ソニーはどこに勝算を見たのか!? EV事業参入を宣言した挑戦者のアドバンテージ
2022.01.14 デイリーコラムソニーが考える3つの“重点領域”
「あれほどクルマ本体を手がけるつもりはないって言ってたのにな」
2022年1月5日~7日に、米ラスベガスで開催された世界最大級のエレクトロニクス関連展示会「CES 2022」。新型コロナウイルスの感染拡大で初のオンライン開催となったCES 2021から1年、満を持して“リアル開催”を復活させたはずが、オミクロン株の感染急拡大で出展を取りやめる企業が続出する事態となってしまった。
日本からも出展を見合わせる企業が相次ぐなか、リアル出展を貫いた1社がソニーグループ(ソニー)だ。トヨタや日産、ホンダといった完成車メーカーが不参加だったこともあり、今回出展した日本企業のなかで最も話題を振りまいた存在と言っていいだろう。すでに多くの読者がご存じのように、新会社ソニーモビリティを2022年春に設立し、EV(電気自動車)の市場投入を本格的に検討していくと表明したのだ。
ソニーがセダン型のEVコンセプトカー「VISION-S」を公開したのは、2年前の「CES 2020」だった。そのときには開発の目的として、「ソニーが展開するイメージセンサーを改良するため、車両を試作してテストする必要がある」と説明していた。自動車事業に参入するつもりはないとも語っていた。それが2年たって覆ったのはなぜか。そもそも、群雄割拠のEV市場に参入して勝算はあるのか。
CES 2022のプレスカンファレンスで吉田憲一郎会長兼社長は、VISION-S、そして今回発表した第2のコンセプトカー「VISION-S 02」の重点領域について、「Safety(安心安全なモビリティー)」「Adaptability(人に近づき、共に成長する)」「Entertainment(モビリティーエンターテインメント空間の進化)」の3つを挙げた。つまり、どこにもドライビングプレジャーだの、乗り心地だの、車体剛性だのといった、これまで自動車が追求してきた価値は出てこない。
気になるパートナー選びの行方
SafetyやAdaptabilityはソニーが強みを持つセンサー技術が生きる分野だし、エンターテインメントはまさにソニーが本業で培ってきたところだ。これからのクルマでは、旧来の価値ではなく、こうした新しい価値が強みを持つと判断したこと。これが、ソニーが自動車分野への本格参入の検討を始める大きな理由だろう
加えて、EVという巨大な成長分野に参入することで企業価値を高めたいという狙いも当然あるに違いない。EV市場への参入が取り沙汰される米アップルはもとより、中国のスマートフォン大手であるシャオミやファーウェイがこぞってEV市場への参入を表明するのも、巨大市場が提供する投資機会に魅力を感じてのことだ。
もっとも、ソニーも単独でEV事業を展開するつもりはないはずだ。同社はEV事業への進出にあたって「アセットライト(保有資産を軽く)」という方針を打ち出しており、自社でEVの製造工場を構えることはないだろう。VISION-SやVISION-S 02はオーストリアのマグナ・シュタイヤーに製造を委託したが、ソニーがビジネスを展開するとしたら、まずは日本と米国になるはずだ。これらの地域にマグナは製造工場を持たないので、ビジネス展開のしやすさからいっても、まずは日本の完成車メーカーが第一候補になるはずだ。
ずいぶんと古い話になるが、2001年に開催された東京モーターショーにおいて、トヨタとソニーは共同で「pod」と呼ばれるコンセプトカーを出展したことがある。このクルマは置かれている状況によって喜怒哀楽を表現したり、「ミニpod」と呼ぶ携帯端末をキーにしたりといった、今見ても先進的な機能が搭載されていた。“もしも”の話だが、トヨタとソニーが手を組めば、ソニーが心強いパートナーを得られるだけでなく、トヨタにとっても「EVに消極的」というイメージを払拭(ふっしょく)するための大きな一手になることだろう。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=ソニー/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。