日産エクストレイルG e-4ORCE(4WD)
自信の直球勝負 2022.10.21 試乗記 新型「日産エクストレイル」はパワートレインにシャシー、さらには先進運転システムなどもすべて刷新したばかりでなく、細部の使い勝手にまで配慮の行き届いた力作だ。当たり前のことだが、売れるクルマには技術もコストもたっぷりと注ぎ込まれている。世界でも屈指の1.5リッターエンジン
日本で販売される新型エクストレイルの心臓部は、ご承知のように、新開発の1.5リッター3気筒ターボエンジンを源流としてモーターで駆動するシリーズハイブリッド「e-POWER」である。で、その新しい1.5リッターターボとは、日産独自の可変圧縮比(VCR)機構とターボチャージャーを組み合わせたもの(以下、VCT)だ。海外向けもこの1.5リッターVCTが主力で、e-POWERだけでなく、CVTを組み合わせた純エンジン仕様や、さらにマイルドハイブリッド付きの仕様が用意される国もある。
VCTは、低中負荷時には“高圧縮比+低過給圧”のいわゆる高効率なロープレッシャーターボエンジンとして作動するいっぽうで、高負荷時には“低圧縮比+高過給圧”のパワー志向のターボエンジンへと自在に性格を変えることができる。早い話が、高効率・低燃費と高出力を両立できるのが自慢だ。日本仕様のe-POWER向けは最高出力144PS、最大トルク250N・mだが、北米向け純エンジンモデルではそれが200PS超、300N・m超にまで引き上げられており、これは1.5リッターとしては世界屈指の高性能といっていい。
純モーター駆動のe-POWERといっても、そこに電力を供給するのはあくまでエンジンであって、プラグインでもないので何kmも走れる容量の電池を積むわけでもない。高負荷走行ではおのずと自転車操業状態になるわけで、やはりエンジンの地力がものをいう。
さらに、全域で大きいトルクを出せるVCTは、e-POWERのようなシリーズハイブリッドとの相性もいい。加速時などは速度に比例して、低回転からしっかり発電しながら回転数を上昇させられるからだ。速度よりエンジン回転が先に上昇する“ラバーバンドフィール”を回避できる。新型エクストレイル(と、そのきょうだい車の「キャシュカイ」)はラバーバンドフィールを徹底的に嫌う欧州で初導入されるe-POWERでもあるから、その点でもVCTは大きな武器になるという。
ひたすら静か
……といった面倒な事前知識は横においても、新型エクストレイルのパワートレインはなかなか見事なデキである。効率だけを考えれば、必要に応じてエンジンも駆動に直接参加する(トヨタ式に代表される)シリーズパラレルハイブリッドのほうが有利といわれる。しかし、この雑味のまったくない、シリーズハイブリッドならではのパワーフィールは素直に心地よい。
しかも、新型エクストレイルはとても静かなクルマでもある。それはe-POWERならではの滑らかさに加えて、パワフルなVCTを生かした制御によるところも大きい。発進時は基本的にエンジンが作動せず、ロードノイズが高まるかな……というタイミングで、ステルス的にエンジンをかけるのは「ノート」でもおなじみの作法だ。また、エンジンが回っていても、前記のように低速時は回転も低い。回転の上下も速度とリンクすることが多く、エンジン音だけが不自然に耳に届くことがほとんどない。
まあ、充電状態や空調の関係で停車時にエンジンが始動するケースもあり、耳をすませば“ビイーン”という3気筒特有のノイズが遠くから聞こえなくはない。しかし、そういう場合にも人間の体に伝わるような振動は感じ取れない。新型エクストレイルはやはり根本的に静かなクルマであることを痛感する。
新型エクストレイルは遮音・吸音対策がこれまでにないほど徹底しているのに加えて、VCTのメリットはここにもあるそうだ。クランクシャフトにリンク機構をもつので、燃焼行程でコンロッドがほぼ真っすぐ下に伸びてピストンの横ブレが少なくなるのに加えて、リンク類が振動を打ち消して、結果的にエンジンそのものの振動も少なくなっている。どことなくV6のような音質に感じられるのも、VCR機構による慣性力の変化によるものだそうだ。
ワンペダルドライブは実用性重視に
日本で販売される新型エクストレイルでは、フロントモーターのみのFFと、前後にモーターを置く4WD(商品名は「e-4ORCE」)が選べる。今回の試乗車は後者のe-4ORCEだった。
日産主導で開発された「CMF-C/D」プラットフォームを土台とした基本骨格は、いかにも剛性感が高い。今回の試乗車は低偏平19インチのハンコックタイヤを履いていた。目地段差などではときおり強めの突き上げを感じることもあるし、操舵反応にも少し唐突な傾向はあるが、車体自体はしっかりとしていて、直進性も高い。低級音もまったく発しない。ちなみに日本で販売される新型エクストレイルのタイヤは、ひとまずサイズによって銘柄が統一されているという。19インチは前記のとおりハンコックで、18インチはファルケン、「AUTECH」の20インチはミシュランになる。
今回の試乗車は低偏平19インチタイヤに起因すると思われるクセを少しばかり感じさせつつも、走行姿勢そのものはぴたりとフラットに安定している。それには優れたサスペンションのジオメトリー設計およびフリクションの少なさとともに、リアモーターの回生ブレーキを利用したピッチング制御の効果もあるとか。
以前は「S」モードや「ECO」モードで作動していたワンペダルドライブ的な機能は、「アリア」や「サクラ」、そして新型エクストレイルなどでは、独立したボタンで作動させる「e-Pedal」に切り替わった。スロットルオフから実際の減速が始まるまでに意図的な“間”が設けられるのもe-Pedalの特徴で、より素早い減速がほしいならシフトセレクターの「B」レンジを組み合わせるといい。それでも、以前のように右足に吸いつくような加減速でなくなったことに不満をもつエンスーは多いかもしれない。ただ、そうしたワンペダル制御はわずらわしいことも多く、良くも悪くも“減速強めモード”にとどまる今のe-Pedalのほうが日常的に使いやすいと思う一般ドライバーは多いだろう。
主駆動輪はあくまでフロント
