アウディQ4スポーツバック40 e-tronアドバンスト(RWD)
今までとは違う 2023.01.27 試乗記 いよいよ日本の道を走りだした、アウディの新たな電気自動車(EV)「Q4 e-tron/Q4スポーツバックe-tron」。その走りは、従来のアウディ製EVとはどこか違うものだった。フォーシルバーリングスのEV拡販の旗手を担う、ニューモデルの実力を報告する。名前を見ればクルマの素性が分かる
名は体を表すというフレーズのとおり、ネーミングがすばりその立ち位置を示しているのがQ4 e-tron/Q4スポーツバックe-tronというアウディのブランニューモデルである。
日本では2022年秋に発売されたこの2台は、頭の“Q”の記号がこのブランドのSUVラインナップに属することを示す。またかつてプラグインハイブリッドモデルにも与えられていたe-tronの名称は、あちら側が車名末尾の“e”ひと文字で表されるようになったことで、ピュアなEV“だけ”を示すことが明確となった。
そのうえで、エンジン搭載車の「Q3」と「Q5」の間に割って入る“Q4”を名乗ることで、おおよそのサイズ感もつかむことができる。実際4590×1865mmという全長と全幅は、まさに“3”と“5”の間にストンとおさまる数値。ちなみに、このところのアウディQシリーズの流儀に従って、このモデルにもオーセンティックなSUVプロポーションの持ち主と、“スポーツバック”の名が冠されたより流麗なルーフラインを備える2タイプのボディーが用意される。今回ここに紹介するのは、その後者となる。
現在のところ、搭載するランニングコンポーネンツは1種類のみで、一部の競合モデルに見られるように、駆動用バッテリーの容量やモーター出力が異なる複数の仕様が設定されていたりはしない。
さらに、アウディのネーミングルールに詳しい人ならばお気づきかもしれないが、“クワトロ”の記載がないこのモデルは2輪駆動で、しかもその駆動輪は、このブランドでは例外的な“後ろ”となる。ただし、実はヨーロッパ市場に向けては前後2基のモーターで4輪を駆動するクワトロがローンチ済みなので、いずれ日本にも導入されるかもしれない。
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アウディEV製品群のエントリーモデル
エクステリアのデザインは押し出し感に富んだ大きなシングルフレームを備えつつも、実はそれは開口部を伴っていなかったり、全長に対してホイールベースの割合が長めであったりと、子細に眺めればピュアEVならではと思えるいくつかの特徴を指摘することができる。それでもうっかりしていると、全体から醸し出される雰囲気は「これってエンジンは何気筒?」などと間抜けな質問を投げかけてしまいそうになる仕上がりだ。
ことさらにEVであることを誇示しないSUVとして常識的なたたずまいを備えるのは、EVが黎明(れいめい)期から成長期へと移りつつあることを、視覚的にも明確に示したいという思いも含まれているのかもしれない。少なくとも、「EVでないと不可能なデザイン」と言われたとしても、それにはちょっと納得し難い印象だ。
インテリアに目を移しても同様で、上下をつぶした形状のステアリングホイールに一瞬奇異な印象を受けるものの、その他全般は、むしろ昨今のアウディ車としては常識的と思えるデザインだ。加えて、「e-tron」や「e-tron GT」といった既存のEV専用モデルに比べると、例えばドアトリムの一部分にハードパッド素材が使われていたりして、先達(せんだつ)が実現していた圧倒的プレミアム感が薄れているのも見て取れる。そもそも、今回テストしたモデルも高価といえば高価には違いないが、それでも1000万円をはるかに超えるプライスタグを掲げていたe-tronやe-tron GTに対し、こちらは3ケタ万円に収まっている。
アウディ自身は「プレミアムコンパクトSUV」というフレーズで紹介するものの、その立ち位置はあくまでラインナップ内のエントリーEVである。「全然コンパクトじゃないじゃない」と思わずつぶやきたくなるそのサイズも含め、うたい文句をさかさまに捉えるのがこのモデルの正しい解釈だろう。
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先達のような圧倒的な特別感は……
室内長は兄貴分にあたるQ5のそれを上回り、後席レッグスペースではフラッグシップSUVである「Q7」の数値をもしのぐ……と、ピュアEV向けに専用設計された骨格による空間効率の高さが報じられるこのモデル。わずかにフロアの高さを感じ、そのぶん座席のヒール段差は小さめという印象も受けはするものの、確かに後席着座時の足もとには大きなゆとりがある。計測法の影響もありそうだが、ルーフラインの後ろ下がり度がより強いにもかかわらず、ラゲッジスペースの容量はベースボディー比で15リッター増しの535リッターをうたう。センタートンネルの膨らみが皆無である点ももちろん、専用骨格ゆえのメリットだろう。
2.1tという重量に対して204PS(150kW)という最高出力からも予想がつくように、このモデルの絶対的な加速は、一部のEVが売り物とするような“爆速”ではない。それでも、0-100km/h加速は8.5秒でこなすというから、普段使いでは十分すぎるほどの俊足だ。
