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社会課題をモビリティーで解決 学生と考える“2040年のEV”のあるべき姿

2022.02.04 デイリーコラム 林 愛子
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生まれながらにしてEVが背負った使命

電気自動車普及協会(APEV)は2022年1月20日、隔年開催の「国際学生EVデザインコンテスト」を大幅にリニューアルし、第5回を「国際学生“社会的EV”デザインコンテスト2022」として開催すると発表した。今回の課題は「“社会デザインとEV”2040の提案」で、間もなくエントリーを開始する。

「デザインコンテスト」と聞くと見た目を競うものと思われるかもしれないが、本来「デザイン」とは設計や計画という意味も含んだ言葉であり、その語義には機能性や使い勝手のよさなども内包される。APEVでは、以前から広義の意味でデザインという言葉を扱ってきたが、今回のコンテストではその点をより強く打ち出した。

あらためて、今回のコンテストのテーマは「社会的EV」だ。APEVはこれを「EVすなわちモビリティーが社会との関わり方のなかでパブリック、パーソナル双方に対し進化・貢献すること」と定義しているが、筆者はこれを「社会課題の解決に寄与するEV」と受け止めている。では、その社会課題とはなにか。それを考える前に、これまでの社会におけるEVの位置づけを振り返りたい。

EVの原型はガソリン車より50年以上早い1830年代に誕生したとされる。1900年のパリ万博ではポルシェ博士のEVが展示されたが、その後の自動車史は、ご存じのとおりガソリン車とディーゼル車がけん引してきた。

しかし、ガソリンが不足した戦後の日本では「たま電気自動車」が開発され、オイルショック後の1970~80年代にも、石油を使わない乗り物としてEVが注目された。環境問題に関する機運が高まった90年代後半から2000年代にも二酸化炭素を出さないクルマとして脚光を浴び、近年では国や産業界が脱炭素戦略において、必ず取り上げられる存在となっている。(参照:自動車ヒストリー第12回:電池を革新せよ 内燃機関に代わる次世代動力を求めて

こうしてみると、そもそもEVは「社会課題の解決」という使命を背負った存在であると思えてくる。

「国際学生“社会的EV”デザインコンテスト2022」のポスター。
「国際学生“社会的EV”デザインコンテスト2022」のポスター。拡大

モビリティーで解決可能な社会課題とは

前項でも触れたとおり、20世紀以降、移動という人類の根源的欲求には主としてガソリン車とディーゼル車が応えてきたが、石油不足や環境問題といった社会課題が顕在化するたびに、代替手段としてEVが注目され、社会課題への関心が薄らぐとそのブームが収束するという流れを繰り返してきた。

このことは、移動のためだけならばEVに優位性がないことの証しとみることもできる。モビリティーを取り巻く法規制や各種インフラ、産業・雇用といった社会構造など、私たちは約100年かけてガソリン車・ディーゼル車に適合する世界をつくり上げてきたのだから、その環境のなかでEVに勝ち目がないのは当然のことだろう。

しかし、今日の社会を見ると、これだけ環境を整えてもなおガソリン車・ディーゼル車では解決できない課題があるともいえる。EVならば解決できるという保証はないが、2010年代後半に発信されたコンセプト「CASE」は、既存技術の限界を業界の内外に知らしめた。ほかの産業にも門戸が開いた今ならば、過去のEVブームとは違った風が吹き込みそうだ。

近年、日本各地で行われているモビリティー関連の実証実験は、ほとんどがEVを主役に据えている。交通弱者の支援や産業振興、観光活性化など、掲げている目的は地域ごとに異なるものの、背景にあるのは少子高齢化や過疎化といった人口動態に起因する課題だ。かつてのような人口増は見込めないなか、諸問題の根本的な解決は極めて難しい。

また世界に目を向ければ、脱炭素の機運は高まっているものの、各国の足並みはそろわない。環境保全活動と経済活動はコンフリクトを起こしやすく、世界が納得する解決策を見いだすことは難しいだろう。

しかし、産業革命が人類史の転換点になったように、「T型フォード」が誕生したことでモータリゼーションが加速したように、新たな技術や製品が社会を変革し、さまざまな課題を解決に導く可能性は十分に考えられる。APEVの学生デザインコンテストが求めているのは、そんな社会を変革するストーリーだ。

