200km先の100円ショップを案内された理由が判明! 実力検証「パイオニアNP1」【メーカーの言い分編】
2022.10.05 デイリーコラムもしかして怒ってます?
webCG編集部から電話がかかってきた。なんとなく、悪い予感。
「パイオニアに行ってお話を聞くことになりました。時間をあけておいてください♡」
恐ろしいことを平然と言う。今一番行きたくない場所である。8月に「パイオニアNP1」という製品を紹介したことを忘れたのか。2回に分けたうち1回目の記事【いいところ編】だけならば、感謝されたかもしれない。お借りしたNP1を使ってみたリポートである。「会話するドライビングパートナー」を名乗る世界初の「AI搭載通信型オールインワン車載器」は、音声による経路案内がよく考えられていて使い勝手がいい。視覚に頼る従来のカーナビの弱点を克服する画期的な設計思想を称賛した。
2回目は【イマイチなところ編】。使い込んでいくにつれて、いろいろと不測の事態が発生したことを正直に書いてしまった。そんたくなしに“不都合な真実”を暴露したので、パイオニアの社員はブチギレているに違いない。あんな記事を書いたライターには厳しい制裁を加えるべきだ、と怒髪天をつく怒りの声が沸騰している可能性がある。のこのこ顔を出したら、どんなひどい目に遭わされるだろう。
思い悩んでも仕方がない。覚悟を決めて、東京・文京区のパイオニア本社を訪れた。以前、この近くの会社に勤務していたことがあって土地勘があり、いざとなれば逃げ道を知っている。ビビりながらオフィスに入り、会議室へ。鉄格子はないから、監禁されるわけではなさそうだ。取材対応してくれるのは、NP事業本部の井上慎也さんと脇山亜希子さん。落ち着いた様子だが、マスクで表情は分からない。もしかすると、鬼の形相なのではないか。
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人力による地道な調査
「詳しい記事を書いていただいて、ありがとうございました。おかげさまで、話題になりましたよ。大バズりです」
驚いたことに、いきなり感謝の言葉をいただいた。徹夜で考えた言い訳を用意していたのだが、取りあえず一安心である。いいことでも悪いことでも、話題になることが大事だと話してくれた。NP1は新ジャンルの製品なので、まだ知名度は低い。存在を知られることがまずは最初のステップになる。パイオニアでは毎週月曜日にSNSでNP1がどのように取り上げられているかを調べているそうだ。製品にはAIが仕込まれているが、調査は人力で地道にやっている。
集計したものを見せてもらうと、前回の記事について多くの書き込みがある。「100円ショップを求めて200km!?」というタイトルだったので、「母をたずねて三千里かよ……」とちゃかすコメントもあった。面白がってはいるが、否定的な反応ではなかったということでポジティブにとらえているという。
パイオニア社内にはNP1に関するグループチャットがあり、もちろんwebCGの記事も議論のネタに。なんと、社長もメンバーのひとり。最高責任者にバレてしまった!
「記事に書かれていたことは以前にも問題になっていて、まだ直っていなかったのか、としかられました(笑)。エンジニアのやる気が出たというのは、いい効果だと思っています」
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店名かジャンルか
恐縮するばかりである。すぐに修正の指示が出たポイントがもう一つ。「ウェブシージーに行きたい」と言っても目的地に設定できなかったと書いたので、検索結果に表れるようにしようと試みたのだ。残念ながら、修正はまだできないとのこと。個別の変更でも全体に関わってくるケースがあるので、小手先でいじるのは難しいのだ。いらない手間をかけてしまったようで、ますます恐れ入る。
気を取り直して、“100円ショップ問題”が発生した原因について聞いてみた。東京都三鷹市で「100円ショップを探して」と音声検索をかけると、直線距離で131.7km離れた長野県上田市の店を案内されてしまった件である。近くにダイソーもキャンドゥもあるのに、3860円もの高速料金を払わなければならないルートを示したのはなぜなのか。
どうやら、NP1はカテゴリーと名称を混同してしまったらしい。検索結果として示されたのは「100円ショップシルクベルプラザ店」だった。NP1としては、名前にこだわって親切に探したつもりなのだろう。こちらは店名にはこだわらずに近くの100円ショップを探してほしいという意図だったのだが、NP1には伝わらなかった。
原因が分かったのであればすぐに修正できる! いや、そんな簡単な話ではなかった。人間とAIの間には、深くて暗い川がある。
(文=鈴木真人/写真=webCG/編集=藤沢 勝)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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