アウディRS 3セダン(4WD/7AT)
スーパー万能カー 2022.12.07 試乗記 2033年までにエンジン搭載車の生産を終了すると発表しているアウディのハードコアスポーツモデル「RS 3セダン」に試乗。アウディが長年にわたりこだわり続け磨き上げてきた、直列5気筒エンジンの集大成たるそのパフォーマンスやいかに。生粋のスポーツモデル
多くのランニングコンポーネンツをフォルクスワーゲン車と共有することで開発の効率を高めながら、それよりもワンランク上級という立ち位置を意識するアウディのエントリーモデルとして、初代「A3」が誕生したのは1996年。そして、その高性能版として2003年に2代目となったA3をベースに生み出されたのが初代「RS 3」だ。手がけたのはアウディの子会社で特別なハイパフォーマンスモデルの開発を担う、現在ではアウディスポーツ社に改称を行った当時のクワトロ社。初めて公開されたのは2011年春のジュネーブモーターショーの場だったから、すでに10年以上の歴史を持つことになる。
実は初代のRS 3は日本への正式導入が行われず、初上陸したRS 3は2015年にセダンボディーを加えてローンチされた2代目モデルだった。2.5リッターの直列5気筒ターボ付き直噴エンジンに7段DCTを組み合わせ、4輪を駆動するというスペックは初代のそれを受け継いだが、最高出力は340PSから367PSへと向上。当然動力性能も高まり、初代の4.6秒と発表されていた0-100km/h加速タイムは4.3秒へと短縮された。
内外装にも専用のドレスアップが施され、さりげなく広げられた前後のフェンダーやシングルフレーム内のハニカムメッシュ、シルバーステッチが施されたナッパレザー採用のスポーツシートやピアノブラックまたはアルミ調の加飾パネルなどが、それまでのA3ファミリーで最上級のスポーツモデルとして設定されていた「S3」ともさらに一線を画す、より本格的で生粋のスポーツモデルたるポジションを示した。ただ、それでもいわゆる“羊の皮をかぶったオオカミ”と言うべきか“能あるタカは爪を隠す”と言うべきか、パッと見での印象は「ちょっとスポーティーに装ったA3」といった程度の仕上がりだった。
ところが、ちょっとした奥ゆかしさが感じられたそんな初期のRS 3に比べると、どこか吹っ切れたようなハードボイルドさも感じられるのが今回紹介する最新のRS 3である。2026年以降に発売するニューモデルはピュアEVのみとなり、2033年までにエンジン搭載車の生産を段階的に終了するなどと、フォルクスワーゲングループのなかにあっても“電動化の急先鋒(せんぽう)”と紹介できるアウディの作品だけに、純エンジンを搭載したモデルとしては“最後のRS 3”となる可能性が限りなく高そうである。
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タダモノではないルックス
ベースのA3が2020年に4代目にフルモデルチェンジしたことを受け、こちらも新世代モデルへと移行したのがこのRS 3だ。RSの記号が与えられるアウディ車のなかではエントリーモデルに位置し、「スポーツバック」を名乗る5ドアハッチバックと4ドアセダンの2種類のボディーを用意するというのは、従来同様の展開になる。
ちなみに、そんな従来型のRS 3は日本で2017年6月に発売された後、わずか1年余りという段階で販売をいったん終了。さらにそこから2年ほどが経過したタイミングで、装備を充実させながら再度発売されるというちょっと複雑な経緯をたどっている。
それゆえ、この2度目の発売をスタートと受け取ってしまうと、今回の新型導入までが異常に短期間であったようにも感じられる。とはいえこの最新RS 3についても、前述のように急進的に電動化へと向かう今となっては、いつ「販売終了!」というアナウンスが流れるのか、ちょっと予断を許さないというのが今の時代の空気感でもある。
だからこそ、と言うべきか、今度のRS 3はもはややれることはすべてやり切った! という雰囲気が漂うというのは、先に少し触れたとおりの印象。
今回のテスト車が「キャラミグリーン」と呼ばれる派手なエクステリアカラーであったことも多分に影響していそうではあるものの、ハイグロスブラックのハニカムデザインを組み合わせた「シングルフレームグリル」の顔つきは、歴代のRS 3のなかにあっても最も押し出し感の強い仕上がりだし、フロントのホイールアーチ後方にエアアウトレットが新設されハイグロスブラックのロアスカートが備わるサイドビューも、やはり歴代のモデル中で最もダイナミックだ。
端的に言って、誰がどのアングルから目にしても「これはタダモノではないな」とそんなイメージを抱くに違いないたたずまいである。
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加速性能はスーパーカー級
しかし、そんな吹っ切れたクルマづくりの印象というのは、実は見た目にはとどまらず、メカニズム面にまで及んでいる。まずスペックを追っている段階で目を引くのが、前後で異サイズとなるタイヤの存在。それもフロントが265/30ZR19、リアが245/35ZR19と、なんと前輪側のほうが明確に太いというまさにおきて破り(?)の設定がなされている。
恐らくは、RS 3のアイデンティティーでもあるターボ付きの直列5気筒エンジンを含んだパワーパックを横置きでオーバーハングに押し込んだことによる、フロントヘビーがもたらすアンダーステアを嫌った結果のチューニングだろう……と、ここまでは誰もが想像できそうなシナリオだ。しかし、このモデルにはさらに「RSトルクスプリッター」という電子制御式湿式多板クラッチを用いた左右輪間の伝達トルクを自在に可変配分するベクタリングシステムがリアアクスルに標準採用されている。それはクルージング時にはクラッチを開放することで前2輪のみの駆動として燃費の向上を目指す一方、逆に完全な後2輪駆動を実現させるいわゆる“ドリフトモード”も備えるなど、走りの自由度を大きく高める役割を担っていることで注目される。
