アルピーヌA110 GT(MR/7AT)
神は脚部に宿る 2022.08.29 試乗記 マイナーチェンジ版「アルピーヌA110」には新グレード「GT」が設定されている。全長4200mm余りのミドシップスポーツで? と思われるかもしれないが、積めるかどうかは別として、その乗り味はまぎれもなくGTだ。それでいながらコーナリングも楽しめる万能な一台に仕上がっている。最後のエンジン付きアルピーヌ?
2024年以降はパワートレインの電動化を推し進め、SUVとハッチバック、そしてスポーツカーと3タイプの車型で電気自動車(BEV)をそろえることを公言しているアルピーヌ。背景にあるロータスとのパートナーシップや、「ルノー5」の後継的デザインが与えられたコンセプトカーの存在など、その伏線は既に敷かれている。
もっとも、直近のルカ・デメオCEOの発言を聞いていると、ちょっと揺り戻しもあるのかもと勘ぐってしまいそうだ。が、現状はともあれアルピーヌはブランドの独立性強化とプレミアム化を支えるべく、BEVシフトを急速に進めていることは間違いない。
とあらばこの世代のA110が、アルピーヌブランドとしてリリースされる純然たる内燃機を搭載した最後のスポーツカーとなるのだろうか。それは残念というよりももったいないと思うのは、A110が強靱(きょうじん)でありながらしなやかさも併せ持ち、かつ劇的に軽いという今どき稀有(けう)なスペックの持ち主だからだ。モーターとバッテリーの組み合わせになればそこに低重心も加わる一方で確実に重くなり、それに合わせてシャシーも補剛されるとなれば、この絶妙なバランスもそのまんまというわけにはいかないだろう。
実はアルピーヌはつい先日、そんなプロトタイプ「A110 E-ternite」を発表している。A110登場60周年を記念して……という一面もあるが、先述のような近い将来に向けたプロポーザルという側面も強いはずだ。ちなみにA110 E-terniteは、A110比で258kgの重量増になるという。それでも「ケイマン」くらいの車重といえば立派なものだが、やはり動的資質は別物と考えられる。
「リネージ」の進化版
というわけで、前置きが長くなったが本題のA110だ。2017年のデビュー以来、既に約1万台を販売という実績は、ブランドのマニアックさやコンパクトな生産体制に鑑みれば上々だろうが、それより驚かされたのがその8%以上となる800台余りが日本で売れたということだ。日本においてはことのほか渋い商品展開でクルマ好きをうならせるルノーブランドへの期待や信任も背景にあっただろうとはいえ、アルピーヌへの認知や理解、オリジナルA110の人気など、マニア筋の層の厚さがこの数字に表れているとみえなくもない。
そのA110、登場から5年目で初のマイナーチェンジを施されたわけだが、その内容は既出の石井さんや佐野さんの記事で触れられているとおり、表向きはバリエーションの追加に伴い、グレード名をシンプルに整えたという感じで、外観についての変更はない。ただし中身はネックとなっていたDCTのハードウエア強化に伴うトルク許容量の増大に伴ってエンジンマネジメントを変更。同じ1.8リッター4気筒直噴ターボでも、上位グレードに搭載されるユニットは20N・mの最大トルク値増大とともに、パワーは大台の300PSに達している。
今回試乗したのは、まさに今回追加されたバリエーションとなるGTだ。従来モデルは基準車の「ピュア」と豪華トリムの「リネージ」、そして後に高出力化とそれに合わせたスポーツドライビング志向の足まわりを与えられた「S」という3つのグレード構成だったが、マイチェン後は基準車がグレード名なしとなり、Sはそのまま、そしてGTはリネージに準拠する豪華版の内装と「アルピーヌシャシー」と呼ばれる標準の足まわり、そこに高出力の300PSユニットを組み合わせている。前型の視点で見れば、リネージのエンジンを300PSにまで高めたのがGTということにもなるだろうか。
300PS×アルピーヌシャシーでも問題なし!
