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第12回:電池を革新せよ
内燃機関に代わる次世代動力を求めて

2017.11.30 自動車ヒストリー 環境負荷の低減をかなえる、未来の自動車の最有力候補とされる電気自動車。自動車の黎明(れいめい)期から存在したというその歴史を、電池の進化という視点から振り返るとともに、今日における環境対応車の現状と課題を紹介する。

軽自動車をベースに作られたi MiEV

2006年1月24日、三菱から風変わりな軽自動車がデビューした。「i(アイ)」というシンプルな名前を持つこのモデルは、コンセプトカーそのままのようなワンモーションスタイルをまとっていた。外見以上にユニークだったのがメカニズムである。後席のすぐ下にエンジンを横置きするリアミドシップの構成を採用していたのだ。それによって例外的に長いホイールベースをとることが可能になり、スペース効率が向上した。未来的なデザインも、通常のFF方式では実現できなかったものだ。

iにはもう一つの秘密があった。この年の10月11日、三菱はiをベースとしたEVの研究車両「i MiEV(アイミーブ)」を製作し、電力会社と共同研究を実施することを発表する。リアミドシップのレイアウトのおかげで、iはほとんど車体構造を変えることなくEVにコンバートすることができたのだ。エンジンのあった場所にモーターとインバーターを置き、車両中央の床下に電池を収める手法である。

2009年に登場した市販型の「i-MiEV」は、見た目ではガソリン車と区別がつかなかった。大きく異なっていたのは価格である。iのベースグレードが100万円強だったのに対し、i-MiEVは459万9000円というプライスタグが付けられていたのだ。最初は販売対象を官公庁や企業向けに絞っていたが、翌年4月に個人ユーザーも購入が可能になった。価格は398万円まで下げられ、国から114万円のEV補助金が給付される。実質負担額は284万円だが、それでも気軽に買える価格ではない。

翌年になると、日産が「リーフ」を発売する。三菱に加えて大メーカーの日産がEVに注力することが明らかになり、ガソリン車からEVへの転換がすみやかに進むという観測が広がった。アメリカでは2008年にテスラモーターズが最初のモデルである「ロードスター」を発売し、富裕層に人気となっていた。中国では安価な簡易EVを組み立てる工場が乱立し、一部は大規模な企業に発展する。マスコミは自動車の世界で大変動が起きていることを強調し、EVに投資して開発を急ぐようにあおり立てる論調も生まれていた。

2006年に発表された研究車両の「三菱i MiEV」。このモデルが、市販モデルの「i-MiEV」に発展することとなる。
2006年に発表された研究車両の「三菱i MiEV」。このモデルが、市販モデルの「i-MiEV」に発展することとなる。拡大
「i MiEV」のパワープラントの配置図。「i」ではエンジンやトランスミッションがあった場所に電動モーターやインバーター、車載充電器を、ガソリンタンクがあった場所にバッテリーが搭載された。
「i MiEV」のパワープラントの配置図。「i」ではエンジンやトランスミッションがあった場所に電動モーターやインバーター、車載充電器を、ガソリンタンクがあった場所にバッテリーが搭載された。拡大
2010年12月に発売された電気自動車の「日産リーフ」。デビュー当時、一充電走行可能距離はJC08モード計測で200kmと公称されていた。
2010年12月に発売された電気自動車の「日産リーフ」。デビュー当時、一充電走行可能距離はJC08モード計測で200kmと公称されていた。拡大
米テスラがリリースしたセダンタイプの電気自動車「モデルS」。日本では2013年1月に初公開され、同年のモーターショーでも大きくアピールされたが、デリバリー開始は2014年9月にずれ込んだ。
米テスラがリリースしたセダンタイプの電気自動車「モデルS」。日本では2013年1月に初公開され、同年のモーターショーでも大きくアピールされたが、デリバリー開始は2014年9月にずれ込んだ。拡大

すべての始まりとなった鉛蓄電池の発明

次世代車として電気自動車がクローズアップされたのは、電池の性能が飛躍的に向上したからだ。歴史をたどれば、電気自動車は古くから存在する。20世紀初頭にはガソリンと電池が動力の本命の座を争っていた。勝負を分けたのは、エネルギー密度の差である。ガソリンはタンクに貯蔵することが容易で、長時間の走行が可能だった。電池は重くて場所をとるわりには航続距離が短い。1920年代に入るころには、ガソリン自動車の覇権が確立していた。

