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第184回:「大矢アキオ さすらいのジュネーブショー2011」(前編) 映画「タッカー」の現代版を見た?

2011.03.12 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第184回:「大矢アキオ さすらいのジュネーブショー2011」(前編) 映画「タッカー」の現代版を見た?

クルマのミスコン!?

井上陽水に「ミスコンテスト」という曲があった。
「たよりなさそうな 司会者がさけぶ」「誰がナンバーワン」……といった歌詞で、虚構と美辞麗句に満ちた美人コンクールの模様をシニカルに描いた作品である。

第81回ジュネーブモーターショーが2011年3月1日に開幕した。世界初・欧州初・スイス初を合わせると、今年その数は160台以上にのぼる。昨2010年の約150台を上回る数だ。
高出力・ミドシップエンジン・後輪駆動といった、伝統的なファクターで訴求するメーカーが多くみられたのは、リーマンショック以降の2009年、2010年度が環境・低燃費技術に大きく傾いたのに対する揺り戻しといえよう。

しかしながら、記者発表やプレスリリースで語られる言葉は、「低燃費」「環境」「走る楽しさ」「軽量化」「未来」「ダイナミクス」といった、紋切り型のニュアンスが支配していた。にもかかわらず新しいクルマがスモークとともに登場するたび、ステージの周囲からは拍手喝采が沸く。
「わが社の新型車は日本で売れそうか?」と聞かれたら、あまり悲観的なことを言うのはふさわしくないムードが漂っている。そうしたシチュエーションに遭遇するたび、例の「ミスコンテスト」の歌詞を思い出して、「ああ、これはクルマのミスコンテストじゃないか」と思ってしまうボクなのである。

第81回ジュネーブモーターショー会場の様子。
第81回ジュネーブモーターショー会場の様子。 拡大

ガルウイングだけが能じゃない

閑話休題。今年のスターの1台は、近未来のクロスオーバーを表現したルノーの「キャプチャー」である。ただしルノーはもう1台、興味深いコンセプトカーを展示した。その名を「R-SPACE(Rスペース)」という。1984年に「エスパス」で先鞭(せんべん)をつけ、モノスペースデザインのパイオニアを自称するルノーが提案する近未来のスペースユーティリティカーである。全長は4.25メートルにとどめ、パワーユニットもコンパクトな900ccの3気筒ターボ、110馬力だ。
マツダから移籍したオランダ出身のデザイン本部長、ローレンス・ファン・デン・アッカーのディレクション下で製作されたコンクセプトカーとしては3台目となる。そのファン・デン・アッカー氏は、スーツに派手なスニーカーというお決まりのスタイルで「Rスペース」の脇に立っていた。

まずボクは就任1年ちょっとの彼に、ルノーの伝統であるエレファントノーズの扱いについて聞いてみた。すると彼は「(エレファント・ノーズは)ルノーデザインの良いアイコンです」と、これからもデザインのエッセンスとして継承していくことを示唆した。
次にファン・デン・アッカー氏と共に、ターンテーブルに置かれた「Rスペース」の内部を見せてもらう。そのリアセクションを見て驚いた。そこに敷き詰められたキューブというか積み木状のクッションには、計27個の小型モーターが仕組まれていて、プログラミングによって個々の高さが変わり、4タイプの形状に変化する。停車時には子供のプレイスペースにも早がわりするという。
ドアをガルウイングかピラーレスのセンター開きにして「はいコンセプトカーです」といった作品があふれるなか、ああ、まだこんな手もあったのか!

そしてファン・デン・アッカー氏は、「今日、自動車は個人的な空間になってしまいました。しかし、私が小さいとき父が乗っていたステーションワゴンは、家族で共有する空間でした」と語った。

ボクはあえて彼の父親が乗っていたクルマが何かは聞かなかったが、オランダ人といえば、欧州の中でも屈指のクルマ旅好きである。イタリアでも毎年夏になると、“さまよえるオランダ人”たちのワゴンやキャンピングカーでいっぱいになる。Rスペースには、デザイナーのそうした“共有するクルマ”への思い出が込められているのである。