と、ここで300PSにスープアップされたユニットのフィーリングがどう変わったかということを期待される方もいらっしゃると思う。でも僕には、先代の292PSに対してわずかなその差をみてとることができなかった。どちらかといえばトルクの差のほうが実感できるのかなぁと思いながら乗ってはみたものの、正直、パワートレインに関しては商品の魅力に直結するような差は感じないというのが正直な印象だ。300PSというピーク値の恩恵は多分前型のA110 Sとゼロヨンでもやれば初めて可視化されるレベルなのだと思う(ちなみに0-100km/h加速は292PS版が4.4秒、300PSが4.2秒となっている)。あるいは今、毎日A110 Sに乗っている方なら実感できる違いがあるのかもしれない。
そしてもうひとつ、クルマ好き的に気になることといえば、今まで252PSとの組み合わせだったアルピーヌシャシーが300PSを吸収できているのかという点だろう。この点について問題を感じることはまったくない。当日は日当たりの悪さから路面が湿っぽいワインディングでの試乗となったが、操縦実感はむしろ濃密に感じられ、持てるパワーを安心して路面に放つことができた。タイヤの銘柄もサイズも以前から変わっていないが、グリップレベルがちょっと上がったように感じられたのは、サスの動きが前型よりもさらにひと回り洗練されたように思えたからだろう。公式には前型から変わっていないと言われるものの、よくある熟成過程でのフィーリングの変化ということなのだと思う。
それにしても、このシャシーがもたらすライドフィールの気持ちよさはなんなんだ?
アルピーヌの現場力
A110に乗ると、とにかく引き込まれるのはそこだ。今回も移動中はマンホールやジョイントなどの段差を進んでまたぎにいき、高負荷域ではわざわざフルバンプを望んで凹凸を踏んでもみたが、あらゆる入力をしゃなりしゃなりと優雅に軽やかに受け止めていくそのサマは、何にも比べることができない。987の「ボクスター」と981のケイマンに都合13年ほど乗ってきて、ミドシップの酸いも甘いも体に染み込ませてきたつもりだが、それでもこのクルマは想定をあっさり覆す挙動を見せてくれることがある。
ミドシップとしては若干前重な重量配分はまさにボクスター&ケイマンと同じ傾向だが、それを駄肉のない1100kg余りのなかで成立させるのが難儀なことは想像に難くない。そこに加えて、エンジン横置きでもリアダブルウイッシュボーンを実現したアルミコンストラクションシャシーの減衰特性をカバーする独創的なダンピングコントロールや、マウントやブッシュなどゴムもののチューニングなど、開発陣の知見の深さと対処能力の高さがA110 GTの走りの背景にはあるのだろう。
十分に健闘しているとは思うものの、限りある積載力にさえ納得できれば、A110 GTは文字どおりGTとしての万能性を携えたスポーツモデルとしておすすめできるクルマだ。ダラダラの街乗りからガチのスポーツドライビングまで、走りのカバレッジの面積で言えばA110 Sよりむしろ上ではないかと思うところもある。
そして刷新されたA110シリーズに乗ってあらためて思うのは、つくづくこいつはシャシーがキモのクルマだなということだ。そこで冒頭の話に戻るわけだが、アルピーヌはパワートレインがなんであれ、この魅力の核心を維持し続けることができるだろうというおぼろげな期待が僕にはある。かつてジャガーにはフォードのアーキテクチャーを思慮なく与えられてもなお、FFでさえジャガー味にしてしまう強力無比な実験部隊がいた。それと同質の強靭さを今のアルピーヌの現場力には感じることができる。とはいえ、この尊い軽さが編み出した交点の妙が味わえるのは間違いなく今のうちだ。シャシオタの皆さまにおかれてはご検討のほど、謹んでご案内申し上げたい。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アルピーヌA110 GT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1120kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(221kW)/6300rpm
最大トルク:340N・m(34.6kgf・m)/2400rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後)235/40ZR18 95Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:14.1km/リッター(WLTCモード)
価格:893万円/テスト車=938万7500円
オプション装備:ボディーカラー<ブランイリゼM>(27万円)/18インチアロイホイール<Grand Prix>(10万円)/ブルーブレーキキャリパー(6万円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万7500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3910km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:423.8km
使用燃料:40.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.6km/リッター(満タン法)/8.7km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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