電池とは化学反応を使って電流を取り出す装置のことで、一次電池と二次電池の区別がある。一次電池は一度だけの使用を前提としたもので、家電製品などに用いるアルカリ乾電池が代表的な存在だ。充電池とも呼ばれる二次電池は、使った後に再び電気を蓄えることができ、繰り返し使える。現在ではエコの視点から乾電池型の二次電池の普及が進んでいる。

世界初の電池とされているのは、1800年にアレッサンドロ・ボルタが作ったボルタ電池である。彼はガルヴァーニが発見した「動物電気」を物理現象ととらえ、再現を試みた。実験を繰り返すうちに、希硫酸の中に亜鉛と銅の電極を入れて電流を発生させることに成功する。世界初の二次電池は、1859年にガストン・プランテが作った鉛蓄電池である。二酸化鉛と鉛の電極にセパレーターを挟んで筒状に巻き、希硫酸に浸したものだ。現代の自動車で電源に使われている電装用のバッテリーも、原理的には同じものである。プランテの発明は、100年以上蓄電池の主流であり続けているわけだ。

初期の電気自動車で動力に使われたのは、この鉛蓄電池だった。手に入りやすい材料で作ることができるので、製造するにあたってのハードルが低かったからだ。ただ、現在の自動車用バッテリーを見てもわかるとおり、鉛蓄電池は非常に重い。動力として用いるには大量に積み込まねばならず、自動車自体の重量が増加してしまう。給油すればいくらでも走行できるガソリン自動車の優位は明らかだった。

ドイツのフェルディナント・ポルシェが開発した電気自動車の「ローナーポルシェ」。発表は1898年のことで、80Vの鉛蓄電池を搭載していた。
ドイツのフェルディナント・ポルシェが開発した電気自動車の「ローナーポルシェ」。発表は1898年のことで、80Vの鉛蓄電池を搭載していた。拡大
電気自動車の「ローナーポルシェ」を生み出したポルシェだが、当初から走行距離の短さを課題として認識していたようで、後にエンジンで発電し、モーターで走行するシリーズハイブリッド機構を採用したモデルを開発。市販化している。
電気自動車の「ローナーポルシェ」を生み出したポルシェだが、当初から走行距離の短さを課題として認識していたようで、後にエンジンで発電し、モーターで走行するシリーズハイブリッド機構を採用したモデルを開発。市販化している。拡大
1947年に東京電気自動車が開発した「たま」。戦後の、ガソリンの供給が十分でなかった時代に活躍したが、バッテリーの材料である鉛の価格高騰と、燃料供給の安定化により姿を消した。
1947年に東京電気自動車が開発した「たま」。戦後の、ガソリンの供給が十分でなかった時代に活躍したが、バッテリーの材料である鉛の価格高騰と、燃料供給の安定化により姿を消した。拡大
「たま」に搭載される鉛蓄電池。今日の電気自動車のように搭載状態で充電するのではなく、交換式となっていた。当初、一充電走行可能距離は65kmと公称されていたが、実際にはもっと長く走れたようだ。
「たま」に搭載される鉛蓄電池。今日の電気自動車のように搭載状態で充電するのではなく、交換式となっていた。当初、一充電走行可能距離は65kmと公称されていたが、実際にはもっと長く走れたようだ。拡大

エネルギー密度が高いリチウムイオン電池

1960年代になるとニッケルカドミウム電池が登場し、ホビーや電化製品で使われるようになる。1990年にはニッケル水素電池が日本で実用化され、二次電池の普及が加速した。デジタルカメラやノートパソコンなどに広く用いられるようになる。環境意識の高まりを受けて、乾電池型充電池が売れ行きを伸ばした。ニッケルカドミウム電池よりはるかに電気容量が大きいので使い勝手がよく、有害なカドミウムを原料としないこともアドバンテージになる。