e-4ORCEの前後モーターは前記のようなピッチング制御だけでなく、状況に応じてとても細やかに制御されているはずだが、メーター上のエネルギーモニターには“今この瞬間はFFか4WDか”くらいしか表示されない。ただ、「オート」「エコ」「スポーツ」といった日常の舗装路向けのモードだと、アクセルを踏んでいれば基本的に4WDで、低負荷のアクセル一定走行時などにFFになっているようだ。開発担当氏も新型エクストレイルの4WD制御は「バリエーションのなかにFFがあることもあり、4WDでも主駆動輪はフロントという考え」と語る。実際、モーターの最高出力はフロントが204PS、リアが136PSとフロントのほうがパワフルだ。
これが4WDに社運を賭けている(?)スバルや三菱になると、例えば「ソルテラ」の4WDは前後に同出力のモーターを配しているし、「アウトランダー」はリアにより強力なモーターを置く。どちらにしても、駆動力配分でクルマを積極的に旋回させようとする思想がうかがえる。
考えてみれば、第2世代「スカイラインGT-R」や歴代エクストレイルの「オールモード4×4」などの例を出すまでもなく、日産も4WD技術にはそれ相応の歴史をもつメーカーだ。新しいe-4ORCEもいろいろな可能性を秘めた技術というが、少なくとも今回はこれ見よがしの制御はしていない。実際の新型エクストレイルも、いつでもどこでもFFっぽいアンダーステアのまま安定してシレッと曲がるだけだ。スバルや三菱と比較すると面白みは薄いが、4WDの存在を意識させないまま安定して走るということは、それだけ総合的な能力が高いことの証左でもある。
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明確な弱点が見当たらない
新型エクストレイルはプラットフォームをゼロから刷新しつつも、ホイールベースは先代と変わらず、全幅こそ20mm拡大したが、全長と全高は逆に20~30mm縮小した。つまり、サイズ感はほぼ変わっていない。
また、先代のモデル末期である2020年にも、新しい「CX-5」や「フォレスター」とは国内年間販売台数で2割程度の差しかなかった。つまり、先代も最後まで安定して売れた。聞けば、フルモデルチェンジの有無にかまわず、エクストレイルを定期的に乗り換えるファンも少なくないとか。20年以上も国内ベストセラーSUVの一角に居座り続けているエクストレイルは、ド定番商品として多くの固定ファンを抱える。
ゆえに、新型エクストレイルは細部のつくりまでなんとも手堅い。外寸はほぼそのままに後席や荷室の空間は拡大しているし、エクストレイルとしては初めて、乗降時に服が汚れにくいようサイドシルやリアホイールアーチをカバーするドア構造となった。荷室には時代の空気を読んで1500Wの100V給電が用意(2列シート車のみ)されて、「プロパイロット」はノートやアリアに続いて高精度3D地図データを使う「ナビリンク機能付き」になり、車線トレースの精度が飛躍的に高まった。
クルマ本体のデキもしかり。先述のように新機軸がテンコ盛りで、エクステリアデザインも新鮮だが、その仕立てや調律はあくまで正攻法。「質感と静粛性」という今回の開発テーマを冷静かつ真面目に突き詰めたことは、実車に乗ればすぐに分かる。
エクストレイルは、台数的には「セントラ/シルフィ」や「アルティマ」といった北米や中国で人気の国際派セダンとならぶ、日産屈指のグローバル商品である。しかも、販売市場の数ではエクストレイルが圧勝。であれば、今回の開発にかけられるコストは必然的に厚くなり、このように奇をてらわずオーソドックスなのに日産の最新技術が詰まったクルマができあがる。新型エクストレイルは最近の日産にはめずらしく(?)、明確な弱点がほとんど見当たらない。唯一、あえて指摘するとすれば、燃費だけは宿敵「RAV4」の2.5リッターハイブリッドにいまだ明らかにゆずることだろう。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
日産エクストレイルG e-4ORCE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4660×1840×1720mm
ホイールベース:2705mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:144PS(106kW)/4400-5000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/2400-4000rpm
フロントモーター最高出力:204PS(150kW)/4501-7422rpm
フロントモーター最大トルク:330N・m(33.7kgf・m)/0-3505rpm
リアモーター最高出力:136PS(100kW)/4897-9504rpm
リアモーター最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/0-4897rpm
タイヤ:(前)235/55R19 101V/(後)235/55R19 101V(ハンコック・ヴェンタスS1 evo3 SUV)
燃費:18.4km/リッター(WLTCモード)
価格:449万9000円/テスト車=511万5835円
オプション装備:特別塗装色<カーディナルレッド>(4万4000円)/アダプティブLEDヘッドライトシステム<オートレベライザー付き>(1万1000円)/クリアビューパッケージ<リアLEDフォグランプ>(2万7500円)/ナッパレザーシート<抗菌仕様>(8万8000円)/BOSEプレミアムサウンドシステム<9スピーカー>+ルーフレール+パノラミックガラスルーフ<電動チルト&スライド、電動格納シェード付き>(29万7000円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(7万9800円)/ウィンドウはっ水 12カ月<フロントウィンドウプラスフロントドア>(1万1935円)/ラゲッジトレイ(1万7800円)/デュアルカーペット(3万9800円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2433km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:296.9km
使用燃料:20.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.4km/リッター(車載燃費計計測値)/14.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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