アルピナB5ビターボ リムジン(FR/8AT)【試乗記】
大人のスーパーセダン 2011.03.04 試乗記 アルピナB5ビターボ リムジン(FR/8AT)……1717万1000円
最新の「BMW5シリーズ(F10)」をベースに、さらにパフォーマンスを高めたという「アルピナB5ビターボ」。その実力や、いかに?
値段に見合う華やかさ
「アルピナB5ビターボ リムジン」のドアをあけたとたん「しまった!」と思った。ちょっと居心地が悪い。赤みが強いウッドパネルに合わせた、洒落たブラウンの革シート。透過式のブルーのメーター。やはり青でステッチが入れられた革巻きハンドルは、握り心地がしっとりしている。バイエルンの華やかさを体現したようなインテリアに囲まれて、「今日、ユニクロのフリースでよかったんでしょうか?」とひとり恐縮する。
ただでさえ速い「BMW550i」の4.4リッターV8ツインターボを、407psから520psにまでチューンしたアルピナB5ビターボ。車両本体価格1495万円からと、550iより400万円ほどお高い。しかしそんな情報を知らなくとも、裕福なオーナーを納得させ、懐の寂しいライターを萎縮させるに十分豪華な内装である。BMWのインテリア自体、クールなアウディと比較するとずっとアクティブな印象を与えるものだが、アルピナのそれは、さらに目の前がパッと明るくなるような優雅さにあふれている。
ちなみに、この日の試乗車は右ハンドル仕様だったが、これは39万7000円のオプションだそう。追加装備を選んでいくと、すぐに軽自動車を超える金額になってしまうのは、このクラスのクルマではよくあること。むしろお金に頓着せず自分色に染めるくらいでないと「買う意味がない」といえるのかもしれない。アルピナのラインが入ったスペシャルペイントは、ブルー、グリーンとも、プラス55万円となっている。
「M5」もたじたじ!?
新しいBMW5シリーズの日本導入から1年を待たず、5シリーズベースのアルピナB5ビターボの販売が始まった。もともと5シリーズのチューンで名をなしたアルピナだけに、最新モデルのモディファイも手慣れたものだ。
「アルピナ」と聞くと、地を擦らんばかりのエアダムと大径ホイール、そしてバブル時代の喧噪(けんそう)を思い浮かべる人も多いと思う。「バブル時代の喧噪」はともかく、やはりニューB5ビターボも、大きなフロントスポイラーと薄いゴムを巻いた20インチホイールで特徴づけられる。抜き去った相手に見せつけるリアは、トランクリッドに控えめなスポイラーが装着され、マフラーは4本出しとなる。スポーティなルックスはだてではなく、高速走行時に、フロントで60%、リアで30%も、車体の浮き上がりを防ぐ効果があるとアルピナは主張する。
B5ビターボの目玉であるV8エンジンは、89.0×88.3mmのボア×ストロークはそのままに、ターボの過給圧を上げることで、4.4リッターの排気量から520ps/5500rpmの最高出力と72.9kgm/3000-4750rpmの最大トルクを絞り出す。本家BMW550iのそれは、407psと62.2kgmだから、そのチューンのほどがわかろうというもの。ターボとNAユニットを比較するのもなんだが、アルピナの520psは、5リッターV10を積んだ先代「M5」のピークパワー、507psをも凌駕(りょうが)している。
|
アルピナらしい高性能
ハンドルを握って走り始めてまず感じるのは、「ボディ、大きいなぁ」ということ。車体自体の寸法はアルピナにとっていかんともしがたいことだが、4910mmの全長と1860mmの全幅のなかには、初代「7シリーズ」がすっぽり入るのである。そのうえ大人ふたりが乗れば2トンを超える車重だから、ドライバーに「スポーツセダン」を実感させるのは、なかなか難しいことだろう。ことにアルピナは「ハイスペック」と「日常の使い勝手」を高い次元でバランスさせるのがウリだから……と考えているそばから、BiTurboことツインターボの加速にうっとりした。
アクセルペダルを軽く踏んで動き出せば、大排気量の自然吸気エンジンのような、過給機付きを感じさせないスムーズな発進。そして右足にわずかに力を入れれば、穏やかな、緩い二次曲線的なアウトプットを示し、ターボ特有の浮遊感を伴ってB5を運んでゆく。
|
5シリーズベースのB5には、もちろん「サスペンション」「スロットル開度」「ステアリングのパワーアシスト」などを統合制御する「ダイナミック・ドライブ・コントロール」が搭載される。BMWの「ノーマル」「スポーツ」「スポーツ+」に加え、「コンフォート」を選べるのがアルピナらしい。
ただ、乗り心地がソフトな「コンフォート」では、カーブの際に、ボディの傾き方で上屋の重さを感じることがあった。試乗コースが路面のいい高速道路中心だったせいもあろうが、個人的には「ノーマル」もしくは、やや硬めの「スポーツ」が好ましいと思った。前35/後30という超扁平なタイヤを履いていることをすっかり忘れてしまうスムーズな、しかし路面の情報をしっかり伝える乗り心地だ。アルピナB5は、高速道路をまっすぐ走っているだけでも嬉しいクルマである。
トランスミッションは8段AT。B5はハンドルの裏にシフト用のパドルを備えるが、ちょっとしたスポーツ走行でも「D」レンジのままで不満がないので、出番はあまりないかもしれない。
優雅で快適なドライブフィールに油断をしていると、ずいぶんな速度に達していることもあるアルピナB5ビターボ リムジン。500ps超、0-100km/h=4.6秒、最高速度307km/h……。そうしたスーパーなスペックを、大人のほほ笑みに隠したスポーツセダンである。
(文=青木禎之/写真=荒川正幸)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。













