トヨタ・カローラ クロスS(4WD/CVT)
カローラの真骨頂 2021.12.08 試乗記 「カローラ クロス」は50年以上の歴史を誇る「トヨタ・カローラ」シリーズで初めてのSUVだ。国民車として長く親しまれてきたカローラにSUVのユーティリティー性能が加われば「言うことなし!」のはずだが、果たしてその仕上がりは?巧妙な装備設定
カローラ クロスは2020年夏の世界初公開の場がタイだったこともあって、デビュー当初は新興国向けの戦略商品と思われた。実際、筆者も当時のいくつかの記事にそう書いた。
だが、今回の取材でカローラシリーズの上田泰史チーフエンジニアにうかがったところ、クロスの日本導入は当初から予定されていたそうだ。日本に続いて、この2022年モデルからは北米でも販売開始となり、2022年中には欧州市場にも投入されることが明らかになった。これは完全なグローバル商品である。
ただ、カローラのセダンやステーションワゴン、ハッチバックと比較すると、カローラ クロスにはそこかしこに、コストダウンのためと思われる独自の工夫が見られるのも事実だ。とくに目立つのはインテリアの仕立てで、従来のカローラだと本ステッチがあしらわれた厚めのソフトパッドに覆われるダッシュボードが、クロスではハード樹脂となっている。デザイン上のアクセントとしてステッチ加飾は残されているものの、クロスはそれ風の樹脂成形となっている。センターコンソールも他のカローラはステッチやソフトパッドによる凝った仕上げなのに対して、クロスはよくも悪くもシンプルだ。
いっぽうで、センターコンソールとドアのグラブハンドルにシルバー加飾を施して、SUV化にともなって高くなったダッシュボードを4本のシルバーの柱で支えるイメージのデザインはクロス独自である。加えて、先進運転支援システムやインフォテインメント装備はほかのカローラと同等で、主要グレードには後席用エアコンアウトレットも備わるし、電動パーキングブレーキも省かれない。寒冷地仕様を選べば全車にステアリングヒーターが装備されるなど、カタログで確認できる装備内容に見劣り感はまるでない。実車をならべて見比べないかぎり、コストダウン感をいだかせない商品づくりは巧妙というほかない。
あくまで生活ヨンク
もうひとつ、クルマオタク的に注目なのは、現行カローラシリーズとしては初めて、FF車のリアサスペンションにトーションビームが採用されたことである。これもコストダウンに有効なのは間違いないが、「トーションビームを新開発した最大の目的は、軽量化やスペース確保のため」と前出の上田チーフエンジニアは語る。
リアサスペンションがダブルウイッシュボーンの独立型となる今回のハイブリッド4WDではその恩恵にはあずかれないが、FF車はトランクのフロア高も深く掘り込まれたように低くなっており、荷室容量はクラストップをうたう。サイドシルをカバーするドア構造も含めて、レジャー用SUVとして意外なほど(失礼!)良心的なつくりになっているのも、このクロスも含めたカローラシリーズのよいところだ。
今回の取材は横浜みなとみらいを中心とした試乗会でのもので、ハイブリッド4WDの「S」グレードを中心としつつも、同条件で1.8リッターの純エンジン車(駆動方式は当然FF)の「Z」も乗ることができた。
カローラ クロスのハイブリッドシステムは、4WDのリアモーターも含めて、「プリウス」の1.8リッターの「THS II」をほぼそのまま使っている。リアモーターは最高出力7.2PSと控えめで、あくまで「立ち往生しないため」の最低限の走破性を意図した簡易的生活4WDと考えるべきものだ。実際、リアルタイムの4WDインジケーターを観察していても、今回のようなドライの舗装路でリアモーターがトルクを供給するのはゼロ発進時のみ。走行中はいかに積極的にアクセルを踏もうが、意地悪に急旋回しようが、前輪が空転しないかぎりリアモーターは稼働しないようだ。
安価なモデルこそおすすめ
横浜周辺の市街地での乗り心地は、ほかのカローラから想像するより引き締まった印象だ。上下動も少し多い気がする。ただ、高速に乗り入れて速度が高まるごとにストローク感が出て、100km/hレベルに近づくにつれてフラット感は確実に増していく。それでも、その乗り心地は全体に硬めで、ゴロゴロとした路面感覚も残る。
合間に乗った1.8リッターFF車は、より低偏平の18インチタイヤにもかかわらず、市街地での乗り心地が明らかに柔らかで快適だった。上田チーフエンジニアにそう指摘すると「FFは日常域での乗り心地にこだわりました」と、わが意を得たりという表情をした。
高機動状態での操縦性や安定性ではダブルウイッシュボーンに分があるであろうことは理屈のうえでは想像できるが、少なくとも市街地や都市高速で、トーションビームに不足を感じることはない。限界性能が少しばかり落ちるのは事実だとしても、そういう領域をうかがうような走りをする向きは、自分の運転でそれを補完するのも楽しみのひとつとすべきだろう。
4WDが簡易的なものにとどまることを考えても、積雪地域に住んでいる人以外、カローラ クロスであえて4WDを選ぶ意味は薄いというのが正直なところだ。SUVらしく使い倒すための4WDがお望みなら、ほかのSUVを当たったほうがいい。
たとえば「ヤリス クロス」は「ヤリス」比で25~30万円高といったイメージだが、カローラ クロスとほかのカローラの同等グレードとの価格差は、大半で20万円を切る。カローラ クロスがSUVとしては明らかに安価なのは、巧妙なコストダウンによるところも大きいのだろう。今回はハイブリッド4WD中心の試乗となったが、同条件で乗り比べると「FFのほうがいい」とか「1.8リッター純エンジンが軽快で心地よい」と思えた。ただでさえ割安なのに、乗るほどに安価なバリエーションのほうが好印象になるのも、カローラ クロスのカローラらしい美点(?)かもしれない。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
トヨタ・カローラ クロスS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1825×1620mm
ホイールベース:2640mm
車重:1490kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流誘導電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/3600rpm
フロントモーター最高出力:72PS(53kW)
フロントモーター最大トルク:163N・m(16.6kgf・m)
リアモーター最高出力:7.2PS(5.3kW)
リアモーター最大トルク:55N・m(5.6kgf・m)
システム最高出力:122PS(90kW)
タイヤ:(前)215/60R17 96H/(後)215/60R17 96H(ブリヂストン・アレンザ001)
燃費:24.2km/リッター(WLTCモード)
価格:295万9000円/テスト車=323万7850円
オプション装備:アクセサリーコンセント<AC100V・1500W、非常時給電システム付き>(4万4000円)/ブラインドスポットモニター+パーキングサポートブレーキ(4万4000円)/パノラミックビューモニター(2万7500円)/寒冷地仕様・PTCヒーター付き<ウインドシールドデアイサー/ヒーターリアダクト>+LEDリアフォグランプ<右側のみ>+ステアリングヒーター(3万8500円) ※以下、販売店オプション ETC2.0ユニット ナビキット連動タイプ(3万3000円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>(2万8600円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3260km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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