アナタはどこに注目する? 進化した「ダイハツ・タント」のライバルにはない特徴
2022.10.14 デイリーコラム国内屈指の人気ジャンル
今や、軽が国内の乗用車マーケットに占める比率は約4割に上り、そのおよそ半分がスーパーハイトワゴンだそうだ。統計がホントなら、日本で売れるクルマの2割は、このジャンルということになる。
嚆矢(こうし)となる初代「ダイハツ・タント」が登場した2003年当時、こんなタテヨコ比のおかしなクルマ(失礼!)が隆盛を極めようとは、一体誰が予想できたでしょう? 未来とはなにが起きるかわからんものである。しかし、後出しじゃんけん的にこの20余年を振り返りますと、それが自動車技術の進化やら生活様式の変化やらがもたらした、合理的な変革であることも理解できる。車内が広くて荷物が積めて、燃費がよくて税金も安い。ついでにリセールも盤石なのだ。見えだなんだを押しやれば、つくづく日本におけるクルマの最適解はこの辺なのではないかと思う。
さて、そんな軽スーパーハイトワゴンの元祖にして、今日における三強の一角を占めるダイハツ・タントが、このほどマイナーチェンジを受けた。既述のとおり、国内屈指の量販セグメントに属するモデルの改良であり、またダイハツには「ウチこそ本家」という自負もあるだろう。その内容は多岐にわたるうえ、面倒な箇所にも臆さず手を入れていて、要するに気合が入っていた。
その内容は2022年10月3日のニュースをご参照……と言いたいところだが、取材を通してプレスリリースにはないトピックもいくつか教えてもらえたので、ここではあらためてその中身を紹介したい。
弱点を克服し、新たなアドバンテージも獲得
なにはともあれタントは日常カーなので、まずはユーティリティーの話をしましょう。一部の読者からは「マイナーチェンジの目玉はそこじゃないでしょ!」と言われそうだが、これはワタクシの記事なのでね、あきらめてお付き合いください。
特に大きかったと個人的に思うのが、リアシートの構造を「ムーヴ キャンバス」のものに変更した点だ。これはリアシートを荷室側からスライド調整できるようにするためで、なんとシートを固定するフレーム部分もつくり直したそうな。機能面の改良とは、時に人知れないところで大手術を要するものなのだ。もっとも、「スズキ・スペーシア」「日産デイズ ルークス」などは以前からこれができていたわけで、このあたりはライバルをキャッチアップした部分ともいえる。
一方で、タント独自の工夫といえるのが「上下2段調節式デッキボード」の採用だ。恐らくは“あんちゃん号”こと「ウェイク」のアイデアを持ってきたものなのだろうが、これにより後席格納時に、フラットかつ水平な床面が得られるようになった。実用においてどれぐらい重宝するかは人それぞれだが、ライバルに対して明確な違いを示せたポイントなのは間違いない。
また乗車スペースに目をやると、従来型の特徴だった運転席の駐・停車時ロングスライド機構をオプション扱いとする一方で、同機構の非装着車には、前席のセンターアームレストに収納ボックスを追加。このあたりの設定変更は、マーケットの要望に応えての見直しとのことだった。
一方、ユーティリティー以外の点で筆者を「おお」と思わせたのが、「カスタム」のデザイン変更だ。従来型がカドの取れたやや控えめなイメージだったのに対し、改良型は「軽のカスタムっつったらこれでしょ!」的な、夜の繁華街的ワイルドネスを取り戻していたのだ! いかつい前後バンパーに、デコの突き出たボンネット、がっつりとしたメッキ装飾、キラッキラのヘッドランプ……。チーフエンジニアの秋本智行氏いわく「そういうのを狙ったわけではない」とのことだったが、筆者的には軽カスタムの非オラオラ化が進むなかで、ドヤ顔への回帰を果たした新タント カスタムに、ダイハツのロック魂を見た思いがした。
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ライバルとは確かに違うキャラクターに
とはいえやっぱり、今回のマイナーチェンジで一番のトピックは、アウトドアテイストのニューモデル「ファンクロス」が設定されたことでしょう。
海山のレジャーを楽しむ読者諸兄姉なら、その駐車場で軽スーパーハイトワゴンが存外に勢力を伸ばしているのはご存じのとおり。先述の秋本氏も、スキー場で見かけたタント&タントファミリーの姿……ミラクルオープンドアを使って、子どものウエア着用を手伝うお母さんの図……を例にとり、「タントとアウトドアの親和性は高い!」と語っていた。さすがの慧眼(けいがん)ではあるが、世のタントユーザーはとっくの昔にそんなこと気づいていましたって。待たせすぎやでダイハツはん!
そんなわけで、結果的に「スズキ・スペーシア ギア」に先を越されたところは残念だが、それだけに実車の完成度は確かに高そう(まだ試乗取材前なので断じは致しませんが)。特にデザインはよく練られた印象で、パキパキとした面構成のエクステリアや、オレンジのアクセントとカムフラージュ柄のシート表皮が目を引くインテリアなど、明らかにスズキ&三菱のライバルとは異なるテイストで仕上げられていた。このイメージは軽クロスオーバー「タフト」にも通じるところがあり、ダイハツは明らかに、このデザインテーマに手ごたえを感じているのだろう。
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自分の使い方を考えてクルマ選びを
一方で、レジャーカーとしてのユーティリティーに関しては、ライバルと甲乙つけがたしというのが率直な印象だった。
シートや荷室がはっ水仕様となっているのは、どのモデルも基本的に同じ。USBにこだわらなければ、リアシート/荷室用電源はスペーシア ギアにも付いている。タントに天井サーキュレーターの装備がないのは残念だが、こちらには唯一無二のミラクルオープンドアがある。荷室アレンジのアドバンテージはすでに述べたとおりで、かつ荷室照明(しかも2個!)も備わっているが、例えばライバルのスペーシアには「いざとなれば助手席も倒して長尺モノが載せられる。足を伸ばして車中泊できる」という利点があり、またカスタマイズ派の大好物、ユーティリティーナットも4カ所に設けられている。要するに、どのクルマにもそれぞれのよさがあるのだ。
気になった人はズボラしないで、ちゃんとダイハツ、スズキ、三菱のショールームを巡って(レジャー系にこだわらない人はホンダ&日産もね)、実車を見るのをおススメします。
……以上が、タントのマイナーチェンジの、筆者が独断と偏見でピックアップした主な要点である。現行タントはデビューしてまだ3年。しかもDNGA世代の第1号ということもあり、動的な部分は今もフレッシュ。ゆえに制御の見直しによる燃費の改善以外、手を加えたりはしなかったとのことだ。また標準車のデザインについては、ボディーカラーの設定以外に手をつけていない一方で、カスタムはグラフィック的な箇所だけでなくフタもの(=ボンネット)の形状まで変えてきた。先述のファンクロスの追加ともども、今回のマイナーチェンジは取捨選択とリソースの集中が顕著だった印象がある。
そんなわけで、本当は急アクセル抑制機能など新しい予防安全装備の導入にも期待していたのだが、そのあたりは次回以降に持ち越し。今後の展開を、気長に追いかけたい。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。