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ポルシェの飽くなき拡大路線 この先どうなっていく?

2022.03.14 デイリーコラム 西川 淳

あっぱれなイメージ戦略

今世紀が始まったころには年産5万台規模にすぎなかったというのに、20年がたった今ではなんと6倍の30万台規模にまで成長した。誰もがうらやむポルシェのサクセスストーリーは、21世紀初頭における自動車業界最大のトピックのひとつといっていい。

ポルシェといえば「911」で、このモデルがブランドの核心であることは誰もが知るところだ。永遠のアイドル。スポーツカー界のワン・オブ・ザ・ベスト・チョイス。いや、もはや911は911という独自のカテゴリーであり、だからこそこのブランドを現在の高みにまで引き上げた。

とはいえ、911は販売台数という成長指標においては精神的な支柱でしかない。実際に台数を稼いだのは今世紀になってから誕生した「カイエン」であり、「マカン」だ。今、世界で乗用車の主流となったSUVである。そのことは販売台数の内訳を見れば一目瞭然で、カイエンとマカンで全生産数のおよそ7割を占めている。911は1割強。同じくスポーツカー系の「718ボクスター/ケイマン」を入れても2割に届くかどうか。残りを「パナメーラ」やBEVの「タイカン」でカバーする。

そして、そのバリエーションの豊富さもまた成功の要因だ。すべてのモデルがきめ細やかな、そしてブランドとして統一性のあるグレードによって構成されている。ラインナップ総数は今や80近くにも及んでいるのだ。スポーツカーはもちろん、セダンあり、ワゴン風あり、SUVありと、ポルシェはもはや高級車のフルラインナップブランドとなった。それでもスポーツカーブランドとしてのイメージを強く感じさせる戦略もまたこのブランドの強みだといえるだろう。そして戦略の根底にはひとえに911が大事、がある。これに尽きる。

ポルシェにとって好都合だったのは、SUVが主流になったのみならず、それまでのポルシェになかったカテゴリーであり、しかもスポーツカーのイメージを壊さない存在であったことだ。カイエンやマカンの台数がどれだけ増えようとも911の人気はもはや揺らぐことがない。1970年代には廃止も検討され、1980年代には時代遅れだとやゆされ、1990年代にはまるで化石のように扱われた911は、存続の危機を乗り越えることによって唯一無二のブランド力を得るに至った。911は911であるという独自性を獲得した。まさにブランドの精神となった。今では過去の世代すべて、ヘリテージが最新モデルに勝るとも劣らない高い評価を受けている。SUVをどれだけたくさん売ろうとも傷つかない存在領域にまで911は達しているのだ。

歴史的スポーツカー「911」をイメージリーダーに、MRモデルの「718ボクスター/ケイマン」やSUV「マカン」「カイエン」、電気自動車「タイカン」など、さまざまな車種を用意するポルシェ。グレードの違いまでカウントすると、現在国内で展開しているラインナップは80種類ほどになる。
歴史的スポーツカー「911」をイメージリーダーに、MRモデルの「718ボクスター/ケイマン」やSUV「マカン」「カイエン」、電気自動車「タイカン」など、さまざまな車種を用意するポルシェ。グレードの違いまでカウントすると、現在国内で展開しているラインナップは80種類ほどになる。拡大
「911」は自他ともに認めるポルシェの象徴だが、決して”稼ぎ頭”ではない。セールスの功労者は、他の多くのブランドと同様にSUVである。写真は、ブラックまたはダークカラーのドレスアップを特徴とする高性能モデル「911カレラGTS」。
「911」は自他ともに認めるポルシェの象徴だが、決して”稼ぎ頭”ではない。セールスの功労者は、他の多くのブランドと同様にSUVである。写真は、ブラックまたはダークカラーのドレスアップを特徴とする高性能モデル「911カレラGTS」。拡大
2022年2月に国内で予約受注がスタートしたばかりの「911エディション50Yポルシェデザイン」(写真)は、ポルシェデザインの設立50周年を記念して設定されたモデル。近年では、こうした特別仕様車や限定車も多くなっている。
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止まることは許されない

だからこそ、ポルシェはここまで成長することができた。もちろん、会社組織というものは拡大し続けるほかに生き残る道も術(すべ)もない。これは資本主義社会の大原則だ。1990年代には倒産寸前にまで経営状態が悪化したポルシェもまた、SUV という、言ってみれば“打ち出の小槌(こづち)”を手に入れた以上、それを振り続けなければならなくなった。ブランドの核心(911)とまるで競合しない、そして高級車界のトレンドとなったSUVというカテゴリーを発見した結果の拡大成長路線は、それが(趣味のクルマで乗り手が限定されるスポーツカーとは違って)“高級な大衆車”である以上、新たな市場を開拓しながら拡販し続けるほかない。

大きくなった会社を支えるためにはより強固に、より大きな組織をつくり続けていかなければならなかった。ラインナップが増えれば開発コストもまた増える。生産拠点や販売網のメンテナンスにも莫大(ばくだい)な予算が必要だ。ましてや今は自動車史上最大の転換期である。次世代に向けて、これまでになく多岐にわたる分野において時代を先取るための研究開発予算も必要だ。つまり、組織の隅々にわたってそのコストが増大し、それを賄うためにも成長するほか手段はない。いま立ち止まることは企業としての死を意味する、というわけだった。

それゆえポルシェはこれからも拡大を続けるだろう。電動化はそのための大いなる布石だ。911というスポーツカーアイコンを改良し、つくり続けるためにも、新たな市場を開拓し稼ぎ続けなければならない。それこそ自動車産業の構造が転換し、例えば生産重視から情報モビリティー重視へと移行するまでは成長し続けるほかない。現状維持での生き残りはおそらく不可能だ。あのフェラーリでさえ難しい。

幸い今のところポルシェのブランドイメージは高い位置にキープされている。911は進化し続け、ブランドをけん引している。BEVという新分野においてもその高級カテゴリーにおけるリーダーとなるだろう。現在の30万台規模は、グローバルマーケットの大きさを考えた場合、まだまだ成長の余地のある数字だ。日本市場でさえ伸ばす余地があると思う。

もっともそれは、世界経済の成長が、どこの地域が主になるかは別にして、今後も続くという楽観的な予想に基づくものであることには違いないのだけれど。

(文=西川 淳/写真=ポルシェジャパン、webCG/編集=関 顕也)

「911」シリーズに限っても、国内で選べるバリエーションは今や20種類以上となっている。価格についても、最も廉価な「911カレラ」で1429万円と、なかなか。2000万円級もざらである。
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売れ筋のSUV「マカン」にはこのほど、往年の「911 T」ゆずりの車名を持つ「マカンT」が設定された。価格は840万円。
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こちらは「タイカン クロスツーリスモ」。BEVの「タイカン」が出たと思ったら、シューティングブレークのような車形でオフロードテイストを醸し出す派生モデルも投入する。ラインナップ拡大の勢いは、この先も弱まりそうにない。
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2021年10月、ポルシェは千葉県木更津市に複合型のブランド体験施設「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」をオープンした。そのテストコースに急斜面を持つオフロードエリアが含まれることからも、現在の車種展開が多様であることがわかる。
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西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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