「CASE」とは「Connected」「Autonomous」「Shared&Services」「Electoric」の頭文字をとった言葉で、これからの自動車が取り組むべき課題を端的に表したものだった。写真は2017年のフランクフルトショーにおいて、コンセプトカー「コンセプトEQA」の発表に際し、CASEの概念を説明する独ダイムラー(現メルセデス・ベンツ)のウィルコ・スターク氏。
「CASE」とは「Connected」「Autonomous」「Shared&Services」「Electoric」の頭文字をとった言葉で、これからの自動車が取り組むべき課題を端的に表したものだった。写真は2017年のフランクフルトショーにおいて、コンセプトカー「コンセプトEQA」の発表に際し、CASEの概念を説明する独ダイムラー(現メルセデス・ベンツ)のウィルコ・スターク氏。拡大

2040年にはどんなクルマが走っているのか

APEV事務局長の荒木恵理子氏は企画の背景として、「電話がスマートフォンになってビジネスモデルが根本から変わったように、自動車の世界もEVによって変わる。少子高齢化や貧富の格差などの課題を解決し、人々の幸せに貢献するEVとはどういったものか、社会的な位置づけやユーザビリティーなども含めて抜本的に考えるべき時期」と説明する。

また実行委員長の山下敏男氏によれば、コンテストのもうひとつの狙いは融合型人材の発掘にあるという。

「文系・理系・芸術系といった専門性も、国籍も関係ない、多種多様な学生の参加を期待する。コンテスト参加者向けのワークショップを開催するほか、参加者同士の交流の場も用意するので、多くを学び経験してほしい。さらに、学生と企業との交流も促進したい。よいアイデアに対しては企業が出資して学生とベンチャーを立ち上げたり、有望な学生をインターンシップとして迎えたり。将来的には企業と学生が一緒に課題解決に取り組み、企業は学生に適正な対価を支払い、学校はその活動に単位を付与するような仕組みをつくりたい。一回のコンテストで世界は変わらないだろうが、新しい交流のきっかけになればうれしい」(山下氏)

応募条件は、2022年4月時点で18歳以上の学生だが、17歳以下の学生もオブザーバーとして参加できる。Z世代やその下のα世代は、言うまでもなくデジタルネイティブで、“つながる”こと(コネクテッド)は当たり前だと思っている。さらに社会課題への関心も高く、ソーシャルデザインやSDGsといったことにも抵抗感がない。そんな彼らが社会の担い手として活躍している2040年の世界では、どのようなEVが存在するのだろうか。あるいは、人間とEVはどのような関係性にあるのだろうか。Z世代とα世代が思い描く未来図に期待したい。

(文=林 愛子/写真=電気自動車普及協会、メルセデス・ベンツ、日野自動車/編集=堀田剛資)

APEVの事務局長を務める荒木恵理子氏。九州大学経済学部を卒業後、現ベネッセコーポレーションへ入社。編集やマーケティング、業績管理、事業推進などとともに、新規事業の開発にも取り組んできた。現在はCSR業務として、環境活動・環境教育に携わっている。
APEVの事務局長を務める荒木恵理子氏。九州大学経済学部を卒業後、現ベネッセコーポレーションへ入社。編集やマーケティング、業績管理、事業推進などとともに、新規事業の開発にも取り組んできた。現在はCSR業務として、環境活動・環境教育に携わっている。拡大
「国際学生“社会的EV”デザインコンテスト2022」の実行委員長を務める、APEV理事の山下敏男氏。webCG読者のなかでも、「日産フェアレディZ(Z32)」を手がけたデザイナーとして記憶している人は多いのではないだろうか。現在はINTERROBANG DESIGNの代表として、インダストリアルデザインや、デザインコンサルティング、人材育成などを行っている。
「国際学生“社会的EV”デザインコンテスト2022」の実行委員長を務める、APEV理事の山下敏男氏。webCG読者のなかでも、「日産フェアレディZ(Z32)」を手がけたデザイナーとして記憶している人は多いのではないだろうか。現在はINTERROBANG DESIGNの代表として、インダストリアルデザインや、デザインコンサルティング、人材育成などを行っている。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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