ピュアEVゆえ、たとえそんな全力加速のシーンでも静粛性が高いことは間違いないが、ちょっと気になったのは、レギュレーションで定められた「車両接近通報装置」が発する明確にノイズと解釈できるサウンド。30km/hまでの速度域で耳に届くこの音は、本来車内で聞こえる必要はないものだが、ボリュームが大きいのか音質的な問題か、他のEVでは経験がないほどに耳障りに感じられたのが残念だ。同時に、昨今静粛性にたけたEVに出合う機会が多く期待値が高かったということもあるが、最新のEVとしてはロードノイズがやや目立ったことも加えておきたい。
また、ハンドリングの感覚は素直で過大なロールも伴わないなど、走りという点ではなかなかの好印象だった一方、路面によっては時に揺すられ感が目立ってフラットさに欠けることもあるなど、乗り味の上質さという観点では格別に高い得点を与える気にはなれなかった。
端的に言えば、そうした走りや乗り味の感覚は、EV専用に開発された「MEB」(Modularen E-Antriebs-Baukasten)と称されるボディー骨格を共有する、フォルクスワーゲンの「ID.4」と酷似した印象を受けた。そしてこれもまた、前述したこのブランド発の既存のEVとは、ちょっと異なるテイストだと思える部分であった。
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充電ネットワークに見るアドバンテージ
ところで、EVの試乗記ではどうしても触れておかなければならないのが充電インフラの問題。特に、初代「日産リーフ」のローンチに合わせ、世界に先駆けてスタートを切ったこの国の経路充電のインフラは、むしろそれが災いするカタチとなって昨今では老朽化や充電出力の小ささがネックになっている。
なかでも、航続距離の不安解消を大容量バッテリーの搭載という力業に託したモデルが多い輸入EVの場合、これは特に切実な問題である。だからこそ、補助金などに頼ることなく独自の大出力充電網の構築を進めたテスラ車の使い勝手が優れ、実際にそれが大きな支持を得る一因となっていることは否定のしようがない。
一方、同じグループに属するメリットを生かし、そのテスラに次ぐインフラ網の構築を急ぐのがフォルクスワーゲン系の3ブランド、すなわち、このアウディとポルシェ、そしてフォルクスワーゲンだ。アウディとポルシェがディーラーや都市部で展開する90~150kW級のCHAdeMO急速充電器ネットワークを統合し、相互利用できるようにした「プレミアムチャージングアライアンス」は、ID.4の発売を機にフォルクスワーゲンブランドも加わったことで、さらに規模を拡大している。
直近では、EVを扱うアウディe-tron店に52基の150kW急速充電器の整備を予定どおり完了させ、さらに2023年には、既存の50~90kW充電器を150kW充電器に置き換えて全国合計102基にすることも表明。そもそも2022年12月現在で、全国合計218基の独自に整備した経路充電のインフラが使えるようになっているのは、大きな見どころだ。
確かに、日本最大の充電ネットワークを持つe-モビリティパワーの出資者に、フォルクスワーゲンを含む輸入車メーカーの名がないことを思えば、(テスラですらそうであるように)彼らもまた、特に必要と思われる高速道路上に独自の充電器を置くのは当分期待薄だろう。まだ問題山積なのは事実だ。それでも、EVは充電インフラがあって初めて使いものになるという当たり前のポイントに目を向ければ、日本では「独自の充電インフラ網構築」といった話題が一向に聞こえてこないメルセデス・ベンツやBMWといったライバル勢に対し、大きなアドバンテージを持つことは間違いないといえるだろう。
(文=河村康彦/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アウディQ4スポーツバック40 e-tronアドバンスト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4590×1865×1630mm
ホイールベース:2765mm
車重:2100kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)/--rpm
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)235/55R19 100T/(後)255/50R19 103T(ハンコック・ヴェンタスS1エボ3 EV)
交流電力量消費率:145Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:594km(WLTCモード)
価格:688万円(※)/テスト車=713万円
オプション装備:ボディーカラー<フロレットシルバーM>(8万円)/アドバンストインテリアプラスパッケージ(17万円)
※アウディQ4スポーツバックe-tronの価格は、日本導入当初はアドバンストが688万円、Sラインが716万円だったが、後の価格改定で前者が709万円。後者が737万円となった。今回の試乗車は価格改定前のモデルである。
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1947km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:247.6km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:5.6km/kWh(車載電費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。