第104回:国民車議論ふたたび
2018.09.25 カーマニア人間国宝への道日本で一番売れているクルマは?
以前、この連載で、「スイフトスポーツを国民車に!」というようなことを書いた。
スイフトスポーツは、国民車に必要とされる実用性を十分備えつつ、走るヨロコビも満たしてくれる。私のようなヨーロッパかぶれなカーマニアとしては、「こういうクルマに国民車になってもらいたい!」という願望を炸裂(さくれつ)させるのに、ドンピシャな対象なのである。
もちろん、スイフトスポーツが日本の国民車になることなど、ありえない。今年上半期(1~6月)の販売台数は8176台。普通のスイフトを含めても約2万台にすぎない。それが現実だ。
いやちょっと待てよ。約2万台のスイフトのうち、8000台以上がスイフトスポーツだったのか……。これはものすごいことだ! スイフトスポーツすげぇ! スイフトスポーツ万歳! と感動しつつ、さすがに国民車は遠い夢である。
では、現実には、どんなクルマが日本の国民車になっているのか。一番売れているクルマは何なのか。
近年、日本一売れているクルマといえば、ホンダのN-BOXと相場が決まっている。で、2位はe-POWERが絶好調の日産ノートという感じだが、視野を広く持つと、ちょっと順位が違ってくる。日本には兄弟車という、中身がほぼ同じで一部ルックスを変えただけのクルマが、けっこう多いからだ。
いま兄弟車を開発してるのって、ほとんどトヨタ・ダイハツグループだけど、なにせ圧倒的なシェアを持つトヨタが、兄弟車をいろいろ出してるんで。
ランキングで見る国民車
で、兄弟車をまとめて1車種として計算すると、今年上半期の国内販売ランキングは、このようになりました!
2018年上半期 国内販売ランキング
1位 N-BOX 12万7548台
2位 ノア3兄弟 9万8415台
3位 タンク4兄弟 9万6236台
4位 デイズ4兄弟 9万5861台
5位 スペーシア 7万9718台
6位 ムーブ 7万4109台
7位 ノート 7万3380台
8位 タント 7万1809台
9位 アクア 6万6144台
10位 プリウス 6万4019台
(自販連および全軽自協等のデータをもとに筆者が集計)
デイズ4兄弟は、本当は背が高いのと低いのとは別のモデルだし、スバルとマツダの軽OEM車は、集計がめんどくさくてはずしてしまったのだが、いずれにせよ恐ろしい光景だ。
トップ10のうち、箱型ミニバン系(軽ハイト&トールワゴンを含む)が7つを占めている……。いまの日本の国民車は、箱型ミニバン系! それが厳然たる事実のようだ。
中でも意外なのは、2位にノア3兄弟が、3位にタンク4兄弟が食い込んでいることだろう。兄弟が多いので目立たないが、実は彼らは、ものすごい国民車だったのだ。タハ~。
こういう光景を見せられると、古典的カーマニアとしては、アクアやノート、プリウスが、ほおずりしたいくらい愛(いと)おしい。「よくがんばったね! エライ!」と言って抱きしめてあげたい。冷蔵庫よりは掃除機が好き! だって車輪が付いてるから! って感じで。
とはいうものの、国内市場では箱型のクルマが売れまくり、箱型まみれの箱型天国になっているのは事実。いい大人として、事実は受け入れねばならない。
独走N-BOXをプチ検証
じゃあ、ダントツで販売台数ナンバーワンを爆走中のN-BOXって、実際どんな感じなのか。
私は、あらためてディーラーに試乗に行ってみることにした。
もちろんN-BOXの登場時には、フツーに試乗させていただいております。なにより驚いたのは、シャシー性能が恐ろしく高いことでしたねぇ。乗り味のしっかり感や足まわりのしなやかさが、ライバルとは格違いだった。
それが原因で売れてるわけじゃないと思うけど、走りの良さに関しては、カーマニアとして認めざるを得ない。デザインは先代のほうがシンプルでクルマらしさもあって全然良かったんだけど、という文句はさておいて。
ところが、気になる情報が存在した。
昨年の発表後まもない時期、広報車のN-BOXに乗って「これはスゴイ!」と思った関係者が、購入するつもりでディーラーに行き試乗したところ、「これ、違うじゃん!」と思ったというのだ。
具体的には、足まわりが広報車よりずっと固くて、動きが悪かったという。個体差かと思ってディーラーを3軒まわってみたが、3台ともそうだったというのだ! 結局彼は、別の軽ハイトワゴンを買ったそうな。
そんな話を聞いてしまったら、カーマニアとして、確かめないといけない。なにしろダントツ日本一売れているクルマだし。
もちろん、実際にN-BOXを買った人の中に、「これ、違うじゃん」と思った関係者のようなカーマニアはあまりいないと思いますが、とにかく確かめてみなくては。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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