンが「最もクレイジーなレース」と称したサウジアラビアGPが幕を閉じた。
ポディウムセレモニーの後のシャンパンファイトに興じるメルセデス勢を横に見ながら、フェルスタッペンは静かに表彰台を去っていった。「納得できないこともあるが、すべてはやった」とはレース後のフェルスタッペンの弁。そんなライバルを見て、ハミルトンは「彼はリミットを超えていた」と話している。
フェルスタッペンの最大の魅力は、恐れを知らないアグレッシブなドライビングだ。時としてそれが仇(あだ)となることもあるが、F1の新しい時代をけん引するにふさわしい、若さと勇猛果敢さに満ちた走りは、人々を熱狂させ、引きつけてやまない。
だが、アグレッシブさだけではチャンピオンになれないということも、また言えるのである。そのことを最も熟知しているハミルトンとの、新旧ドライバー対決の構図に、今シーズンをビンテージイヤーと呼ばせる一番の理由がある。
同点での最終決戦は、1974年、エマーソン・フィッティパルディとクレイ・レガッツォーニ以来となる史上2回目。上位でフィニッシュしたほうが栄冠を手にすることになる。アブダビGP決勝は、12月12日に行われる。
(文=bg)