第765回:これでいいのだ! 「目からウロコ」だったアイデア装備
2022.07.14 マッキナ あらモーダ!グローブボックスで除菌!
「フィアット500e」は2022年上半期の欧州EV販売台数で第3位を記録、イタリアとドイツでは1位となった。その500eの新アクセサリー「サニタイジンググローブボックス」が発表された。2022年6月1日のことであった。
簡単に言うと、グローブボックス内に除菌灯を付加したものである。スマートフォンなどの身の回り品を入れてふたを閉め、センターコンソールにある「UV-C」ボタンを押すと深紫外線ライトが点灯する。
オフィシャル動画では、動物に触れたり、銀行ATMやエスカレーターのベルトに触ったり、握手をしたりした手で触れたスマートフォンを、グローブボックスにしまうシーンが紹介されている。3分で除菌が可能で、終了するとアラームが鳴る。
チャリティー企画と連動した「RED」仕様および著名テノール歌手のアンドレア・ボチェッリとのコラボレーションである「ラ・プリマbyボチェッリ」仕様(いずれも2022年7月現在日本未発売)に設定されている。
メーカーの解説ページには「殺菌のための電子機器ではなく、単に表面の衛生度を高めるためのものです」と断り書きがされている。それでも筆者などは、「次は天井に深紫外線ライトを装着し、車内全体ばかりか乗員まで除菌できるようになればありがたい。その場合、目を傷めないよう水中用のようなゴーグルが必須か」などと、たわいもないことを考えてしまう。
ともあれ、誰でも思いつきそうで思いつかなかったアイデアであることは確かだ。
「車内用エスプレッソマシン」のチカラ
フィアットにおける「あれはよく思いついたな」というアイデアといえば、2012年発表の「フィアット500L」における車内用エスプレッソマシンを思い出す。
50ccの水を注いだあとにエスプレッソ用カプセルを挿入すると、水が熱されるとともに、家庭用マシンとほぼ同じ16バールの圧力でコーヒーを抽出できる。
この装置、実はフランスのハンドプレッソという企業が特許を持つ。同社がトリノの有名コーヒーブランド、ラバッツァと共同開発したものだ。
フィアット500L側の室内には、カップホルダー型のドッキングステーションがあり、そこに置いてスイッチを入れるだけでいい、というものであった。
ところが本稿を記すにあたり、500Lのアクセサリー用カタログを再確認してみると、エスプレッソマシンがなくなっているではないか。
フィアット販売店で働く知り合いのセールスパーソンに聞いたところ、「少なくとも当営業所では、注文したお客さんはひとりもいなかった」と証言する。
筆者が考えるに、あまり広まらなかったのは、一杯飲むまでに2分以上を要することや、マシン自体が長さ20cm以上、重量800g級とかさばることが原因ではないだろうか。加えて、イタリアではうまいエスプレッソが飲めるバールがどんな小さな村にも大抵1軒はあり、通常のドライブにおける休憩には事欠かない。したがって、残念ながら必要性を感じる人が少なかったのだろう。
エレキに依存しない装備の数々
除菌灯やエスプレッソマシンのように、車外にあったものを持ち込むのと同様、筆者は「これでいいのだ」系アイデアも好きだ。
ひとつは、初代「フォルクスワーゲン(VW)タイプ1(ビートル)」のウィンドウウォッシャーである。前部のラゲッジスペースに収納されたスペアタイヤの空気圧を使用して噴射するものであった。
つまりウォッシャーを使うたび、少しずつ空気圧が減ってしまうことになる。実際、筆者が少年時代、ビートルを所有していた父親はガソリンスタンドに行くたび、空気圧を点検していたものだ。
それでも、イタリアで現在乗っているクルマのウォッシャー用モーターが故障して、少しでも節約すべく解体工場を探しまわったときには、「ああ、ビートルは賢かった」とつくづく思ったものだ。
第2は学生から社会人時代にかけて東京で乗っていた2代目「アウディ80」の空調である。ダッシュボード中央の吹き出し口は、エアコン作動時以外、簡単に外気を取り込めるようになっていた。基本的に頭寒足熱にしておきたい筆者としては、面倒な操作なしに快適な室内環境をつくることができた。
今日、レンタカーやメディア向けの試乗車に乗るたび、エアコン操作に四苦八苦し、次に落ち着いて調節できるまで不快な温度で我慢を強いられている筆者としては、「あれでよかったのに」と懐かしむことしきりである。
アウディ80といえば、自分では所有しなかったが、思わず懐かしくて涙を流したアイテムがある。少し前、近隣の町の生協で隣にたたずんでいた3代目用の装備である。リアウィンドウに「Procon-ten(プロコン・テン)」のステッカーが誇らしげに貼られているではないか!
プロコン・テンとは、1986年の3代目アウディ80における受動的安全装備だ。前面衝突の際、縦置きエンジンの直後に張られたケーブルが引っ張られる。そのケーブルはシートベルトの巻き取り機構を作動させて乗員を拘束。あわせて、ステアリングコラムを引き込むことで衝撃を軽減するものであった(【図A】および【図B】参照)。
プロコン・テンは、より乗員保護に効果的なエアバッグに席を譲るかたちで消えていった。だが、こうした非エレキな機構が大好きだった筆者である。さらに3代目アウディ80は最低でも車齢31年である。ゆえに、ステッカーを発見したときには興奮した。
そこに「気づき」あり
今回の前半で紹介したフィアットの装備は、日本製軽自動車のアクセサリー専用カタログ――とりわけダイハツのそれは筆者の“愛読書”である――に掲載されるような品には到底及ぶものではない。だが、普段そういったものが不得意と思われているヨーロッパ車がいきなりやるとインパクト大である。それは普段笑わない人が爆笑すると驚くことに似ている。
例のエスプレッソマシンは「一日数杯はエスプレッソ」というイタリア人が、自他共に認めるステレオタイプであることを活用した最高の話題づくりであり、フィアット500Lの知名度向上に貢献した効果は大きい。ブランドの企画力に脱帽せざるを得ない。
また、リチウムイオンバッテリーを内蔵した屋外用や、同じクルマ用でもシガーライターから電源をとる汎用(はんよう)バージョンなど、今日でもさまざまな家電メーカーがポータブルエスプレッソマシンを提供している。500Lがそれらの火付け役となったことも事実なのである。
いっぽう後半のVWとアウディの各機構は、今日からすれば“ローテク”である。しかし、「これでも動くし、十分だ」という気づきを現代人に与えてくれる。
そうした意味でアクセサリーや機構は、自動車本体と同じくらい、私たちに考えるきっかけを与えてくれるのである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、ステランティス、アウディ/編集=藤沢 勝)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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