アルピーヌA110 Sアセンション(MR/7AT)
指折りの爽快感 2022.08.09 試乗記 車体前後に備わる大型のスポイラーが目を引く、「アルピーヌA110」の限定車「A110 Sアセンション」。サーキットでのパフォーマンスを追求し磨きがかけられたシャシーや空力性能、パワーアップしたエンジンが織りなす特別なモデルの走りやいかに。サーキットでのパフォーマンスを追求
日本のエンスーにも大好評をもって受け入れられているA110のマイナーチェンジは、テコ入れというより“微調整”といった印象の内容だ。内外デザインは基本的に変わっておらず、ホイールや内装素材の見直しにとどまる。機能的進化は、中央の7インチ画面がいわゆるディスプレイオーディオになった点だ。スマホを接続すればApple CarPlayもしくはAndroid Autoを走らせられるので、ナビにも困らなくなった。
新たなラインナップは3グレード構成。ベーシックな「A110」については従来の「ピュア」と「リネージ」の統合モデルというべき風情で、エンジン性能も従来どおりだが、制御は全面的にファインチューンされている。具体的には、スロットルや排気バルブ開閉タイミング、パワステとESCの制御、そして強化された変速機のプログラムや変速スピードの再調整で、ノーマルモードではより快適に、スポーツモードではより活発になったという。標準ホイールのフロント:7J/リア:8Jという幅は従来のリネージのそれに合わせられた。
今回の試乗車は“クローズドコースでのパフォーマンスを追求した”とうたうA110 Sベースの限定車、アセンションである。わずか30台の限定だったので、すでに入手は困難になっているようだが、カタログモデルにオプションをトッピングして、ごく近い内容に仕立てることが可能だ。
公式ウェブサイトのコンフィギュレーターでやりくりしてみると、A110 Sの本体価格897万円に、ブルーアルピーヌメタリック塗色が27万円、フックス製鍛造アロイホイール16万円、マイクロファイバーパック(オレンジステッチ付き)25万円、カーボンルーフ32万円、エアロキット78万円……で合計1075万円。限定車の1059万円よりは少しだけ割高で、厳密な“アテンション化”にはタイヤ交換も必要だが、カタログモデルをベースにほぼ同じクルマを手に入れることは不可能ではない。
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ヒラヒラしたさわやかな硬さ
運転席からながめるインテリアの基本造形はこれまでと変わりない。この種の本格派バケットシートのわりには乗降性が良好なサベルト製軽量シートの、ドンピシャのホールド性も今までどおり。ただ、本来オプションの「マイクロファイバーパック」が特別装備される試乗車では、スエード調のマイクロファイバーに覆われたダッシュボードがいかにもレーシーな雰囲気だ。さらに、ステアリングホイール、シート表皮、センターコンソールなど、ドライバーの手足が触れがちな部分がことごとくスエード調の仕立てになる点も、本格高性能スポーツカーのお約束である。
前記のとおり、クローズドサーキットでの走りを最優先したというA110 Sのフットワークは新たに「シャシースポール」という名称が与えられたものの、コイルスプリングのバネレートはフロント47N/mm、リア90N/mm、スタビライザーのバネレートは同25N/mm、同15N/mmで従来型と同じ。アテンションはそこにエアロパーツや鍛造ホイールに加えて、唯一オプションで用意されない「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」タイヤを履く(標準は同社の「パイロットスポーツ4」)。
街なかで乗り出した瞬間に感じるズンズンという突き上げは、そのシャシースポール以上にパイロットスポーツ カップ2の影響が大きそうだ。街なかでも驚くほどしなやかなA110本来の味わいとは少し異なるが、アシそのものは硬いながらも高精度かつ滑らかに動いている感は如実。しかも絶対的に車重が軽いので、その突き上げもあくまで骨の髄にまで響くような種類のものではない。ヒラヒラしたさわやかな硬さ……とでも表現すればいいだろうか。いずれにしても、クルマにとって、やはり軽さは正義だ。
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二面性のあるエンジンの味わい
一般道では路面不整や目地段差における上下動が少し気になるアセンションの乗り心地だが、高速道に乗り入れて車速が80km/h前後になると突き上げは明らかに減りはじめて、100km/hに達するころには見事なまでにフラットに落ち着く。さらに特別区間の120km/hともなると、低速で少し気になっていたワンダリングもおさまり、ビターッと直進するようになる。さすがに目地段差を乗り越える瞬間にはタイヤの硬さを感じさせるものの、速度が上がるにつれて、アシの硬さに起因するような上下動は明らかに減っていく。
