日産セレナ ハイウェイスター(FF/CVT)【試乗記】
これからの「ミニバン」の話をしよう 2011.02.07 試乗記 日産セレナ ハイウェイスター(FF/CVT)……318万6750円
4代目に進化した「日産セレナ」に試乗。燃費性能や快適性に磨きをかけたという、最新ミニバンの仕上がり具合を確かめた。
堅実な需要アリ
この間「トヨタ・ラクティス」の記事を書いたときに、ガッキーの「家族でコンパクトカー。これって、アリ?」という問いに、「うん、アリだね」と答えてしまった。それは取りも直さず「ミニバンじゃなくたっていいじゃん!」という意味になるから、今回取り上げる「日産セレナ」にとっては厳しい話になる。とはいえ、5ナンバーミニバンというジャンルは今も堅実な需要があって、セレナは安定して年間8万台ほどの販売数を維持している。「3年連続ミニバン売上No.1」だが、ライバルたる「トヨタ・ノア/ヴォクシー」の合計数には及ばない。5ナンバーミニバンと書いたが、今回乗った「ハイウェイスター」はエアロパーツを付加したことでボディサイズが拡大し、3ナンバーとなる。マツダから日産にOEM提供されることになった「プレマシー」との位置関係は微妙だ。
両側スライドドアがウリだったのは、遠い昔の話。そういった劇的な変化をする余地はもう残っていないから、細部の「さらなる進化」がアピール点になる。ボディの大きさはほとんど変えられない中で、室内の広さをギリギリまで拡大。シートアレンジにも新たなアイデアを加えて、使い勝手も向上させる。そして、もっとも変化を見せやすいのがエコ性能だ。この分野は未開拓地も多く残っているから、新機軸を打ち出しやすい。
大手町近くでクルマを受け取ったので、箱根駅伝のコースをたどってみることにした。さすがにずっと下道で行くのはツライので、途中まで高速道路で移動し、実際のコースを走ったのは山登りの5区だけなのだが。運転席に座ると、メーターパネルのこぢんまりとしたたたずまいに気づいた。小さく平べったい形状は、存在感を強く主張してこない。速度やエンジン回転数ももちろん表示されるが、ディスプレイの中でわかりやすく示されるのはエコ関係の情報だ。その名も、「エコドライブナビゲーター」という。エコ運転しているかどうかが常に色によって示され、瞬間燃費や平均燃費もわかる。アイドリングストップと連携した機能もあって、運転中のエンジン停止の時間、そしてどれだけガソリンを節約できたかが数値で示される。
右車線でもエコ運転
エンジンは2リッターのみが用意され、組み合わされるトランスミッションもCVT一本というシンプルな構成だ。直噴化や吸排気両方のバルブタイミング機構の採用でパワー・トルクともに向上しているが、1.6トンの車体に147psの最高出力だから、いわゆる「必要にして十分」という形容がふさわしい。街中を流す分には不自由を感じず、高速道路の料金所ダッシュでは少し力不足をかこつ。
首都高3号線の段差の多い路面では、ちょっとバタつきが気になった。今回は1人乗車だったため、乗り心地では不利な条件になる。このクルマが標準として想定する4人乗車ならば、感想は変わってくるはずだ。東名高速では快適にクルージング。流れに乗って走っていると、エコドライブナビゲーターは常にグリーンで表示されている。右車線をキープしていても、日本の交通事情ではエコ運転の範囲にとどまっていられるのだ。
高速を降りて、小田原から国道1号線を行く。湯本を越えると山道に入り、曲がりくねった急な勾配が始まる。Aピラーは視認性に配慮して二本に分ける工夫がなされているのだが、実際にはカーブで斜め前方を確認するのに体を動かさなければならないこともあった。角度が寝ていることによる視界の制限は、完全に解消されているわけではない。
箱根旧道は呆れるほどの険しい上り坂で、駅伝でランナーが目覚ましいスピードで駆け上っていったことが信じられない。でも、自動車は東洋大学の柏原選手よりはるかに速く急坂を進んでいく。運転者には何の苦労もない。そのことへの驚きと感謝の念を、たまには思い返してみてもいいと思う。
337mlのガソリンを節約
朝吹真理子の芥川賞受賞作『きことわ』は、「シトロエンDS」に4人が乗って渋滞にハマるシーンから始まる。狭い室内での息遣いが聞こえそうな描写が印象的だったが、今の日本のミニバンはそういう親密空間とは一線を画す。2列目、3列目にも座ってみたが、広さに関しては申し分ない。足は伸ばせるし、頭の上は広々だ。先代よりも広くなったらしいが、正直言ってこのレベルに達するともう違いはよくわからない。
広いことに加え、シートアレンジは14種も用意されている。マウンテンバイクを4台積んだり、サーフボードをまるごと飲み込んだりというモードがあり、子供たちが2列目3列目を行ったり来たりできる配置も可能だ。フラットモードは、人気の車中泊に使えるかもしれない。
「トヨタ・ヴィッツ」の試乗会で、「ラクティス」との住み分けをどう考えるのかと開発エンジニアに聞いてみた。答えは明確で、ヴィッツは夫婦2人、ラクティスは子供が加わって3人家族、そして4人以上ならば「ノア/ヴォクシー」というものだった。かつて、ほとんど遭遇する機会のなさそうな状況での便利さのために、誰もがミニバンを選んでいた時期があった。時を経て、今の消費者はシビアに実用性と価格を検討してクルマを選ぶようになったのかもしれない。
合計700キロ弱を走って、燃費はリッター11kmほどだった。高速道路の使用が過半だったとはいえ、なかなかの数値である。アイドリングストップしていた時間はトータル31分で、337mlのガソリンが節約できた。少量ではあるけれど、無駄遣いをなくすのに越したことはない。ECOモーターと称するオルタネーターを使った再始動はスムーズで、煩わしいと感じる瞬間は皆無だった。常時かみ合い式を採用したヴィッツの0.35秒に対してこちらは0.3秒とわずかに上回るが、実感としてはどちらもよくできてるな、というものだった。シートアレンジのバリエーションはそろそろ限界だろうから、こういうところにどんどん技術開発の資源をつぎ込んでほしいと思う。使う側の意識も、徐々にそちらに向いてきているはずである。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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