足まわり関係も、A3比で25mmのローダウンを行うとともに前後でネガティブキャンバー量を増し、フロントのトレッドを33mm拡大させるなど専用のセッティングを採用。さらにセミスリックタイヤを初めてオプション設定している。やはり歴代モデル中で最も吹っ切れた存在であることは間違いない。
しかもこのRS 3は、0-100km/h加速を初代モデルよりも0.8秒も速いわずか3.8秒というスーパーカー級のタイムでクリアし、ニュルブルクリンクの北コースを「コンパクトクラス最速」(当時)の7分40秒748でラップしたと誇らしげにアピールする。
こう見てくると、やはりこのモデルはもはやなりふり構わない勢いで、“RS 3の集大成”を目指してつくられてきたと思えるのだ。
今回のテスト車は全長が15cm長いにもかかわらず、カタログ上ではアウディが「スポーツバック」と呼ぶハッチバックボディーと同じちょうど1.6tという重量を表示するセダンのほうである。
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“走り”のコレクターズカー
前述のように派手なボディーカラーに低く構えたそのたたずまいもあって、セダンにもかかわらず一見してかなり“ワル”な雰囲気を醸し出すRS 3で走り始める。
と、実はまず印象に残ったのは、そんな見た目とのギャップが大きい乗り心地。ストローク感は大きくはないし、路面のシャープな凹凸に対して前後逆異サイズの19インチシューズが拾う強めの“アタリ”もそれなりにはあるのだが、サスペンションの動きそのものはスムーズで、走りのシーンによっては「しなやか」という表現すら使いたくなった。それには、今回のテスト車がオプション採用していた電子制御式可変減衰力ダンパー「RSダンピングコントロールサスペンション」の効用も大きそうだ。
7段DCTと組み合わされた最高400PSと500N・mを発するエンジンが生み出す動力性能が、シームレスで有り余るものであるのは言わずもがな。が、そんな心臓が発する魅力的な5気筒サウンドが明確に耳に届くようになるのは、およそ3500rpmから上の領域で、一瞬で終わってしまう1速2速はともかく、3速以上では速度が高くなり過ぎてこの国の道ではそれを味わえる機会がそうそうないのは無念のひとこと。ワインディングロードへと持ち込んだ際には、切るほどにレシオが速まる「RS専用プログレッシブステアリング」の威力を味わえる。だが、正直なところやはり公道上では、ユニークな前後異サイズのシューズやトルクスプリッターがもたらす効果をなかなか実感するまでには至らないというのが現実だ。
というわけで、このモデルでかつて富士スピードウェイのレーシングコースを走ったときの記憶をひも解けば、ターボ付きとはいえとても2.5リッターという排気量から生み出されているとは思えない恐怖心を覚えるほどの強烈な加速シーンや、タイトなターンでもアンダーステアの“ア”の字も示さなかった自在なコーナリングがよみがえる。
ちなみに、まっさらの新車状態で走った際に感じたオプションのセラミックブレーキが発する唐突な立ち上がりGは、オドメーターに3000km近くの数字を刻んだ今回のモデルではまったく気にならなかったこともこのテストドライブで再発見した。
レッグスペースこそ格別広くはないとはいえ大人2人が長時間をリラックスして過ごすに足るリアシートと、ドカンと広いトランクスペースも備えながら、レーシングマシンさながらの走りのポテンシャルも秘めたRS 3セダンの実力は、“スーパー万能カー”そのものと言いたくなる。
幸運にも手にした人には、ガレージにしまい込んでしまうのではなく、“走りのコレクターズカー”としてバンバン使い倒してほしいと思う最新にして最後(?)のRS 3である。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アウディRS 3セダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4540×1850×1410mm
ホイールベース:2630mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400PS(294kW)/5600-7000rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/2250-5600rpm
タイヤ:(前)265/30ZR19 93Y/(後)245/35ZR19 93Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.1km/リッター(WLTCモード)
価格:818万円/テスト車=998万円
オプション装備:コントラストルーフ<ブリリアントブラック>(9万円)/アルミホイール<5本スポークYデザイン マットブラック>(12万円)/ブラックAudi rings&ブラックスタイルパッケージ(8万円)/エクステリアミラーハウジング カーボン(12万円)/RSスポーツエキゾーストシステム(16万円)/カーボンエンジンカバー(8万円)/セラミックブレーキ<フロント>+カラードブレーキキャリパー<レッド>(75万円)/RSダンピングコントロールサスペンション(17万円)/マトリクスLEDヘッドランプ+ダイナミックターンインディケーター<フロント&リア>(12万円)+ヘッドランプウオッシャーシステム(11万円)/バング&オルフセン3Dサウンドシステム(12万円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2671km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:333.1km
使用燃料:29.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.4km/リッター(満タン法)/12.0km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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