核はやはり「技術による先進」 アウディのCEOがF1世界選手権に挑戦する意義を語る
2026.02.13 デイリーコラムレギュレーションの大幅変更を契機に
2026年1月20日(現地時間)、アウディとしては初となるF1チーム「Audi Revolut F1 Team」が、独ベルリンでローンチイベントを開催し、2026年型マシン「R26」のリバリーを公開した。ちなみに“リバリー”とは自動車や航空機のカラーリングを意味する言葉で、この時期、新シーズンに向けたニューマシンを発表する際によく使われる。
ご存じのように、アウディはこれまでWRC(世界ラリー選手権)やWEC(世界耐久選手権)、フォーミュラEなどのモータースポーツに参戦してきたが、F1は初挑戦となる。彼らがF1参戦を決めたきっかけが、北米でのF1人気の上昇、そして2026年シーズンからの大幅なレギュレーション変更だ。
まず、大きく重くなりすぎたといわれるマシンは、より小型で軽量になる。ホイールベースは200mm短縮され3400mmに、全幅は100mm縮小され1900mmになり、フロア幅も150mm削減される。そして最低重量は30kg減の770kgに。タイヤは18インチサイズのままだが、フロントは25mm細く、リアは30mm細くなり、ドラッグの低減と軽量化が図られる。またDRS(ドラッグ・リダクション・システム)に代わり、可動式のフロントウイングおよびリアウイングを採用。これにより、ドライバーはダウンフォース量を必要に応じて調整することができるようになる。
そして、最大の変更点がパワーユニットだ。これまでは内燃機関(ICE)のパワーが8、電気エネルギーが2という出力配分だったが、モーター出力が120kWから350kWへと大幅に増加し、5:5の割合になる。またハイブリッドシステムに関してはMGU-H(熱エネルギー回生システム)が廃止され、MGU-K(運動エネルギー回生システム)のみとなり、構造がシンプルに。ICEは1.6リッターターボのままだが、圧縮比が従来の18:1から16:1へと制限された(これについては現在メルセデスやレッドブルがとった方策について論争が起きている)。さらに100%カーボンニュートラル燃料の使用が義務づけられる。
この、近年まれにみる大幅な規則変更を、アウディはF1参戦への好機と捉えたわけだ。
着々と進められたフルワークス体制での参戦の準備
これまでを振り返ると、アウディは2022年にF1への参戦を表明。2024年にスイスに本拠を置くレーシングチーム、ザウバーを買収する。2024年には、2019年から2022年までスクーデリア・フェラーリのチーム代表を務めたマッティア・ビノット氏をアウディF1プロジェクトの責任者として招聘(しょうへい)。その翌年には、レッドブル・レーシングの創設期からチームに参加し、在任中に14のワールドチャンピオンシップを獲得する偉業を成し遂げた、ジョナサン・ウィートリー氏をチーム代表として招いた。
開発拠点は3つ。スイス・ヒンウィルにある元ザウバーのファクトリーとイギリス・ビスターに新設されたテクニカルセンターでシャシーを、そしてドイツ・ノイブルクでパワーユニットの開発を行う。これら3拠点を連携し、シャシーもエンジンも自社で開発するフルワークス体制での参戦に向けて、着々と準備を進めてきた。
ちなみに、ノイブルクにあるパワーユニット開発拠点は、そもそもAudi Sport(アウディスポーツ)の拠点として、WECやフォーミュラEのマシン開発なども行われてきた場所だ(参照)。
ローンチイベントは、ベルリン市内にある巨大な工場跡地をリノベーションした「クラフトヴェルク」で行われた。大きく重い鉄の扉を開くと、フロアの1階には「アウトウニオンCタイプ」をはじめ、「スポーツクワトロS1」「A4 DTM」「R18 e-tronクワトロ」といった、アウディのモータースポーツのヘリテージモデルが展示されていた。
その2階に特設ステージを用意し、世界中から駆けつけたプレス、スポンサー、チーム関係者など、400人を超える観衆の前で、大型スクリーン上に現れたエースドライバーのニコ・ヒュルケンベルグがベールをはがす演出によって、「R26」は初公開された。翌日には、抽選で選ばれた600人以上のファンがこの会場を訪れたという。
スピーディーなF1の文化を取り込みたい
F1は継続するのが難しいモータースポーツだ。ホンダやトヨタを見ているとそれが伝わってくる。初参戦でしかもパワーユニットまで手がけるフルワークス体制で挑むアウディは、どのような展望を抱いているのだろうか。
発表会の会場で、アウディAG CEO兼アウディモータースポーツAG取締役会会長のゲルノート・デルナー氏に、少し話を聞くことができた。
――あらためてうかがいます。なぜアウディがF1に参戦するのでしょうか?