「ルノー・キャプチャー」
「ルノー・キャプチャー」 拡大
「ルノーRスペース」
「ルノーRスペース」 拡大
「Rスペース」の後席は個々のキューブが上下し、形状が変化する。
「Rスペース」の後席は個々のキューブが上下し、形状が変化する。 拡大
ルノーのデザイン本部長、ファン・デン・アッカー氏。
ルノーのデザイン本部長、ファン・デン・アッカー氏。 拡大
「デ・トマソ ドーヴィル」
「デ・トマソ ドーヴィル」 拡大
デザインはピニンファリーナ。全長×全幅×全高は5080mm×1950mm×1630mmという堂々たるもの。
デザインはピニンファリーナ。全長×全幅×全高は5080mm×1950mm×1630mmという堂々たるもの。 拡大
新生デ・トマソ・オートモビルのロシニョーロ会長。
新生デ・トマソ・オートモビルのロシニョーロ会長。 拡大

ホッとする人間くささ

もうひとつ、今回のジュネーブショーで話題になったのは、デ・トマソの復活だ。1959年に設立され、1971年「パンテーラ」に代表される数々のスーパースポーツカーを送り出したデ・トマソは、経営不振により2004年をもって解散した。
その商標を2009年11月に購入したトリノの実業家ジャンマリオ・ロシニョーロ氏は、2008年に購入したピニンファリーナのグルリアスコ工場で新生デ・トマソを生産する計画を立てた。これが、今回のジュネーブでお披露目された新生デ・トマソである。投資金額は、今後4年間で1億1600万ユーロ(約133億円)に及ぶ。
今回公開されたのはクロスオーバーの「ドーヴィル」だけだが、2011年末にはスポーツモデルの新型「パンテーラ」を、2012年末にはセダンモデルを追加し、合計で年産8000台規模を目指すという。

ドーヴィルのボディはピニンファリーナによるデザインで、搭載されるエンジンは、米デトロイトのパワートレインインテグレーション社製V型6気筒300馬力エンジンである。
ボディワークにはロシニョーロ氏の会社が所有する特許「ウニヴィス」方式を導入。これはアルミニウム製構造材をレーザー溶接して組み立てるものだ。

スタッフに聞いてみると、ドーヴィルのデリバリーは2011年9月からとのこと。マーケットについては、「まずはヨーロッパを固め、次に中東、極東アジアの順に開拓していきたい」という。

イソッタ・フラスキーニをはじめ、1990年前後からのこうしたブランド復活ものの末路をみると、けっして安易な道のりではないのは明らかだ。実際、前述の旧ピニンファリーナ工場周辺では、新デ・トマソによる継続雇用を求める従業員たちが道路を占拠して封鎖するなどの動きを活発化させている。この解決が、目下の課題となるだろう。

だが、ロシニョーロ氏の意欲は、戦後アメリカでビッグスリーを向こうにして理想のクルマづくりに燃え、1988年に映画にもなった「タッカー」をほうふつとさせるストーリーともいえる。

内装を支配する白とブルーは、ブランドの創始者アレハンドロ・デ・トマソの故郷アルゼンチン国旗にちなんだもの。
内装を支配する白とブルーは、ブランドの創始者アレハンドロ・デ・トマソの故郷アルゼンチン国旗にちなんだもの。 拡大
リアシートも高級SUVというポジショニングに恥じない。
リアシートも高級SUVというポジショニングに恥じない。 拡大

なおロシニョーロ氏は、フィアットのシチリア工場の買収も同社と交渉中であることをジュネーブで明かした。フィアットが長年“お荷物”とし、トヨタやタタをはじめとするメーカーが買収に難色を示したといわれるへき地工場を、あえて手に入れようとしているのである。
タッカー同様に思わぬいばらの道を歩むのか、それともニッチカーのブランドとして新しいマーケットを開拓するのか、彼の今後の展開を見守りたい。

冒頭のようにモーターショーのスタイルは、もはやルーティン化してしまっているように見える。だがファン・デン・アッカー氏の思い出やロシニョーロ氏のチャレンジのように、人間くさいエレメントを今なお発見するたび、どこかホッとするボクがいるのも事実なのである。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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