EVでもクルマの個性は出せるのか?

2023.01.16 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉

他業種までが市場に参入するEV時代になると、従来のようなエンジン車とは異なり、EVでブランドの個性や特徴を出すことは難しいのでは? ともいわれています。果たして本当でしょうか? EVでもブランドの個性や自動車メーカーの強みを出すことは可能なのでしょうか? 違いはあっても限られますか?

結論から言うと、十分可能だと思います。

これまでは“エンジンの味わい”みたいなものがクルマの個性として大事でしたが、EV時代・モーター時代になると、それ以外のこと……つまり、パッケージや乗員の配置といったことがクルマの個性になってくるのです。

いままでは物理的に、車体に対するエンジンルームの占める割合が大きいために、エンジン以外のことではなかなか個性が出せなかったという面が現実にあります。結果として、自動車メーカーの側も、製品については(存在感のある)エンジンの優位性をアピールする傾向にあったというのも事実です。

しかし、エンジンルームが大きいというのは、道具としての自動車を考えるとき、ユーザーにとってあまり空間的なメリットはないともいえます。

いまはまだ過渡期ですから、(従来のエンジンルームにモーターを搭載するなど)ガソリンエンジン車の名残がありますが、本格的なEV時代になれば、クルマのデザインやパッケージングは根底から大きく変わるはず。ステアリングホイールだって、今のような丸いハンドルである必要はない。パワーユニットだけの個性のハナシではなくて、もっと根本的なところから個性の出し方が変わるでしょう。

その意味で今後は、インテリアのメーカーが提案するコンセプトカーにも注目するといいですよ。これまでは「あくまでコンセプト」と思っていたような極めて未来的なものが、ポンと現実になったり。クルマは、まだまだ変わりますよ。

もちろん、パワーユニット=モーターのチューニングでもクルマの性能・個性は大きく変わるのですが、それについては、また別の機会に話しましょう。

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。