【F1 2022】第20戦メキシコシティGP続報:年間最多勝に最多得点、フェルスタッペンの快進撃は続く
2022.10.31 自動車ニュース![]() |
2022年10月30日、メキシコのアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスで行われたF1世界選手権第20戦メキシコシティGP。マックス・フェルスタッペン&レッドブルに勝負を仕掛けたのはメルセデス。タイヤ戦略で今季初優勝を狙ったが、チャンピオンの速さには歯が立たなかった。
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レッドブルへの罰則は重いか軽いか
700万ドル(約10億円)の罰金と、空力テスト時間の10%削減──メキシコシティGPウイークの金曜日、FIA(国際自動車連盟)は、2021年シーズンの予算制限(コストキャップ)で「軽微な支出超過違反」があったレッドブルへの罰則を公表した。
史上初の試みであるコストキャップでの初めての超過違反、さらに昨季メルセデスと熾烈(しれつ)なタイトル争いを繰り広げた強豪レッドブルということもあり注目が集まったペナルティーは、ポイント剝奪など昨季のリザルトが変わることはなく、財政的な負担として罰金を科し、さらに12カ月の開発上のハンディを負わせるということで決着した。
FIAの指摘を認め、ペナルティーを受けることを決めたレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、「とても厳しいものだ」と硬い表情。罰金は文字どおり“カネで済むこと”として片づけられても、来季の空力開発が制限されることは、今後のマシン開発に影響を及ぼすからだ。
もともとルール上は、選手権の順位に従って空力開発に制限が加えられることになっており、前戦アメリカGPでコンストラクターズチャンピオンとなったレッドブルは、ランキング7位のチームに許される70%の開発時間しか与えられないことになっていた。今回のペナルティーでさらにその10%減、つまり63%にまで抑えられることになり、ランキング2位の75%、3位80%と比べても大きく下回ることになった。
今回の超過は予算総額の1.6%に相当し、従業員の社会保障やパワーユニット使用料など、13の項目で計上漏れがあったとされる。FIAは、この違反がレッドブルの不誠実や不正、詐欺行為のようなものではないとしており、要は解釈の違いによる計上ミスという見方ができるのだが、生き馬の目を抜くような厳しい競争にさらされるF1にあって、ライバルがこの罰則に納得しているかどうかは別問題。フェラーリのレースディレクター、ローラン・メキースは「違反は重大なものだったが、このペナルティーの影響は限定的」と、マラネロが今回の罰則に満足していない立場を示し、またマクラーレンのアンドレアス・ザイドル代表も「不十分」との見解を語っていた。
この罰則が重いのか、軽いのかの判断には、歴史の浅いコストキャップルールを、より長い目で見て検証していく必要がありそうである。
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フェルスタッペン対メルセデスのポール争いは王者に軍配
メキシコのエルマノス・ロドリゲスは極めてユニークなサーキットだ。標高2300mという高地にあることから空気が薄く、平地に比べパワーユニットの出力もダウンフォースも激減。同時に冷却効果も落ちる。また空気抵抗も減るためストレートスピードは伸びるが、大きなウイングで下に押しつけても十分なグリップが得づらく、ブレーキングも難しい。
そんな特殊なコースで覚醒したのがメルセデスだった。ドラッグが大きくストレートが遅いとされてきた今季型マシンで、3回目のプラクティスでは1-2、その後の予選ではポールポジションを争うほどの速さを見せた。
しかしチャンピオンの速さにはかなわず、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが今季6回目、通算19回目のポール奪取に成功。メルセデスはジョージ・ラッセルが最後のアタックでトラックリミットを越えてしまい0.304秒差で予選2位、ルイス・ハミルトンもチームメイトから 0.005秒遅れの3位だった。
