メルセデス・ベンツEQE350+(RWD)
ドライバーズBEV 2022.04.30 試乗記 2022年の半ばからグローバルでのデリバリーが始まる、メルセデスの新型電気自動車(BEV)「EQE」。独特なモノフォルムボディーの中はどうなっていて、どんな乗り味が得られるのか? 国内でのデビューに先駆けてドイツで試乗した。極めて特異なサイズ感
最近の欧州ブランドの例に漏れず、メルセデス・ベンツもBEV化に積極的なメーカーのひとつだが、乗用車の現行ラインナップを続々BEV化するというのではなく、メルセデスEQというサブブランドを立てて、まずはこちらでBEVを投入するという手段を採っている。その点で言えば、実は非常に慎重である。
2021年の春にデビューした「EQS」は、要するに「Sクラス」相当のサイズとプレステージ性を持ったBEVだが、それと相前後して彼らはSクラスもフルモデルチェンジを行い、新型へと移行させた。2022年4月20日にデビューしたばかりの新型「BMW 7シリーズ」が、その最高峰として「i7」と名づけられたBEVを設定したのとはまったく違ったそのやり方は、もちろんSクラス自体の販売が今も極めて好調だからこその手だてであることは間違いない。
そのEQSと共通のBEV専用となる「EVA2プラットフォーム」を用いて生み出されたEQEも、やはり端的に言えば“BEVの「Eクラス」”である。キャッチフレーズはビジネスアバンギャルド。言いたいことは分かるけれど………。
確かにEQSによく似たキャビンフォワードのフォルムは非常に大胆で、いわゆるビジネスセダンのイメージではない。サイズは全長4946mm×全幅1961mm×全高1512mmで、EQSに比べると全長は270mm短いが、全幅は意外にも35mm広い。全高はほぼ一緒である。ホイールベースは同様に90mm短いが、それでも3120mmに達する。
確かに広さはあるものの……
大きく異なるのはサイズだけでなく、EQSがテールゲート付きのハッチバックとなるのに対してEQEは独立したトランクを持つ純粋なセダンとされていることだ。ビジネスセダンを標榜(ひょうぼう)するのであれば、それも納得というところだが、実際にはそうしたコンセプトの違いだけでなく、全長が短いぶん、後席の頭部後方にテールゲート用のヒンジを置くことができなかったということも、セダンとされた理由のひとつだったようである。
実際の室内スペースはといえば、キャビン前後長はEクラスセダンより80mm長く、ショルダールームも27mm余裕が増しているとされる。着座位置は65mm高くなっているが、これはホイールベース間の床下にバッテリーを敷き詰めているからだ。
前席に座ると、フロントウィンドウがやや寝ていることと、それもあって左ハンドル車なら左斜め前方の視界がやや遮られ気味なのが気になるが、広さは十分でおおむね快適といえる。EQSで印象的だった全幅141cmにもなる巨大な「MBUXハイパースクリーン」はオプションで、試乗した複数の「EQE350+」はいずれもSクラスや「Cクラス」と同じようなセンターコンソールに縦型タッチスクリーンを据え付けた内装となっていた。これでも先進感は十分といっていい。
一方の後席は、足元は広々しているが頭上には余裕はなく、Eクラスより落ち着くのかと言われると言葉に詰まる。見た目のとおり、もう少しクーペ的な空間といえる。あるいは、430リッターにとどまる荷室スペースのほうが、現在Eクラスに乗っている人にとっては引っかかるところかもしれない。Eクラスと比べて、100リッターほども小さくなっているのはボディーシェイプからも容易に想像できるとおりである。
驚くほどの静粛性
今回の試乗の拠点はドイツ・フランクフルト市内。メッセ至近の某ホテルをベースに、何台か乗り換えながら、いくつかのルートをたどった。主に試乗したのは日本にも導入予定のEQE350+。最高出力292PS、最大トルク565N・mを発生する電気モーターをリアアクスルに搭載する後輪駆動モデルだ。駆動用バッテリーの容量は90kWhで、航続距離は最長654kmとうたわれている。なお、ラインナップにはすでにその「4MATIC」(4WD車)と「EQE500 4MATIC」が加わっており、つい先日には「AMG 43/AMG 53」も発表されたばかりだ。
イースター休暇で渋滞する市内で、まず感じたのはやはり圧倒的に静粛性が高く、そしてドライバビリティーがとにかく滑らかということだった。自分のクルマも静かだが、周囲の雑音もよく遮断されていて、渋滞にいら立つクルマのホーンが聞こえてきたりはしていたのだが、喧騒(けんそう)のなかにいるという感じがまるでしない。