ニッケル水素電池は、自動車用途でも有用だと考えられた。充電容量が大きく安全性が高いことから、動力源として使うのに都合がいい。初代「トヨタ・プリウス」のハイブリッドシステムには、ニッケル水素電池が使用された。しかし、EVにはさらに高い性能の電池が必要だとされていた。要求を満たすと目されたのが、リチウムイオン電池である。

リチウムイオン電池は、ニッケル水素電池が実用化された翌年の1991年に、やはり日本で実用化されている。高性能なニッケル水素電池と比べても、エネルギー密度が高い。しかも、自己放電が少ないという長所がある。継ぎ足し充電の際に電圧降下を起こしてしまう「メモリー効果」がないことも、二次電池としては重要な利点だった。

鉛蓄電池のエネルギー密度は35Wh/kg程度が限界で、ニッケル水素電池は60Wh/kgほどの容量だ。リチウムイオン電池は120Wh/kgとはるかに高いポテンシャルを持っていて、できるだけ電池をコンパクトにすることが求められるEVには最も適している。これに対し、今でもハイブリッド車(HV)にニッケル水素電池が多用されているのは、EVほど要求性能がシビアではないからだ。コスト面でも、リチウムイオン電池はまだまだ高価である。

また、リチウムイオン電池には価格以上の問題点があった。安全性である。2006年に携帯電話やノートパソコンの電池が過熱し、変形したり発火したりする事故が相次いだ。製造過程で微小金属片が混入し、ショートして異常発熱を起こしたと考えられる。エネルギー密度が高ければ、危険性も相応に高まるのだ。

EVには大量の電池が搭載されるため、もしこのような事故が発生すれば重大な結果を招くことになりかねない。自動車メーカーにとっては、リチウムイオン電池の安全性確保が最優先課題となった。2011年には中国のBYD社製とアメリカのフィスカー社製のEVが炎上事故を起こしている。テスラと並ぶ新世代自動車メーカーとして期待が集まっていたフィスカー社は、この事故の影響もあって経営破綻に至った。

1997年に登場した初代「トヨタ・プリウス」。動力源にはニッケル水素電池が採用されていた。4代目となる現行モデルでも、一部のグレードにはニッケル水素電池が搭載されている。
1997年に登場した初代「トヨタ・プリウス」。動力源にはニッケル水素電池が採用されていた。4代目となる現行モデルでも、一部のグレードにはニッケル水素電池が搭載されている。拡大
3代目「プリウス」に搭載されていたニッケル水素電池。ニッケル水素電池は、今日でもハイブリッド車の動力源として広く使われている。
3代目「プリウス」に搭載されていたニッケル水素電池。ニッケル水素電池は、今日でもハイブリッド車の動力源として広く使われている。拡大
電気自動車の初代「日産リーフ」に搭載されたリチウムイオン電池のバッテリーパック。電圧は360V、容量は24kWhと公称されていた。
電気自動車の初代「日産リーフ」に搭載されたリチウムイオン電池のバッテリーパック。電圧は360V、容量は24kWhと公称されていた。拡大
三菱が電気自動車やプラグインハイブリッド車に採用しているバッテリーセル。ケースの中には、レトルトパウチを思わせるラミネートセルが敷きつめられている。
三菱が電気自動車やプラグインハイブリッド車に採用しているバッテリーセル。ケースの中には、レトルトパウチを思わせるラミネートセルが敷きつめられている。拡大
電動パワートレイン用のバッテリートラブルは日本でも発生した。写真は2013年に起きたバッテリーの不具合について、調査経過を報告する、当時の三菱自動車の幹部。左は中尾龍吾常務取締役で、右は大道正夫常務執行役員。
電動パワートレイン用のバッテリートラブルは日本でも発生した。写真は2013年に起きたバッテリーの不具合について、調査経過を報告する、当時の三菱自動車の幹部。左は中尾龍吾常務取締役で、右は大道正夫常務執行役員。拡大

