ホンダ・ステップワゴンe:HEVエアー 7人乗り(FF)/ステップワゴンe:HEVスパーダ 7人乗り(FF)
目指せ表彰台! 2022.05.26 試乗記 ミドルクラス箱型ミニバンの元祖「ホンダ・ステップワゴン」がフルモデルチェンジ! 捲土(けんど)重来をもくろむ新型はどのような進化を遂げたのか? ドライバーとその家族にとことん寄り添うべく、「♯素敵(すてき)な暮らし」をコンセプトにつくられた6代目の仕上がりに触れた。試乗コースでUターン
発売前ということで、新型ステップワゴンの試乗会はホンダの栃木プルービンググラウンドで行われた。普段は開発のためのテストに使われているコースにパイロンを立て、特設の試乗会場が仕立てられていたのだ。発進して100mほど行くと信号があり、そこでUターン。試乗でいきなりUターンさせられるのは初めての経験だ。イレギュラーなコース設定には意味があって、視界のよさと回転半径の小ささをアピールするためである。
ステップワゴンは、かつて“5ナンバーミニバン”と呼ばれていたジャンルに属する。コンパクトなサイズで3列シートを持ち、ファミリーカーとして人気だ。しかし、新型は5ナンバーではない。全幅が先代モデルより55mm拡大して1750mmになった。衝突安全や室内空間の確保のためにサイズアップは避けられなかったと思われる。大きくなっても従来と同じように小回りが利いて運転がしやすいことは、このクルマにとって重要な価値を持つ。
最小回転半径を5.4mにとどめたことに加え、運転席からの視界のよさも車両感覚のつかみやすさに貢献しているようだ。インストゥルメントパネルの上部は完全にフラットで、ベルトラインと直線的につながる。メーターフードの張り出しも抑えられており、ボンネットの先端部がよく見える。Aピラーの位置や形状、ドアミラーの取り付け部も工夫されていて、死角は明らかに減少していた。
運転しながら、同乗したエンジニアからの解説を聞く。ブレーキペダルやアクセルペダルの踏み心地の調整、ステアリングを切った時のクルマの動きなどについてである。人間の感覚に沿う自然さを目指したのだという。マツダの試乗会でよく聞いたような話だが、どのメーカーも同じようなところを目指しているのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
力強さより気持ちよさ
試乗コースは制限速度が40km/hだった。高速道路やワインディングロードでの走りに関しては公道での試乗を待たなければならないが、このクルマが最も多く使われるシチュエーションは、このぐらいの速度域である。
新型ステップワゴンには1.5リッターガソリンターボ車もあるが、この日試乗できたのは2モーターハイブリッドシステムの「e:HEV」を搭載したモデルだった。EVモード、ハイブリッドモード、エンジンモードが自動的に切り替わるが、このコースではほぼモーターだけでの走行である。エンジンとモーターが複雑な協働をみせるトヨタのハイブリッドシステムを除けば、ちまたではモーターの存在感が強く表れるタイプのハイブリッド車が多くなってきた。新型ステップワゴンもその一台で、当然ながら車内は静かである。エンジンがかかるシーンもあったが、それでも十分な静粛性が保たれていた。先代モデルではドライバーと3列目の乗員の会話ができなかったという反省があり、遮音に力を注いだそうだ。
先代モデルは、ミニバンらしからぬ力強い加速が魅力だった。山道でも結構楽しめたのだが、それは商品の価値としてプラスだったとはいえないらしい。強い加速は不自然と感じるユーザーも多く、新型ではよりナチュラルなフィールを目指したという。アクセルペダルを少し踏んだだけで飛び出すような設定では疲れてしまうのだ。初期の加速感を抑えたというが、力不足という印象はない。豪快な走りを演出するより、気持ちよさを優先することを目指したのは正解だと思う。
操舵フィールも自然さが追求されている。大きな力を要するわけではないが、切り込むとソリッドな反応が返ってくるのが心地よい。かつてのホンダはパワステのアシスト量が過大だと言われていたが、隔世の感がある。少し高めのスピードでコーナーを回っても、姿勢を乱すことはなかった。バネを柔らかくしたうえで、ダンパーでロールを抑え込んでいるそうだ。同じコースを走っていないので明確なことは言えないが、敷地内での送迎に使われた先代モデルと比べて、乗り心地も上質になったように感じられた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
目指したのは“きれいな箱”
試乗前の技術説明で、「ステップワゴンは万年4位……」という自虐発言があった。確かに、事実ではある。トヨタの「ノア」と「ヴォクシー」、日産の「セレナ」という強力なライバルがいて、ずっと後塵(こうじん)を拝していたのだ。こんなはずではなかったという思いは強いだろう。「クリエイティブ・ムーバー」シリーズの第3弾として1996年に登場した初代モデルは、大人気だったのだ。5ナンバーミニバンのパイオニアだったが、後に他社がぶつけてきた同じコンセプトのモデルにリードを許してしまう。
2022年は、勝負の年になる。1月にトヨタが新型ノア/ヴォクシーを発売しており、日産もそろそろセレナのフルモデルチェンジを行うはずだ。ホンダが発売のかなり前からステップワゴンのティーザーキャンペーンを始めていたのは、故あることなのである。新型ステップワゴンは万年4位から脱出するために全力でつくり上げた自信作に違いない。
エクステリアデザインは明確に変化した。「フィット」「ヴェゼル」に続いて、シンプルでフラットなフォルムを志向している。先代モデルがボクシーな形から離れようとしていたのに対し、新型は初代に回帰して箱であることを潔く受け入れた。ただし、“きれいな箱”を目指したというのが開発者の主張である。ノア/ヴォクシーが力強さと立派さを強調する路線を踏襲したのに対し、別の路線を行く。
