今も語り継がれる“ナナサンカレラ” 「911カレラRS 2.7」は何がスゴかったのか?
2022.05.11 デイリーコラム伝説が新たな伝説を呼ぶ
「今も語り継がれる“ナナサンカレラ” 『911カレラRS 2.7』は何がスゴかったのか?」というお題を編集部からいただいた。この春、ポルシェが発表した1250台の限定モデル「911スポーツクラシック」の元ネタであることから生まれたプリミティブな疑問である。
911スポーツクラシック(SC)としては2代目で、それというのも、2009年に997型ベースで同名のモデルが限定でつくられているからだ。2代目は現行992型をベースに、後輪駆動なのに「911ターボ」のワイドボディーと、カレラRS 2.7風のダックテールスポイラーを特徴とする。ダブルバブルルーフは初代SCで採用されたもので、元祖RS 2.7とも、1964年から1973年まで生産された初代911ともデザイン上のつながりはない。現代のポルシェのデザイナーが自らの刻印として採用したもの、と推測される。
ナナサンのカレラをそのまま再現しただけでは新たな伝説は生まれない。そこになにかしら、ノスタルジーだけではない、新しいアイデアがあったからこそ、SCは大いなる支持を得た、ということだろう。1950~1960年代をモチーフとする「ヘリテージデザイン」という新たな限定シリーズのもとになるほどに。
伝説が新たな伝説を呼び、神話となる。ポルシェは日々、伝説を継続生産しようとしている。それが陳腐化どころか、マーケットから待ち望まれている。ビジネスのお手本として、自社の歴史をないがしろにしがちな日本の自動車メーカーは見習うべきでありましょう。余計なお節介ですけど。
もっとも、ポルシェほど伝説と神話に彩られた自動車メーカーは地球上に存在しない。ポルシェは、ご存じのように、生産車を積極的にモータースポーツに参戦させることで技術を磨き、マーケティングにも利用してきた。ポルシェ911の歴史は勝利の歴史でもある。
ちなみにフェラーリの場合、エンツォ・フェラーリはレースの資金を稼ぐために生産車をつくった。動機がまったく違う。
早瀬左近の愛車に
前段が長くなりました。911の長い勝利の歴史のなかで、エポックとして位置づけられているのがナナサンのカレラである。ナナサンとは、1973年モデルの意で、発表は前年の1972年にさかのぼる。今年はちょうど50周年。池沢さとし(当時)の漫画『サーキットの狼』が『週刊少年ジャンプ』で始まったのが1975年。主人公のライバルの早瀬左近の愛車として登場することで、スーパーカー少年にはおなじみだ。
当時、中学生の私も胸をときめかして読んでいたものだけれど、『カーグラフィック』の熱心な読者でもあった4つ年上の兄はそんな私に、「(主人公が乗る)『ロータス・ヨーロッパ』がポルシェ911の、しかもカレラRS 2.7に勝てるわけがない……」と諭すように語ったことを今も覚えている。
ナナサンのカレラは、1973年から新たに始まるヨーロッパGT選手権に照準を当ててポルシェがつくった、911のホモロゲーション取得のための限定生産モデルだった。グループ4の規定を満たすには500台の生産が必要で、ポール・フレール著『ポルシェ911ストーリー』(二玄社)によれば、ライバルに「フェラーリ365GTB/4」や「デ・トマソ・パンテーラ」などの大排気量車が想定されたため、エンジンのパワーアップが望まれた。そこで生産型「911S」の2.4リッターのシリンダーボアを84mmから90mmに広げて2681ccとし、ボディー方面では空力を改善して揚力の発生を抑えること、増大したパワーを生かすべくタイヤの幅を広げること、そして車重を900kgにまで下げる軽量化が必要だと考えられ、実行に移された。
発売を前に売り切れる
グループ4ではボディー輪郭の変更は認められず、空力装置を取り付けた状態で申請しなければならなかった。そこで採用されたのが“ダックテール”と呼ばれる、FRPのボンネット一体型リアスポイラーで、この奇妙な付加物は後輪のリフトを75%もカットした。
限定とはいえ、生産型のポルシェでフロントよりリアのホイールのほうが幅広なのは初めてのことだった。その効果は分かっていたけれど、「前後輪に共用できるスペアタイヤ」をドイツの法規は求めており、実現できなかった。これを解決したのがBFグッドリッチの折りたたみ式スペアタイヤで、カレラRSで初採用され、翌年から量産車にも使われることになる。
カレラRS 2.7をさらにレース向けに仕立てた「カレラRSR」は、1973年初めのデイトナ24時間レースと続くセブリング12時間、さらにシチリアのタルガ・フローリオでも優勝を飾り、いきなり大きな成功をおさめた。
カレラRS 2.7は発表されるや注文が殺到し、発売前には売り切れとなる。ポルシェは追加に応じ、最終的におよそ1600台が生産された。こんにちに連なる911の高性能化と神話化の文法を確立したのがナナサンのカレラだった。
小林彰太郎さんのインプレッション
「何がスゴかったのか?」という問いに答えるために、その試乗の印象を書きたいところだけれど、あいにく筆者には経験がない。そこで、『カーグラフィック』の1973年9月号に掲載された小林彰太郎さんのインプレッションを勝手に抜粋してご紹介しておく。
「さて、街なかをゆっくり走った限りでは、乗り心地はひどく硬いことと、エンジンが異例にフレキシブルな点を除いて、普通の911と何らえらぶところがない。だが東名高速に乗り、各ギアでいっぱいに踏み込んだ瞬間から、ゾクゾクするほどすばらしいカレラRSドライビングの愉(たの)しみが始まった」
もっと引用したいところですけれど、以上は『小林彰太郎名作選』(株式会社カーグラフィック)からでありまして、続きはぜひそちらで。
最近の例では、『CGクラシックVol.4』に、カレラRS 2.7を含むナロー911を5台集めて箱根でテストした吉田 匠さんのリポートが掲載されている。詳細はご購入していただくとして、吉田さんのキメの一文を勝手に(怒られるかな)。
「最古の911は最高の911」
なお、全部で4モデル導入するとされる911のヘリテージデザイン。第1弾が2020年発表の「タルガ4Sヘリテージデザインエディション」で、第2弾がスポーツクラシック、となると、第3弾はカレラRS 2.7のサファリ仕様がモチーフとなるのではあるまいか。911のオフロード仕様も出るみたいだし。
(文=今尾直樹/写真=ポルシェ、高橋信宏/編集=藤沢 勝)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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