ライバルの挑戦を受けて立つ! ランボルギーニが「ウルス ペルフォルマンテ」で仕掛けた新たな戦い
2022.08.20 デイリーコラムSUVから縁遠かったブランドほどうまくいく
ピュアなスポーツカーブランドがSUVの量産で会社としての体力をつけ、純増した莫大(ばくだい)な利益をもとに未来への投資を増やし、スポーツカーの地位を引き上げてブランドをいっそう強化する。
ポルシェが「カイエン」と「マカン」で生み出したビジネスモデルは、今や同門の他のハイエンドブランドのみならず、よそのメーカーにも波及している。それだけクロスオーバーカテゴリーが自動車の主流になったというわけで、日本の伝統的な高級車が大転換をアピールする事態も、むしろ当然の成り行きだったというほかない。
もっとも、注意深くその業績や販売台数の推移に注目すれば、SUVを出せばうまくいくというものではないことも分かる。SUVの位置づけは昔のセダンやエステート、ハッチバックの代わりであり、日本においてはミニバンと並ぶファミリーカーのリアルチョイスである。それゆえ、そういった既存のカテゴリーとブランド内で食い合うケースも少なくない。例えばジャガーやマセラティのような高級サルーンブランドにおいては、サルーンの販売台数をキープしながらSUVぶんを上乗せするという芸当は、甚だ難しいものだった。
対してランボルギーニのように、そもそも4ドアモデルを持たないブランドは強かった。SUVの台数をそのまま純増とし、ブランドの裾野が広がったぶん、上位をなすスーパーカーへの注目が高まり、そのイメージがさらにSUVへと跳ね返るというわけで、人気の好循環が生まれていた。この9月にSUVを発表するとみられるマラネッロの跳ね馬も、すでに大成功が約束されているといっていいだろう。既存のモデルの人気に悪い影響を及ぼす可能性はほとんどなく、それどころか裾野がいっそう広がって企業のあらゆる基盤が高度に安定し、頂上はさらなる高みへと昇り、人気がますます上向くからだ。
ライバルに先手を打つためのマイナーチェンジ
2017年に「ウルス」をデビューさせて以来、ランボルギーニの躍進には目を見張るものがあった。会社規模がすべての面(組織・生産・売り上げなど)で倍増し、アウディ傘下で始まった21世紀の“サンタガータ・ルネサンス”を完全に定着させた。ウルスの人気もとどまるところを知らずといった状況で、事実、マイナーチェンジがうわさされた今年になってからも、モデルライフ初期のようなスタンダード仕様(黄色に黒い内装、とか)のデリバリーを、ディーラーで目撃すること多数だった。
ウルスそのものは、返り咲いたCEO、ステファン・ヴィンケルマンの第1次政権下に計画されたもので、「ガヤルド」に始まるサンタガータ・ルネサンスもまた彼の陣頭指揮によるものだった。これから始まる第2の成長期においても、その成功は彼の双肩にかかっているといっていい。
すでにランボルギーニは、2022年5月に発表したロードマップ「Direzione Cor Tauri(コルタウリを目指せ)」において、今後10年についての大方の計画を明らかにしている。その骨子は、2023年に「アヴェンタドール」に代わるフラッグシップ(12気筒のプラグインハイブリッドモデル)を、以降2025年までに「ウラカン」に代わる量産プラグインハイブリッドスーパーカーを、そしてウルスのPHEVグレードを、さらに2028年ごろまでにフル電動の2+2 GTカーを、それぞれ発表するというものだ。それに先立ち、今やビジネスの大黒柱というべきウルスにも、2017年のデビュー以来初となるマイナーチェンジを実施。ハイエンドブランドによるスーパーSUV市場争奪戦において、機先を制する格好となった。
上級モデル「ペルフォルマンテ」の実力
モントレーカーウイークにおいて披露されたマイナーチェンジ版ウルス。まずは2つのグレードを用意したことがニュースだ。既存のスタンダード仕様の後継を担う「ウルスS」と、そして新たな高性能グレードとして「ウルス ペルフォルマンテ」が設定されたのだ。ペルフォルマンテというサブネームは、ランボルギーニのファンにはおなじみだろう。V10スーパーカーの高性能グレードとして過去に存在したからだ。
注目のエンジンスペックを拾ってみよう。すでに最高出力650PSを誇っていた4リッターV8ツインターボは、さらなるチューニングを受けて666PSへとパワーアップ。47kgの軽量化もあって、そのパワーウェイトレシオは(「アストンマーティンDBX707」にわずかに劣るものの)スーパーSUV屈指の3.2kg/PSを実現した。
加えて、エアロダイナミクスの向上やトレッドの拡張、新たなサスペンションシステム(固定スプリングと電子制御ダンパーにより車高は20mmダウンしている)と専用設計の「ピレリPゼロ」タイヤの採用などによって、スタンダードモデルを大幅に上回る総合パフォーマンスを手に入れているという。ちなみに、ドライブモードシステム「タンブロ」には、「コンフォート」「スポルト」「コルサ」に加えて新たに「ラリー」を設定した。組み合わされるトランスミッションは従来と同様に8段ATだ。
パイクスピークでSUVのレコードタイムを記録
発表にせんだって行われた、米コロラド・パイクスピークス(全長およそ20km、平均勾配7%のヒルクライムコース)でのテストでは、市販SUV部門で最速となる10分32秒064を記録(参照)。「ベントレー・ベンテイガ」が2018年に記録した10分49秒902を大幅に上回るタイムをたたき出している。ちなみに0-100km/h加速はスーパーカー級の3.3秒。最高速は306km/hだ。
前述したように、ウルス ペルフォルマンテは空力性能が大幅に引き上げられている。つまりスタイリングデザインでもその変化は明らかだ。冷却と空力を考慮した新たなフロントマスクはもちろんのこと、トレッド増に伴ってオーバーフェンダーも拡大。「Performante」ロゴの入ったサイドステップに、リアには新デザインのバンパー&ディフューザーが備わり、しかも「アヴェンタドールSVJ」からデザインモチーフを得たというウイングまで装備されている。エアアウトレットがひときわ目立つ新ボンネットフードを含め、これらの新たな要素はすべてカーボンファイバー製で、部分的にカーボン素材を露出させることも可能。またルーフパネルもオプションながらカーボンとすることができる。リアエンドパイプはアクラポヴィッチ製だ。
走りのパフォーマンスをいっそう重視したウルス ペルフォルマンテの登場は、激化するスーパーSUV界において、その先駆者の存在をあらためてアピールすることになりそうだ。
(文=西川 淳/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ/編集=堀田剛資)
◆関連ニュース:「ランボルギーニ・ウルス」に最高出力666PSの高性能モデル「ペルフォルマンテ」登場
◆ギャラリー:ランボルギーニ・ウルス ペルフォルマンテ
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。