ラインナップには大きく分けて「エアー」と「スパーダ」の2種類があり、共通のフォルムでありながら異なるイメージを持たせている。エアーはまさに空気のような存在を目指していて、シンプル&クリーンがテーマ。スパーダはスタイリッシュ志向で、クロームメッキを使うなどして上質さを演出する。それでも物足りないと感じるユーザーには、無限(M-TEC)やホンダアクセスのカスタムパーツで対応しようというもくろみだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
カフェのようなインテリア
エアーはファブリック内装で、カフェのようなインテリアが設(しつら)えられていた。ざっくりとした風合いは、ソファに使われるような素材に見える。シートに使われるだけでなく、ドアやダッシュボードにも張られているのが新趣向だ。リビングルームのような空間を作ろうとしたのだという。「日産サクラ」にも似たような内装が用意されていたから、最近のトレンドなのかもしれない。
スパーダはファブリックと合成皮革を使ったダークな色調のインテリア。従来どおりの重厚で落ち着きのある仕上げになっている。このあたりは外観以上にエアーとスパーダの違いが際立っていて、大幅に異なる印象だ。スパーダの「プレミアムライン」にはスエード調表皮を採用して、さらに上質感を高めている。
シートの座り心地については、念入りなチューニングが行われたという。前席はしっかりとした形状でホールド性が高く、2列目はソファのような心地よさがある。クッションだけでなくその下の構造まで変えて、柔らかさと適切な沈み込みが得られるように調整しているそうだ。スパーダの2列目にはオットマンも装備されており、足元の広い空間に足を投げ出すようにしてくつろぐこともできた。
2列目シートは申し分のない快適さを確保しながら、スライド機構も進化させている。前後に最大865mmのロングスライドができ、左右にも動く。前後・左右とも1本のレバーで操作できるのが便利だ。浅く引くと前後、さらに強く引くと左右にも動かせるようになる。機械的な仕組みを工夫したのはもちろんだが、ロングスライドを実現するためにハイブリッドシステムにもひと手間かけている。IPU(リチウムイオンバッテリーと制御用ECUなどを集約した電源ユニット)の冷却排気の方法を見直し、リアに伸ばしていたダクトをなくすことでシートレールを伸ばすことができた。冷却効率も向上したというから一石二鳥である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
進化した3列目シート
以前からステップワゴンの特徴は、3列目シートにあった。簡単な操作で床下に格納することができるのだ。新型でもこの機構は引き継がれており、シートが魔法のように消えてフラットな荷室が出現する。新型で進化したのは、座席としての機能である。座面は21mm厚くなり、背もたれが45mm高くなった。エマージェンシーではあるものの、座り心地は明らかに改善されていた。着座位置が高められているので前方がよく見え、閉塞(へいそく)感も抑えられている。大人でも1時間程度の乗車なら苦にならないだろう。
大きく変わったのは、リアゲートである。「わくわくゲート」が廃止されたのだ。便利な機構なのに、ユーザーには響かなかったらしい。使ってみた人には好評だったが、ひと目見て拒否反応を示すケースが多かったという。それでもオプションとして残すことを考えたが、費用がかかりすぎるので泣く泣く諦めた。14kgという重量増もネックになったというから仕方がない。
今回試乗できたのはハイブリッド車だけだったが、先述のとおりガソリンエンジン車も引き続きラインナップされている。先行受注ではハイブリッドの比率が65%で、増加傾向にあるようだ。興味深かったのは、エンジニアが口々にガソリンエンジン車の仕上がりのよさをアピールしていたことである。ホンダは2040年にすべてのモデルを電気自動車か燃料電池車にするという構想を発表したが、今のところエンジンにも果たすべき役割が十分に残されている。
短い時間の試乗だったが、新型ステップワゴンが力作であることは伝わってきた。ブレーキフィールや加速性能を改善し、弱点だった静粛性も納得できるレベルを達成したという。万全の構えで激戦区に挑むわけだが、ライバルも進化している。ノア/ヴォクシーはスキのない仕上がりだったし(参照)、セレナも周到に新型の準備をしているはずだ。開発者のご苦労には頭が下がるが、消費者としてはさらなる競り合いでいい製品ができることを歓迎したい。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
拡大 |
テスト車のデータ
ホンダ・ステップワゴンe:HEVエアー 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1750×1840mm
ホイールベース:2890mm
車重:1810kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6200rpm
エンジン最大トルク:175N・m(17.8kgf・m)/3500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(31.2kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H/(後)205/60R16 96H(ブリヂストン・トランザER33)
燃費:20.0km/リッター(WLTCモード)