これはおそらく、滑らかなサスペンション以上に、例のエアロキットの恩恵だろう。同キットはフロントで60kg、リアで81kgという追加のダウンフォースを生み出すそうで、フロントスプリッターとリアスポイラー、エクステンデッドアンダーパネルで構成される。とくに、いやが応でも目につくリアスポイラーがA110に似合うかどうかには賛否あろうが、それ自体は翼断面形状のマジモノであり、そのメリットは認めざるをえない。
従来のA110 Sでも高回転の伸びに感心させられた1.8リッター直4ターボは、強化型ギアボックスに合わせて、8PS/20N・mと最高出力と最大トルクが強化された。相変わらずヌケのいい快音はスポーツモード以上になると、さらに高らかになり、スロットルオフ時にはアンチラグ音の演出で気分を盛り上げる。
6800rpmまでトルクの落ち込みも感じさせずにスパッと回り切るトップエンド性能は健在だが、今回はさらに3000rpmくらいから十分に実効的なパンチ力を繰り出してくれるようになったのがうれしい。なので、山坂道ならあえて高めのギアを選んで3000~5000rpmあたりで流しても心地よく楽しめるし、スキを見て味わう6000rpm以上のトップエンドもたまらない。このクラスのスポーツエンジンとしては、絶対性能的にはさほど目立たないが、二面性のある味わいは、同エンジンの美点といっていい。
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心地よいオールラウンドスポーツカー
タイヤグリップが強力なので、ドライ路面なら操舵するだけでもターンインはそれなり鋭い。ただ、素のA110や「A110 GT」の柔らかな「シャシーアルピーヌ」のように、スロットルの微妙なオンオフだけでしなやかには荷重移動してくれない。よって、このシャシースポールを“らしく”走らせるには、ターンインではしっかりブレーキングをして、引き締まったフロントサスペンションを意識的に沈み込ませる必要がある。そうでないと、走行ペースが高まるにつれて、気持ちよくないアンダーステアが強まってしまうからだ。
シャシーアルピーヌが日常的なゆるい運転でもそれなりにスポーツカーらしさが味わえるのに対して、このシャシースポールはメリハリの効いた基本に忠実なスポーツドライビングを常に要求してくるところが、良くも悪くも特徴である。必然的にブレーキペダルを強く踏み込むシーンも増えるが、その踏んだ瞬間から真綿で締めるように利くブレーキ感覚と安定したブレーキング姿勢は文句なし。いずれにせよ、スポーツカーにどういう味わいを求めるかが、A110選びの分岐点になる。
このシャシースポールはクローズドコース優先をうたいつつも、一般の山坂道でも爽快な仕上がりなのは、現アルピーヌ=旧ルノー・スポールカーズの流儀である。あのニュル攻略スペシャルの「メガーヌR.S.トロフィーR」ですら、開発ドライバーのロラン・ウルゴン氏(A110の開発も担当)が「一般公道での走りも絶対にないがしろにしていません」と言い切っていたのを思い出す。
とにかくアルピーヌA110はどのグレードでどこを走っても、相応に心地よいオールラウンドスポーツカーである。そして、だれでもどこでも自分なりに留飲が下げられる走り(と分かりやすく魅力的なデザイン)は現行スポーツカー屈指であり、傑作の一台といってさしつかえない。そこは今回のマイナーチェンジでも、いささかもスポイルされていない。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アルピーヌA110 Sアセンション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4230×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1110kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(221kW)/6300rpm
最大トルク:340N・m(34.6kgf・m)/2400rpm
タイヤ:(前)215/40ZR18 89Y/(後)245/40ZR18 97Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:14.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1059万円/テスト車=1061万7500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(2万7500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3862km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:567.5km
使用燃料:56.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.0km/リッター(満タン法)/10.9km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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