母国ファンの大声援を受けたレッドブルのセルジオ・ペレスは、電気系のトラブルでDRSが動かない、インストゥルメントパネルがつかないという不利な状況に陥るもなんとか4位。フェラーリは苦しい戦いをしいられ、カルロス・サインツJr.が5位、ドライバビリティーに難があったと語ったシャルル・ルクレールは7位と振るわなかった。
その一方、アルファ・ロメオはマシンアップデートが奏功しバルテリ・ボッタスが6位と健闘。マクラーレンのランド・ノリス8位の後ろには、フェルナンド・アロンソ9位、エステバン・オコン10位とアルピーヌ勢がつけた。
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メルセデスが異なるタイヤ戦略でレッドブルに勝負
2015年にカレンダーに復活して以来、メキシコではポールからの勝率が低いばかりか、過去4回のレースでポールシッターは表彰台にすらのぼっていなかったのだが、そんな過去のジンクスも、今年のフェルスタッペンには通用しなかった。
レッドブルが選んだスタートタイヤはソフト、対するメルセデスはミディアムを履いてスターティンググリッドについた。71周のレースが始まると、フェルスタッペンが順当にトップを守り、ハミルトンが2位、そしてペレスは3位に上がる一方、ラッセルは4位に落ちた。
ソフトとミディアム、異なるタイヤによるトップ争いの序盤戦では、速いが長持ちしないソフトを履くフェルスタッペンが最大2.5秒までリードを広げるも、20周を過ぎる頃から徐々にペースが伸び悩み始めたことでレッドブルが先に動いた。24周目、まず3位ペレスをピットに呼び、ソフトからミディアムに交換すると、その2周後に首位フェルスタッペンにもミディアムを与えコースに戻した。
これでハミルトン、ラッセルの順でメルセデスが1-2。ミディアムタイヤで第1スティントを長く走りソフトにつなぐという作戦も考えられ、実際ラッセルも無線でチームにそう提案していたのだが、メルセデスが選択したのは「長持ちのハードに替えて、最後まで走り切る」。ハミルトンは30周目、ラッセルも35周目にハードに換装し、これで1位フェルスタッペン、6.9秒差で2位ハミルトン、1.4秒の間隔で3位ペレス、そして4位ラッセルというオーダーのまま、第2スティントに突入していくのだった。
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フェルスタッペンは年間最多勝&最多ポイント記録を更新
「レッドブルの履くミディアムは、レース終盤になってペースが落ちてくるだろう」というメルセデス陣営の読みは、今季圧倒的な強さを誇ってきたレッドブルとフェルスタッペンをすれば甘かったと言わざるを得ない。
残り15周、トップのフェルスタッペンと2位ハミルトンとの差は12秒にまで拡大し、そのギャップは縮まる気配を見せない。逆にハミルトンは、1.2秒後方の3位ペレスに気をつけなければならず、メルセデスのもくろみは脆(もろ)くも崩れた。
真っ先にチェッカードフラッグをくぐり抜けたフェルスタッペンは、今季20戦して14勝目をマークしたことになり、2004年のフェラーリ黄金期にミハエル・シューマッハーが、また2013年にレッドブルで破竹の4連覇を達成したセバスチャン・ベッテルがそれぞれ記録した、年間最多13勝を上回るレコードを樹立した。さらに今季稼いだポイントは416点となり、ハミルトンが2019年に集めた413点を超えて、シーズン中の最多ポイント記録をも更新した。
メキシコで最多4勝目を飾ったフェルスタッペンは同地で2連勝。2位ハミルトン、3位ペレスと昨季と同じポディウムの順位となったばかりか、トップ3台のタイム差も、またフェラーリが5-6で終わったことも、1年前とほぼ同じという結果に終わった。
「レッドブルは速すぎた」とはレース後のハミルトンの弁。たしかに今年のチャンピオンは無敵で、メルセデスのハードタイヤに賭けた作戦は失敗に終わったものの、シーズン序盤の絶望的な遅さに比べ見違えるような速さを示したシルバーアローには、明るい材料を残したレースだった。
今シーズンは残り2戦。次の第21戦サンパウロGP決勝は、11月13日に行われる。
(文=bg)