新手はまさかのSUV 名門ロータスはこれからどうなる?
2022.04.11 デイリーコラム生産台数は80倍に!?
ロータスが「エレトレ」という名を持つ電気自動車(EV)のSUVを発表した。名門の歴史にその名を連ねるため、車名だけは辛うじて伝統にのっとり“E”で始められたが、それ以外はすべてにわたって新しい。なにしろ大型の高級マルチドア・マルチパッセンジャーEVなのだから。
昔ながらのロータスファンにとっては、正直に言って悲しむべき事態かもしれない。たとえエレトレのハンドリングパフォーマンスがどんなに優れていたとしても、だ。けれども問題は、悲しむファンの総数である。年産2000台未満という小規模の、非常に特殊なスポーツカーブランドであるロータスは、昔からのファンやマニアをその計算のうちに入れたとしても、これからの新たな自動車の世紀を生き残っていくことは難しい。少なくとも現経営陣と親会社はそう考えた。言い換えれば、せっかくの歴史ある有名ブランドを活用して大きなビジネスに育てない手はない、というわけだ。
2017年にロータス社の株式の51%を中国のジーリーが取得した。電動スーパーカー「エヴァイヤ」はジーリー傘下の新生ロータスが世界を今一度振り向かせるために放った打ち上げ花火だった。彼らはロータスをここ数年のうちに年産15万台規模のEVメーカーに育て上げるつもりだ(中国で半数を売りさばくらしい)。
もちろん世界一にコアでハードでスパルタンでマニアックなスポーツカーメーカーのままでは、そんな目標など幻想でしかない。ロータスはライフスタイルブランドへと転換する。だから、昔ながらのマニアは悲しむほかないと言ったのだ。エンジンを積んだロータスはもうじき日本にもやってくるミドシップスポーツカーの「エミーラ」で終わる。
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EVプラットフォームこそ重要
けれどもジーリーの“友達の輪”戦略に加わったことで、ブランドが生き残る可能性はこれまで以上に高まった。(どのようなスタイルになっていても)生き残ってさえいれば、あなたが愛した歴史や伝統もまたいっそう生きてくる。マニアは過去のクルマをそのまま、いや、場合によってはさらなる価値を加えて楽しむことができるだろう。いままで以上に多くの人々がロータスというブランドを知り、その歴史に興味を持つ人は増えこそすれ減ることなどないはずだからだ。
計画では、SUVのエレトレに続いて、セダンやコンパクトなSUVも登場する。当然、すべてはEVだ。そして2026年には満を侍して電動スポーツカーが登場するという。
ジーリーは自社ブランドに加えてボルボやスマート、プロトンなど世界中のブランドに触手を伸ばし“友達の輪”を広げてきた、いま最も注目すべき中国の自動車会社である。メルセデス・ベンツの筆頭株主に躍り出て世間をアッと言わせたことは記憶に新しい。最近ではルノーとの協業も発表した。彼らの目指すところはズバリ、自動車ビジネスの転換だ。“つくって売る”スタイルからサービスプロバイダーへ。だからこそさまざまなかたちで友達の輪を広げている。
電動化はそのための大きな柱のひとつであり、なかでも注目すべきは2020年に発表したSEA(サスティナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャー)と呼ばれる新しいEVプラットフォームだ。世界初となるB2B(Business to Business)およびB2C(Business to Customer)のオープンソースハードウエアで、AセグメントからEセグメントまで対応可能な800Vシステム・スケートボードスタイルのアーキテクチャーである。ロータスが今回エレトレで初採用したEPA(エレクトリック・プレミアム・アーキテクチャー)もまた、SEAをベースにロータスが開発した。ちなみにエレトレの生産拠点は中国・武漢に新設された最新式のファクトリーとなる。
ジーリーの提供するEVアーキテクチャーのSEAには、モーターやバッテリーシステムといったハードウエアはもちろんのこと、コネクテッドや自動運転など近未来のEVに付随するさまざまなソフトウエア(サービス)も含まれている。今後、世界中の自動車メーカーや新興勢力がSEAを積極的に活用していくことになるかもしれない。そのためにはジーリーのブランド力をいっそう引き上げておく必要があり、そういう意味でもすでに有名なボルボやロータスにおける商業的成功は必須で、今後、この2ブランドには大いに期待できるというわけだった。
(文=西川 淳/写真=ロータスカーズ/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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