BEVなんだから静かで滑らかでも当然と思われるかもしれないが、話はそう簡単ではない。EQEのそれは数あるBEVのなかでもずぬけている。これを凌(しの)ぐのは、あるいはEQSだけかもしれないというほどに。
聞けばこのEVA2プラットフォーム、電気駆動システムのeATSは細かな振動を吸収するためサブフレームにマウントされており、しかもそのサブフレームはボディーにラバーマウントされている。さらに、高周波のノイズを遮断するためにぐるりと樹脂カバーで覆われてもいるのだ。結構、熱をもつはずのユニットなのに……とは思うが、それには別のかたちで対処してでもなお、やはり包んでおきたかったのだろう。その恩恵は明らかである。
もうEクラスには戻れない!?
アクセル操作に対する力の出方も穏やかで、突然ビュンと飛び出したりするようなことはない。このあたりは、ちゃんとメルセデスの味わいだ。トルクはあるが、絶対的なパワーは車重に対してはそこそこぐらい。なので、全開にしても遅くはないが目がついていかないほど速いわけでもない。現時点ではエントリーモデルということになるが、ともあれこれで十分。何も不満はない。
フットワークもしなやかで車重は意識させられるものの、どこでも至極快適。またステアリング操作に対するノーズの動きは軽やかで、適度なペースを保つ限りはワインディングロードも楽しめる。ホイールベースは3120mmもあるが、試乗車には後輪操舵が付いていたこともあり、こうして走りを楽しめたし、また狭いホテルのエントランスでも難渋することはなかった。実際に操舵中の後輪を見ると「こんなに切れているのか」と目を丸くしてしまうが、運転しているぶんには違和感はまったくないのである。
それでいて高速域のスタビリティーは、これはもう素晴らしいの一言。アウトバーンでは200km/h超まで試したが、小雨降るなかでもまさに矢のように直進するさまに感心させられっぱなしだった。
デザインはかなり好き嫌いが分かれそうだし、パッケージングには多少首をひねる部分もあるが、走りっぷりはまさにメルセデスの極み。BEVのメリットを生かして、らしさをさらに増幅させているといっていい。おそらくドイツなどヨーロッパでは、とりわけ環境に配慮した姿勢を積極的に見せておきたい会社のカンパニーカーのような使われ方では、厚く支持されることになるのだろう。そして、充電環境などに不便がなければ、それこそもう内燃エンジンのEクラスには戻れなくなるかもしれないというぐらい、走りの質は高い。
一方で正直、日本では一体どんな人がユーザーになるのか想像するのが難しいが……。それこそビジネスシーンでこれに乗っていたら、いい意味でアバンギャルドな人と見られることは間違いない。
(文=島下泰久/写真=メルセデス・ベンツ/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツEQE350+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4946×1961×1512mm
ホイールベース:3120mm
車重:2355kg
駆動方式:RWD
モーター:永久励起同期式モーター
最高出力:292PS(215kW)/--rpm
最大トルク:565N・m(57.6kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)255/35R21 98Y/(後)285/30R21 100Y(ピレリPゼロ MO-S)
交流電力量消費率:187-159Wh/km(WLTPモード)
一充電走行距離:567-654km(WLTPモード)
価格:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh(車載電費計計測値)
拡大 |
メルセデス・ベンツEQE350+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4946×1961×1512mm
ホイールベース:3120mm
車重:2355kg
駆動方式:RWD
モーター:永久励起同期式モーター
最高出力:292PS(215kW)/--rpm
最大トルク:565N・m(57.6kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)255/40R20 101Y/(後)255/40R20 101Y(ピレリPゼロ MO-S)
交流電力量消費率:187-159Wh/km(WLTPモード)
一充電走行距離:567-654km(WLTPモード)
価格:--
