ボルボXC40リチャージ プラス シングルモーター(FWD)
中庸なファン・トゥ・ドライブ 2022.12.17 試乗記 電気自動車(EV)が普及した先には自動車のコモディティー化が進むという声もあるが、少なくとも「ボルボXC40リチャージ」の走りにはボルボならではの味わいがある。ワインディングロードを楽しみ、思わずバッテリー残量4%まで頑張ってしまった。優秀なドライブコンピューター
ボルボXC40リチャージは、内燃機関を持たず搭載されたバッテリーとモーターのみで走るEVである。名前のとおり同社のコンパクトSUV、XC40由来の「CMA」プラットフォームを用いるが、バッテリーを敷くフロアや電気モーターを置くフロントセクションは専用設計だ。
2022年7月7日に日本での販売が開始され、前後にモーターを配した4WDの「XC40リチャージ アルティメット ツインモーター」と、リアのモーターを省いてFWD(前輪駆動)とした「XC40リチャージ プラス シングルモーター」の2種類が用意される。前者は容量78kWhのリチウムイオンバッテリーを積み、一充電走行距離は484km(WLTCモード)。後者は69kWhと502kmである。いずれもわが国の急速充電規格CHAdeMOに対応する。最新のベース価格は739万円と639万円だが、環境に優しい車種として60万円前後の各種優遇措置を受けられるはずだ。
今回の試乗車は、2輪駆動のXC40リチャージ プラス シングルモーター。一充電走行距離502kmがうたわれる同車だが、借り出し時にはバッテリー残量93%で走行可能距離が360kmだったという。単純計算で残量100%とすると387kmだから、カタログスペックの77%。いまのところ市販EVの実走行可能距離は公称値の7、8割といったところだから、XC40リチャージのそれも、これまで2500km余り使用されたうえでの電費が反映された結果として妥当な数値だろう。
ナビ画面を見ると、東京から目的地に設定した横浜市の大黒PAまで行くと、到着時の予想電気残量は68%と表示されている。驚いたことに、実際に着いて確認してみると、ピッタリ68%だった! これなら日常的に同じような交通状況下でXC40リチャージを使うオーナーにとって、頼りがいのあるドライブコンピューターになるはずだ。
日常に溶け込むEV
XC40リチャージ シングルモーターの運転感覚は、「なるほど、ボルボのエンジニアがつくったEVだ」というもの。当たり前だが。全体に穏やかで、運転者をせきたてない。
1速で固定された電気モーターは、スタンディング状態からいきなり330N・mと3リッターエンジン並みの最大トルクを発生。EVらしい力強いスタートを見せるが、その後の速度上昇は控えめだ。試しにアクセルペダルを踏んづけてフラットアウトを試みても、乗員を驚かす二次曲線的な加速は披露しない。
ツインモーターモデルでは「0-100km/h加速:4.9秒」とEVにありがちな加速自慢をしているが、2030年までにすべてのモデルのピュアEV化を宣言している自動車メーカーとしては、むしろシングルモーター版の、内燃機関車から乗り換えても違和感の少ない「日常に溶け込むEV」を強調したほうがいいんじゃないでしょうか。
一方、“近未来感”はしっかり実装している。キーを持っていればドアは自動で解錠され、シートに座ればブレーキを踏むだけでクルマ全体が起動する。つまりキーをひねったりスターターボタンを押したりすることなく「発進OK」となる。
高速道路では、ステアリングのボタンひとつで半自動運転に移行、前走車との距離を保ちつつ追走してくれる。ステアリングアシストは、カーブの最後になって「グイッ」とハンドルを切る悪癖があってあまり感心しなかったが、いまのところ「しっかりハンドルを握って自分で運転してください」ということなのだろう。
未来感というより“今っぽい”のが、最近のボルボ車がアピールしている「Google搭載」である。ナビの設定から車内の温度調整、オーディオの選択まで口頭で指示できる。試乗車は音楽配信サービスの「Spotify」を内蔵していたから、「大滝詠一が聴きたい」と言えば『君は天然色』がかかり、「中森明菜が聴きたい」と言えば『DESIRE-情熱-』がかかる。感心したのが「久保田早紀が聴きたい」とお願いしたときで、「久米小百合ですね」と結婚後の名前で答えてから『異邦人』がかかった。拍手。
とはいえ、「それらはGoogleやSpotifyの機能であって、XC40リチャージの性能とは関係ないのでは?」という読者の声がいずこからか聞こえてくるので、横浜での取材を終えた後、XC40リチャージで箱根を目指した。
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峠道を楽しめる
アネスト岩田ターンパイク箱根の入り口に到着した時点でのバッテリー残量は41%。推定EVレンジは170km(「100から190kmまでの幅がある」と表示される)。
いざハコネの急坂を元気よく駆け上がっていくと、推定EVレンジの数字がつるべ落としに減っていく。まさにガソリンならぬ電気をまき散らしながら上っていく感じだ。
13.7kmを疾走して大観山の頂上に到着すると、残電量は26%、走行可能距離は70kmに減っていた。通常の7倍強(!)の電力を消費してしまった計算だ。「EVレンジアシスタント」の画面では、「速度」「走行スタイル」「クライメートコントロール」のうち、走行スタイルに警告のオレンジ色が表示され、運転者は反省する。
