第182回:「日産ジュークの春」イタリアに到来!
2011.02.26 マッキナ あらモーダ!第182回:「日産ジュークの春」イタリアに到来!
「ジュリエッタ」より見かける新型車とは?
最近、イタリアやフランスの路上で見かける機会が多くなったクルマのひとつが「日産ジューク」である。こちらでの販売開始は2010年秋だから、登場まだ僅かにもかかわらず、といってよい。
実際のところどうなのか、手元にあるイタリアの2010年12月国内登録台数を見てみた。するとどうだ、「ジューク」は1114台で、「SUV&オフロードカー」カテゴリーの2位にランクインしている。数カ月前に発売されたCセグメントの「アルファ・ロメオ ジュリエッタ」(1206台)とほぼ同レベルで売れていることになる。
ジュリエッタより見かける頻度が高い感じを受けるのは、ジュークのホディスタイルが派手だからであろう。欧州全体のセールスでも、2010年は前述のように数カ月しかなかったにもかかわらず、2万2291台を記録している。
ボクは引き続き路上を走るジュークを観察することにした。なぜなら、発売直後のモデルは販売店が登録して、試乗車や社員用に使っている車両が多いからである。そうしたクルマは『NISSAN JUKE』などというカッティングシート文字がボディサイドに貼ってあって一目でわかる。何も書いていない場合でも、クルマ屋さんらしい服装をした人が、それらしいエリアでそれらしい時間帯に1人で乗っているからすぐにわかる。しかし街を走る大半のジュークは、明らかに個人の所有車である。
あらためて統計を見ると、前述のイタリア「SUV&オフロードカー」クラスの登録台数1位は、同じ日産の「キャシュカイ(日本名:デュアリス)」で1737台である。欧州レベルでみても日産の販売台数は、2010年に前年比で11%もプラスに転じている。他メーカーが軒並みマイナスやひと桁台のプラスにとどまっているのと対照的だ。
またフランスの2011年1月19日から25日の販売台数では、前年比でなんと30%のプラスを記録している。ジュークとキャシュカイのコンビが貢献していることは間違いない。
常識を破った!? テレビCMも人気
イタリアでジュークは、ベースモデルのガソリン1.6リッターがFFのみ、直噴ガソリンターボ1.6リッター「DIG-T」がFFと4WD、ディーゼル1.5リッターがFFというラインナップである。トランスミッションはターボモデルの4WD車のみCVTで、あとは5段または6段のマニュアルだ。
1万6490ユーロ(約186万円)から2万7290ユーロ(約308万円)という価格設定も絶妙である。なぜならは、「トヨタ・アーバンクルーザー(日本名:イスト)」は1.3リッターにもかかわらず一番安いモデルで1万7600ユーロ(約199万円)する。かといって、「RAV4」は2リッターで2万4650ユーロ(約279万円)からだ。ジュークは、その隙間を見事に突いているのである。
加えてスタイルは、アグレッシブなデザインを好むボクの周囲の若者イタリア人たちが直感的に「ベッラ!(いいっすねえ!)」と感嘆するデザインだ。これまでキャシュカイに乗っていたものの、いきなり子供ができてしまって家計上泣く泣く手放した知人も、ジュークが気になって仕方がないようである。
イタリアにおけるジュークのテレビCMもイカしている。スローな女性ボーカルの「Twinkle Twinkle Little Star(キラキラ星)」をBGMにしたものだ。「小さいけれども輝く星=ジューク」ということだろう。
映像の中では、ジュークが街を走りだすと、行くところ行くところで電気のスイッチが入ったり、静電気がおきたりする。おもちゃ屋さんのショーウィンドウにあるリモコンカーは走り出し、コインランドリーの洗濯機は勝手に回転を始め、洗剤があふれだす。人の髪は、子供の頃下敷きで静電気を起こしたように逆立つ。しまいには、街のビルやネオンがすべてショートして火花を散らす。そして“オチ”が面白い。夜のお仕事(?)を終えて家に入ろうとした女装のお兄さんが、脱いだアフロヘアーのカツラをふたたびかぶり、ジューク襲来で沸き立つ街へ戻ろうとする。
実は先にルノーにも、「女装していたお父さんが、息子に見つかる」というフランス版CMがあった。お堅い自動車業界では画期的である。出入りしている広告代理店にかなりのプレゼン能力があるとみた。いずれにせよ、そうした斬新なイメージづくりも、ジューク人気を陰で盛り上げているに違いない。CMをアップロードした動画投稿サイトは3万1000アクセスを超えている。
人気の理由はクルマだけじゃない
現場のムードを知るべく、先日ボクは地元の日産ディーラーに行ってみた。ショールームの番頭たる営業部長のモランディーニさんも、ジュークの販売が極めて好調であるとホクホク顔だ。ショールームに置いてある白い1台も、近いうちに買い手がつくだろう。売れ筋はFFモデルという。
しかし彼の説明からは、欧州における、もうひとつの日産の状況も浮かびあがった。「日産キューブ」は前評判とは裏腹に販売が伸びず、残る分を売り終えた時点でカタログから消える。スズキ・インド工場で製造されている「アルト」の姉妹車「ピクソ」も、出足は予想を超えてスローだ。そして日産インド工場で造られる欧州仕様「ミクラ/マイクラ(日本名:マーチ)は、先日ようやくディーゼル仕様が追加されたばかりで、それはまだ店にやって来ない。ディーゼルがないと欧州市場では話にならないのだ。
そうしたなかでジュークは欧州の日産ディーラーにとって、いわば救世主だったに違いない。その昔、日本で「十九の春に」というフォークソングがあったが、まさに「ジュークの春」である。
帰り際、販売店オーナーの御曹司で営業所長のトゾーニ氏が外出先から帰ってきたので写真を撮らせてもらうことにした。ワンカット撮ったあと、トゾーニ氏が「もういちど撮って」と言う。聞けば「ショールーム接客時のセールスに課せられた社員バッジを忘れてしまった」というのだ。
この日本的マジメさ、大都市のフラッグシップストアならいざ知らず、ボクの住むような地方都市で、他ブランドのディーラーではまずみられない。日産をヨイショする気はないけど、こうしたクルマ以外のソフト部分の姿勢や対応も、ジュークの好評につながっているに違いない。
ちなみにトゾーニさんのディーラーは、イタリアの日産ディーラーにおける顧客満足度コンテストでナンバーワンを獲得している。そのおりに訪日し、ゴーン会長と握手した写真も誇らしげに飾られている。彼らにとっては、日本の男子が「AKB48」のメンバーと握手するのと同じくらい光栄なことだろう。
モランディーニさんとトゾーニさんには、ふたたびゴーン握手会? に参加できるよう、ジュークを売りまくり、かつ顧客サービスを向上していただこう。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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