ゲルノート・デルナー氏(以下デルナー):F1への参入はより大きな目標に向けた変革の一部であり、技術力を高め、パフォーマンス向上のための継続的な学習を受け入れ、世界中で優れたパフォーマンスを発揮するアウディの未来をかたちづくるという、私たちの戦略的な決断を強化するものです。このプロジェクトは、アウディのスローガンである「Vorsprung durch Technik(技術による先進)」を示す究極のステージであり、アウディブランドの未来にとって、強力な推進力となるものです。
――「F1はアウディにとって大きな目標に向けた変革の一部である」ということですが、具体的にどのように変革しようとしているのか、もう少し詳しく教えてください。
デルナー:アウディは今、歴史上最大の転換期を迎えており、われわれは車両開発はもとよりソフトウエア、ハイブリッド、バッテリー技術の開発へと立ち向かわなければなりません。
そしてこのF1プロジェクトは、チームワーク、スピード、迅速な意思決定という点で、まさにインスピレーションを与えてくれる“スピードボート”(小規模で高速、機敏に動くプロジェクト)のような存在です。こういったF1の文化をアウディ本体へと取り込みたいのです。このプロジェクトに対してアウディ全社の反応も非常によく、チームに大きな力を与えています。それが私をとてもワクワクさせます。
――現在のアウディの量産車のラインナップを見ると、「TT」も「R8」もなくなり、特別なスポーツモデルは「RS e-tron GT」くらいしかありません。せっかくF1に参戦するのに、このような状況をどうお考えですか? 今後、スポーツモデルをつくる予定はありますか?
デルナー:私は2年半前にアウディに入社したのですが、当時はそのような方向性(スポーツカー開発)のプログラムはありませんでした。そこで、まず新しいRSモデルの開発をスタートしました。2026年中には重要なモデルが発売される予定です。また、初の電動スポーツカー「コンセプトC」の開発にも取り組んでいます。そしていつか、アウディブランドから正真正銘のスポーツカーを発売して、皆さまを驚かせる日がくるでしょう。しかし、それについてはまだお話しするには時期尚早です。
――欧州委員会による2035年の内燃エンジン車販売中止の決定が見直されました。アウディとしては、内燃エンジンモデルの生産を続けますか?
