日産エクストレイル 開発者インタビュー
お待たせしました! 2022.07.24 試乗記 日産自動車Nissan第二製品開発本部
Nissan第二製品開発部
第三プロジェクト統括グループ
セグメントCVE
山本哲也(やまもと てつや)さん
日産自動車
Japan-ASEAN企画本部
商品企画部
日本商品グループ
リージョナルプロダクトマネージャー
寺本広樹(てらもと ひろき)さん
可変圧縮比ターボエンジンを使った「e-POWER」や4輪制御技術「e-4ORCE」などの新機軸を採用し、華々しく生まれ変わった「日産エクストレイル」。開発の背景をパワートレイン担当の高岡正毅さんと商品企画担当の寺本広樹さんに聞いた。
日産のトップセリングモデル
トヨタの「RAV4」しかり、ホンダの「CR-V」しかり。Cセグメント系SUVは今や日本の自動車メーカーにとってはビジネスをけん引する大黒柱だ。それはエクストレイルも同じで、先代のT32型は米国では名称違いで展開する「ローグ」を含めて、世界100以上の国と地域で販売されている。
――エクストレイルは現在、日産のなかではセールス的にどういった位置づけになりますか?
山本哲也さん(以下、山本):アメリカでも既に「アルティマ」や「セントラ」を抜いて日産のなかではトップセールスですが、世界でみても今、最も売れている日産車ということになります。
――それだけ世界で売れるということになると、さまざまな仕向け地のさまざまな事情が求められて、どんどん開発が難しくなるのでは?
山本:そうですね。実はそのT32型では、ローグとの統合や「キャシュカイ」との関連づけという狙いもあって、かなりアーバン寄りなデザインになりました。でも日本ではやはり初代からのタフギア的なイメージが強いですよね。われわれの持つSUV群にあって、個でどういうタフさが表現できるのか。そこが新しいエクストレイルの課題だったと思います。
寺本広樹さん(以下、寺本):一方で、SUVというものが普及していくなかで、T30、T31型のころと今とではユーザーのニーズも変わってきていることも確かです。T32型のユーザーニーズをみていても、防水シートなどアクティブな仕立てはあまり求められなくなっている。そういう特徴的なアイテムでアイデンティティーを表現する難しさとともに、普通のクルマからの乗り換えにもしっかり応えられる上質さが求められていることは間違いない状況でした。
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国内導入に2年を要した理由
――そこでe-POWER&e-4ORCEだったということでしょうか。
山本:そうです。e-POWERは日欧で展開しますが、ともあれ日本のお客さまに真っ先に乗っていただきたかった。申し訳なくも米国ローグの投入から2年近くお時間をいただいてしまったのも、そんな理由です。
寺本:e-4ORCEは「アリア」への搭載を発表していますが、実際にお客さまに触れていただく段階としてはエクストレイルのほうが早いのではないかと思います。
――試乗させていただいた感じだと、直進時の静穏さと旋回時の激烈ぶりのコントラストがとても印象的でした。モーター制御ってやはり今までとは別の世界を見せてくれるなと。
山本:上質さだけではない新しい付加価値をもたらしてくれるというのも、この組み合わせをまずは日本のお客さまにお届けしたかった大きな理由ですね。
――エンジンには日本市場では初の可変圧縮比技術が使われていますが、こちらの音・振動対策も随分頑張ったのではないですか。
寺本:もちろんわれわれの独自技術ですし、稼働状況に応じて一番効率のいいゾーンを使えるという大きな利もありますから、これもなんとかモノにしたかった。開発陣が頑張ってくれて、静粛性や振動などの質感についても胸を張れるレベルに達したと思いますね。
4WDのシェアが圧倒的
――一方で、それこそタフギアではありませんが、クルマとの手応えある対話を求める向きには線が細いと思われるかもしれない懸念もある。
山本:おっしゃっていることも確かに分かります。普通に乗っているぶんにはちょっと洗練されすぎてSUVっぽくないという印象を抱かれるかもしれません。でも実際はe-POWER&e-4ORCEの緻密な駆動制御によって、悪路走破性でも別次元の一面を持っています。
――駆動配分はもう自由自在ですか?
山本:理論的にはそうですが、前後が100:0~0:100ではなく、路面状況に応じておおむね100:0~30:70の範囲を用いています。例えば高速巡航は100:0のFF状態、悪路の登坂やモーグルは30:70といった感じですね。
――しかしこれほど走りの印象が洗練されると、ユーザーはe-4ORCEじゃなくて1モーターのe-POWERばっかり買っちゃうんじゃないでしょうか。
寺本:そこがエクストレイルのユニークなところで、代々の販売構成も8:2~9:1で4WDが多いんですよ。もう圧倒的といってもいいくらいで。お客さまもFFを選ぶなら他の銘柄を選ぶというくらいの意気込みで、エクストレイルには期待を寄せていただいているのだと思います。だからわれわれもこのクルマはまず4WDありき、で開発してきました。
――そういえば蛇足ですが、今回の新型では、100V/1500WのACアウトレットが用意されました。
寺本:これはもう、今回の電動化に合わせてぜひとも実現したかった装備です。お客さまには本当にお待たせしましたと申し上げたいですね。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。