個人的な「いつもの試乗コース」に倣い、芦ノ湖・箱根スカイラインを経由して、御殿場から東京へ戻るコースをとる。意外にも、というのは失礼だが、ボルボのピュアEVで峠道を走るのは楽しい経験だった。細かいつづら折りでは、その揺り返しで2t級ボディーの重量を感じさせるが、カーブでの傾きは漸進的で、しっかり接地感もある。ステアリングを切れば期待どおりのラインをたどってくれる。
車検証を確認すると、車軸重量は前が1090kg、後ろが910kg。FWDのSUVとして良好なバランスだ。加えて、履いていたのが「ピレリPゼロ」と、いわゆるエコタイヤでなかったことが、XC40リチャージの運転感覚に好影響を与えたのだろう。退屈ではないけれど、シャープにすぎない中庸なファン・トゥ・ドライブ。それがまたボルボの電気自動車らしい。
スマートフォン化が止まらない
そんな好印象を抱きながら、しかしセンタースクリーンには「充電低下」の警告メッセージ。残電力量は12%で、走行(可能)距離は24kmと表示される。ボルボのEVは、乗員が求めれば最寄りの充電候補地をいくつか挙げてくれるのはもちろん、ナビで目的地を設定すると、必要な場合はルート上の最適な充電スポットを教えてくれる。
GoogleとSpotifyの連携同様、個々の機能に目新しさはないけれど、有機的に他のソフトウエアと組み合わされると有用性がグッと増す。仮にものぐさなユーザーがXC40リチャージを購入したとしても、出発前にドライブコースに沿った充電計画を練らなくてもなんとかなりそうだ。
候補のスタンドをピックアップすると、簡易的ながら設置された充電器の出力や周辺施設の有無、つまり充電中に時間つぶしできるかまで知ることができる。なろうことなら、次のステップとして、これから行こうとしている充電器が現在使用中か否かを明示してほしい。ほどほどの性能を持った充電器の数は限られるうえ、今後、急速充電を求めるEVの台数も増えるだろうから。期待したい。
御殿場プレミアムアウトレットの駐車場で30分間充電して、残電力量23%、走行可能距離は60kmまで回復した。東京都渋谷区にあるwebCG編集部までは95km。「海老名SAで再度急速充電か」と覚悟して帰路についたら、奇跡が起きた!? 走行するにしたがってバッテリー残電量のパーセンテージは少しずつ減っていくのだが、走行可能距離は60kmのまま変わらない。それどころか区間によっては65kmに増加することもある。
そのことは、逆説的にEVにとって天下の険がいかに厳しかったかを示している。2t級の重いボディーを運んで山岳路を行くのは大変なことなのだ。その際の極度に悪化した電費で急速充電後のデータを算出していたので、EVに優しい環境になってからの補正が加わると、いつまでたっても走行可能距離が変わらないわけだ。
標高の高い御殿場から東京へは大局的には長い下り坂になっているうえ、80km/h前後と適度に流れていた交通事情が電費によかったのだろう。なんと35kmのビハインド(!?)を覆して、もう1回の急速充電を施さずとも、webCG編集部に戻ることができた。残電量は4%、走行可能距離は19kmになっていた。
ソフトウエアの進化とシームレスな連携の重要性。使い方によって大きく変わるバッテリー消費量。「これからの電気自動車の時代は、クルマが電動化されるのではなく、スマホが人を乗せて走るようになるのだ」と説明されることがあるが、「なるほど、こういうことか」と、いまさらながら実感したボルボXC40リチャージの試乗だった。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ボルボXC40リチャージ プラス シングルモーター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4440×1875×1650mm
ホイールベース:2700mm
車重:2000kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:231PS(170kW)/4919-1万1000rpm
最大トルク:330N・m(33.7kgf・m)/0-4919rpm
タイヤ:(前)235/50R19 103V XL/(後)255/45R19 104V XL(ピレリPゼロELECT)
一充電走行距離:502km(WLTCモード)
交流電力量消費率:159Wh/km
価格:579万円/テスト車=607万3000円
オプション装備:ボディーカラー<フィヨルドブルーメタリック>(8万5000円) ※以下、販売店オプション ルーフスポイラー(6万6000円)/ボルボ・ドライブレコーダー アドバンス<フロント&リアセット>(13万2000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2600km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:380.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.0km/kWh(車載電費計計測値)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。