電動化に向けての開発が世界的に加速

三菱はGSユアサ、三菱商事と合同で設立したリチウムエナジージャパンでEV用のバッテリーを開発した。i-MiEVに搭載したリチウムイオン電池は、1セルあたり3.7V/50Ahのバッテリーを計88セル直列に接続することで、総電圧330V、総電力量16kWhという性能を確保している。異なるアプローチを試みたのは、ベンチャー企業のテスラモーターズである。ノートパソコンに使われる汎用(はんよう)のリチウムイオン電池を大量に積みこむことで、十分な駆動力を確保したのだ。テスラの「モデルS」は最長500km近い航続距離を実現したが、高価な電池をふんだんに使うことで必然的に車両価格も高くなった。

電池の性能が劇的に改善されることはなく、価格の低下はなかなか進まない。給油に比べると充電は面倒で、充電設備を備える住宅の普及はこれからだ。リーフは2017年に2代目となってJC08モードの航続可能距離が400kmに伸びたが、それでもガソリン車と同等の使い勝手とは言いがたい。充電インフラは充実してきたものの、ガソリンスタンドの利便性と比べるとまだまだなのだ。

こうしたEVの現状を尻目に、勢いを増しているのがプラグインハイブリッド車(PHV)である。HVより電池を多く積んでおり、家庭で充電することで通常はEVとして使用する。エンジンも搭載しているので、電池が切れても走り続けることができ、発電することも可能だ。日本では、2012年にトヨタから「プリウスPHV」が、2013年に三菱から「アウトランダーPHEV」が発売された。どちらもバッテリーにはリチウムイオン電池を採用している。

2014年末にトヨタから燃料電池車(FCV)の「MIRAI(ミライ)」が発売され、次世代車をめぐる開発競争は混沌(こんとん)としてきた。FCVには水素の輸送・貯蔵が難しいという弱点があるが、EVも航続距離や充電時間の問題を抱えている。世界最大市場の中国がEVシフトを政策として打ち出し、ヨーロッパでも内燃機関だけを動力とするクルマを将来的に禁止する動きが広がっている。フォルクスワーゲンやボルボなどは、EV移行への大胆なロードマップを発表した。世界的に電動化に向けての開発が加速している。

EVは次世代車の最有力候補となったが、トップの座を確実にするためにはさらに革新的なテクノロジーを生む努力が欠かせない。リチウムイオン電池やニッケル水素電池の性能向上を図る研究が続けられているのはもちろん、固体電解質を用いた全固体電池や、空気中の酸素を正極側活物質として利用するリチウム空気電池、カルシウムイオン電池など、新たな種類の電池を開発する動きもある。ワイヤレス給電を実用化し、電池の性能に頼らず航続距離を伸ばす方法も模索されている。われわれはEV進化の過程に立ち会っているのだ。

(文=webCG/イラスト=日野浦 剛)
 

テスラのサービスセンターに展示される「モデルS」のシャシー。テスラ・モデルSは、汎用(はんよう)のリチウムイオンバッテリーを大量に搭載することで、他の電気自動車より長い一充電走行可能距離を実現している。
テスラのサービスセンターに展示される「モデルS」のシャシー。テスラ・モデルSは、汎用(はんよう)のリチウムイオンバッテリーを大量に搭載することで、他の電気自動車より長い一充電走行可能距離を実現している。拡大
2017年9月に世界初公開された、2代目「日産リーフ」。バッテリーの蓄電量を40kWhに増やすことで、400km(JC08モード)の一充電走行可能距離を実現した。
2017年9月に世界初公開された、2代目「日産リーフ」。バッテリーの蓄電量を40kWhに増やすことで、400km(JC08モード)の一充電走行可能距離を実現した。拡大
三菱が2013年に発売した「アウトランダーPHEV」。今日では、国内外の多数のメーカーからプラグインハイブリッド車がリリースされている。
三菱が2013年に発売した「アウトランダーPHEV」。今日では、国内外の多数のメーカーからプラグインハイブリッド車がリリースされている。拡大
トヨタがリリースした燃料電池車の「ミライ」。水素を使って燃料電池スタックで発電し、その電力でもってモーターを駆動する。水素の充てんにかかる時間は数分で、“満タン”状態から約650km(JC08モード)の距離を走ることができる。
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独ダイムラーが2017年のフランクフルトショーで発表した電気自動車の「コンセプトEQA」。パワープラントの電動化の波は、欧州や中国、インドなどを中心に広がりつつある。
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