価格:338万2500円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:2423km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
ホンダ・ステップワゴンe:HEVスパーダ 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4830×1750×1840mm
ホイールベース:2890mm
車重:1840kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6200rpm
エンジン最大トルク:175N・m(17.8kgf・m)/3500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(31.2kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H/(後)205/60R16 96H(ブリヂストン・トランザER33)
燃費:19.6km/リッター(WLTCモード)
価格:364万1000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:259km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】 2026.10.28 「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。
-
ダイハツ・ミラ イースtuned by D-SPORT Racing(FF/5MT)【試乗記】 2026.10.27 ダイハツのベーシックな軽乗用車をもとに、ラリーやレース向けの競技車両に仕立てた「ミラ イースtuned by D-SPORT Racing」。軽量ボディーをロールバーで固め、力強いターボエンジンを搭載した一台は、クルマの楽しさを学べる教科書のような一台となっていた。
-
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/7AT)/ゴルフRアドバンス(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.26 1976年に誕生し50周年を迎えたフォルクスワーゲンのホットハッチ「ゴルフGTI」と、333PSの出力とハイテク満載の4WDシャシーを武器とする高性能モデル「ゴルフR」にサーキットで試乗。両者の違いとそれぞれの特徴を報告する。
-
レクサスES350h(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.24 「レクサスES」がフルモデルチェンジ。8代目となる新型ではボディーがググッと大きくなったほか、デザインも一気に現代的に。さらにトヨタグループでは最新鋭のパワーユニットを積むなど、中身も外身も刷新されている。2.5リッターハイブリッドモデルを試す。
-
マツダCX-30 25エアエディション(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.23 マツダのコンパクトクロスオーバー「CX-30」に、一部改良で2.5リッターガソリンモデルが登場。新たなパワートレインを得た最新型は、過去のモデルからどのような進化を遂げているのか? 装備全部盛りの最上級グレードで確かめた。
-
NEW
「BYDラッコ」がアジアにはばたく!? ニッポンの軽自動車規格が海外勢に奪われる日
2026.10.30デイリーコラム中国のBYDが、軽BEVの「ラッコ」を日本以外でも販売すると発表! 日本独自のスモールカー規格は、はたして海外でも受け入れられるのか? 本家・日本のメーカーが、海外展開に及び腰だった理由とは? BYDが食指を動かす、軽自動車の秘めた可能性を探る。 -
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー
2026.10.29デイリーコラムメルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。 -
ボルボEX90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(後編)
2026.10.29あの多田哲哉の自動車放談ボルボの新世代EV「EX90」に、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが試乗。ちょっと気になったところと、クルマとしての魅力を感じたポイントについて熱く語る。 -
写真で解説する「メルセデス・ベンツ・エレクトリックGLC」
2026.10.28画像・写真メルセデス・ベンツの新たなフル電動SUV「エレクトリックGLC」がデビュー。2026年10月28日に国内での注文受け付けがスタートした。一体どんなクルマなのか、その見どころを写真とともに解説する。 -
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28デイリーコラムポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。 -
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
2026.10.28試乗記「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。

























