デルナー:そうですね。前任者の時代には、会社はエンジン車を終了する計画を立てていました。しかし、私はそれも見直しました。少なくとも今後10年間は、内燃機関を続ける予定です。ただし、そのプロセスは継続的に見直されることになります。市場の要求に柔軟に対応し、段階的に決定を下していきます。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
2030年にはチャンピオン争いに加わりたい
アウディはF1参戦に際し、「2030年までにチャンピオンシップ争いができるチームをつくること」を目指すと明言している。それはすなわち、アウディ本社として最低でも5年間はF1にコミットメントし続けることを意味する。
アウディF1プロジェクト責任者のマッティア・ビノット氏は、それについてこう話していた。「もちろんチャンピオンを目指すといっても、確実に達成できるとは限りません。時間がかかることはわかっています。チームをつくり上げ、インフラ、ツール、プロセス、組織を構築する必要があります。これは1日でできることではありません。2030年という数字は、確かに野心的な挑戦であるといえます。しかし社内で議論した結果、これが正しい目標だと確信しています。目標が明確になることで初めてなにが不足しているのか、なにをすべきか、戦略を描くことができるのです」
チームは2月中の2度にわたるバーレーンでの公式テストを経て、3月6日にオーストラリアで2026年シーズンの開幕を迎える。そして3月27日からは第3戦の日本GPがはじまる。鈴鹿を走る「R26」に期待したい。
(文=藤野太一/写真=Audi Revolut F1 Team/編集=堀田剛資)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇

藤野 太一
-
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?NEW 2026.8.12 2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。
-
メルセデスの意地を見た! 新型「CLA」で注目したい自動車のテクノロジー 2026.8.10 メルセデス・ベンツの新型「CLA」とそのBEV版「CLA with EQテクノロジー」には、同ブランドの未来をかけた新技術が多数盛り込まれている。なかでもメルセデスの矜持(きょうじ)が感じられる、注目のテクノロジーを紹介しよう。
-
日本メーカーは猛省せよ! 軽スーパーハイトワゴン初のEV「BYDラッコ」誕生の衝撃 2026.8.7 BYDが新型軽EV「ラッコ」を日本に導入! 軽スーパーハイトワゴンという人気ジャンル初のEVが、日本ではなく中国のメーカーから出てきたことを、私たちはどう考えるべきなのか。コスパの話にとどまらない、BYDラッコの真の衝撃について考えた。
-
補助金効果で爆売れ 納車が長期化する「ホンダ・スーパーONE」に代わるおススメのBEVは? 2026.8.6 場合によっては軽規格の電気自動車(BEV)「ホンダN-ONE e:」よりも安く乗れるとネット界隈で話題の「スーパーONE」。ただし、納車に時間かかると肝心の補助金が……。と、そんな人気のスーパーONEに代わるBEVを下町の中古車評論家がご紹介。
-
16年ぶりのフルモデルチェンジ 新型「日産エルグランド」の価格は妥当か? 2026.8.5 実に16年ぶりのフルモデルチェンジで登場した新型「日産エルグランド」。その価格は「X e-4ORCE」の689万7000円からとなっているが、はたしてこの設定は買い得なのだろうか。グレード間の装備差やライバル車との比較を通じて検証した。
-
NEW
「スバルBRZ」が採用した「新しいシフトレバー構造」とは何か?
2026.8.12デイリーコラム2026年7月31日に発表された「スバルBRZ」の最新モデルでは6段MTへの「新しいシフトレバー構造」の採用がうたわれている。すでに熟成し切った技術のように思われるマニュアルトランスミッションだが、2026年にもなってどんな構造を取り入れたのだろうか。スバルに聞いてみた。 -
NEW
第124回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(前編) ―絶対王者に戦いを挑む、次世代高級ミニバンのカーデザイン―
2026.8.12カーデザイン曼荼羅日産が新型「エルグランド」を発売し、海の向こうではメルセデス・ベンツが「VLE」を発表するなど、いまにわかに盛り上がりを見せている高級ミニバンのかいわい。新興勢力は王者「トヨタ・アルファード」の存在を超えられるのか? カーデザイン視点で考えた。 -
NEW
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】
2026.8.12試乗記トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。 -
ネジやボルトの“締め付け”ひとつでクルマの乗り心地やハンドリングがよくなるって本当?
2026.8.11あの多田哲哉のクルマQ&A車体の組み上げに使われる、無数のネジやボルト。その締め方次第でよりよい走りを実現できるというのは本当なのか? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いてみた。 -
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.8.11試乗記新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。 -
メルセデスの意地を見た! 新型「CLA」で注目したい自動車のテクノロジー
2026.8.10デイリーコラムメルセデス・ベンツの新型「CLA」とそのBEV版「CLA with EQテクノロジー」には、同ブランドの未来をかけた新技術が多数盛り込まれている。なかでもメルセデスの矜持(きょうじ)が感じられる、注目のテクノロジーを紹介しよう。















