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh(車載電費計計測値)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【試乗記】 2026.8.17 BMWの新世代電気自動車の第1弾である「iX3」がいよいよ日本の道を走り始めた。さすが「ノイエクラッセ」をうたうだけあって、内外装だけではなく、運転感覚もまた新しい。「Mスポーツ」グレードの仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・トライデント660(6MT)【レビュー】 2026.8.15 英トライアンフのミドル級ネイキッドスポーツ「トライデント660」が、大幅に進化。エンジンを強化し、フレームやサスペンションを見直すなど、全方位的に走りに磨きをかけてきた。速さと乗りやすさを同時に追求した一台の、ライドフィールを報告する。
-
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)【試乗記】 2026.8.12 トヨタの人気SUV「RAV4」が6代目へと進化。どれくらい人気なのかは本文をご覧いただきたいが、日本だけでなく約180もの国と地域で愛されているモデルゆえに、その仕上がりはとにかく手堅く、そして隙がない。街から高速道路、さらに山道まで走り回って、気になったのはわずか1カ所のみだった。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.8.11 新型電気自動車「ES90」は、ボルボが「フラッグシップクロスオーバー」と紹介する新種の5ドアハッチバックモデル。「SPA2」プラットフォームによるゆとりあるボディーと、ボルボの次世代電気自動車アーキテクチャーの織りなす走りを報告する。
-
テスラ・モデルY Lプレミアム(4WD)【試乗記】 2026.8.10 日本でも好評を博す、テスラのSUVタイプの電気自動車「モデルY」。その6人乗り・ロングボディー仕様が「モデルY L」だ。実際に機能性や走りに触れてみると、決して「補助金頼み」とは言えない、同車の人気の理由が分かってきた。
-
NEW
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】
2026.8.19試乗記マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。 -
NEW
第125回:「日産エルグランド」と「メルセデス・ベンツVLE」(後編) ―古豪復活と新勢力の出現で進むミニバンデザインの多様化―
2026.8.19カーデザイン曼荼羅帰ってきたキング・オブ・ミニバンこと新型「日産エルグランド」に、メルセデス・ベンツが世に問うた乗用MPVの「VLE」。古豪の復活とニューモデルの登場で、高級ミニバンのトレンドはどう変わるのか? オラオラ系が幅を利かすミニバンデザインの未来を考えた。 -
NEW
新型「キックス」がスマッシュヒットの日産 次なる一手のコンパクトミニバンとはどんなクルマか?
2026.8.19デイリーコラム新型「キックス」が好評の日産が、次はコンパクトミニバンの発売をプランしているという。日産の国内ラインナップには(なぜか)なかったジャンルのモデルだが、果たしてどんなクルマになるのだろうか。「シエンタ」「フリード」といった強力なライバルに、どのような武器を手に挑むのだろうか。 -
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】
2026.8.18試乗記クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
「シフトパドル」に代わる、より優れたCVTやATの変速デバイスはありうるか?
2026.8.18あの多田哲哉のクルマQ&AAT車の手動変速装置は今、パドルタイプのものが主流になっている。今後、これに代わる変速デバイスは登場するのだろうか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんが「変速と運転の今後」について語る。 -
第342回:どうしてこんなに高いんですか
2026.8.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。BYDが日本の軽自動車市場に向けて独自開発した電気自動車「ラッコ」が上陸した。早速、愛車「ダイハツ・タント」の後継として検討すべく、近所のディーラーで試乗することに。果たしてその印象は?



































